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115 命を選ぶことはできますか?

 それにしても………やっぱり気になる。ダフネって誰?


「ディエゴ。ダフネって誰?」


「ディエゴ殿、もしかして、王宮内に内通者がいるのか?その者に、妻子を逃がしてもらうことはできないか!?」


 わたしの言葉にハッとしたガンフィが、すがるような目をディエゴに向けた。


「ダフネは、私共の仲間です。エル様にはご紹介いたしませんでしたが、あのとき、蘇った者がもう1名いたのです」


「ということは、ダフネはゴーレム?」


「はい。隠密を得意としており、ガンフィの話を聞いてすぐに送り込みました」


「では!そのダフネ殿に、妻子を守ってもらうことはできないだろうか?」


「ちょっとガンフィ落ち着いて?」


 子供のわたしに言われて、ガンフィは「ぐうっ」と唸った。拳に力を入れ、叫びたいのを堪えているように見える。


「ディエゴ。ここからハノーヴァー国の王都まで距離があるよね?ダフネはどうやって移動したの?それに、ゴーレムなのは一目でわかるでしょ。どうやって情報収集を行っているの?」


「ダフネは影移動が使えます。影の世界は息ができませんが、私共は息をしませんので問題ありません」


 影移動?影の中を移動するのかな?すごいね!


「それに、いまは私共もこのような姿ですが、本来は人と変わりない姿なのですよ」


「え?どういうこと?」


「いまは力が足りず、被膜を纏うことができませんが。ダフネはその役目の性質から、身に着けた機能の中でも被膜を纏うことを優先しました。………このように」


 ディエゴがそう言った直後、ディエゴの頭頂部から金色の髪が生え、顔を肌が覆い、その姿は人と変わりないものになった。年の頃は40歳前後の、落ち着いた雰囲気のイケオジだった。


 差し出された手に触れてみるも、その感触は人と変わりない。温かな感触があった。


 けれど、次の瞬間にはその姿は消え、いつもの灰色の姿になっていた。ちょっと残念。


「人間の姿を維持することは難しいの?」


「難しくはありませんが、いまは余計に魔素を消費するのでいたしません。壊れた内部機能が回復しましたら、また、ご覧に入れようと思います」


 そっか。造られて何百年と経っているんだから、壊れている部分もあるよね。それを直せるってことは、自己修復機能があるってこと?そんなすごいゴーレムを造れた魔法使い達は、どうして滅んでしまったんだろう?謎だ。


「話は戻りますが、ダフネは隠密に専念するため、戦闘に関する能力の回復を後回しにしております。ですから、ダフネが守れるのはせいぜいひとり。ガンフィに、その命を選ぶことはできますか?」


「「!!」」


 なんて残酷な質問だろう。


 命を選べだなんて………。


 ガンフィは青い顔をして、ディエゴを見つめている。


 ラーシュは、そんなガンフィにかける言葉を探しているように見える。


「選べないでしょう。あなたはそういう人です。ですから、私から提案がございます」


「………提案だと?」


「ガノンドロフ王子、あなたの命を私に預けませんか?」


 そう言ったとき、ディエゴは暗い笑みを浮かべていた。なにを企んでいるのかわからないけれど、碌なことではない。そう思わせる笑みだった。


「俺ひとりの命で家族が助かるなら、いくらでも預けよう!」


 立ち上がったガンフィを、ラーシュが押さえた。


「いけません、殿下!殿下のお命が失われては、残されたロゼリア妃やお子達が悲しみます!それに、ハノーヴァー国はどうなりますか!」


「ふふふ。言質は取りました。エル様にはお目汚しとなりますが、時間がありません。ここで失礼します」


 ディエゴは素早く動いてガンフィの左腕を掴むと、その手首に噛みついた。


「なにをする!やめろ!」


 ラーシュがディエゴを引き離そうとするけれど、ディエゴの力は強く、とても引き離せるものではない。


 ドンッ!


 ディエゴの腕の一振りで、ラーシュが吹き飛ばされて控えていたユルドに捕まった。ユルドはそのままラーシュの腕を後ろ手に捕らえ、動けなくしてしまった。


 ラーシュは騎士団長だけれど、ユルドの力には適わないらしく身動きがとれないでいる。


「離せ!くそっ。なんだって、こんなことをするんだ!」


 喚くラーシュとは対象的に、ガンフィは自らの身体から血が失われていくのをじっと耐えている。その身体がふらついて、ソファに座り込んだところでようやくディエゴが口を離した。


 ディエゴの口にはガンフィの赤い血が付いていて、それを舌で舐め取った様子は、話に聞いた吸血鬼のようだった。


「ユルド。ラーシュを解放してください。それから、私が戻るまで、私の権限をあなたに預けます」


「承知しました」


 解放されたラーシュがガンフィに駆け寄り、その顔を覗き込んだ。すっかり血の気がなくなって、畑で見つけたときみたいになっている。


 わたしはテーブルを周ってガンフィの傍に行き、その腕の傷を魔法で癒やした。


 そしてディエゴを見上げると、その顔は普段のディエゴでも、先ほどのイケオジでもなく、ガンフィの顔だった。




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