113 サプライズ失敗
「それにしても。せっかくエル様に喜んでいただこうと贈り物の準備をしていたのに、バーナビーがバラしてしまうからサプライズにならなかったではありませんか」
あ、サプライズ?驚かせようとしてくれたの?
ディエゴがバーナビーを睨みつけ、バーナビーは申し訳なさそうに肩を落とした。
「エル様」
「うわっ、は、はい!」
「そういうわけで、エル様には訓練用と護身用のナイフ2本をご用意させていただきます。折を見て、ヴィルヘルムがナイフの扱いをご指導申し上げますので、よろしくお願いいたします」
「う、うん。よろしく?」
なぜわたしが習うのがナイフなのか、そらは聞かなくてもわかる。わたしの身体では大きな武器を振り回すことができない。護身用として持っていてもおかしくないのがナイフだけだからだ。
でも、わたしはナイフを習う必要があるかな?敵が現れても、クロムやギベルシェン、ランベルがいるし、いまはゴーレムの皆もいる。なんなら、アーヴァグレタだって戦える。大抵の魔物や人間は、彼らの相手にならないと思う。
わたしが鍛える必要、ある?
「それでは、そろそろ燻製小屋を建てましょうか」
「あ、そうだね」
いまはナイフより、燻製小屋のほうが大事。
バーナビーに燻製小屋の作りを教えてもらって、建物を建てていった。
燻製をするには火を使う。だから、火を使う部分はバーナビーが鉄や銅を使って鉄板を作り、必要な箇所に貼り付けてくれた。
これで、燻製をしても建物が燃えることはない。安心だね。
燻製小屋から出て来ると、そこにはリーナと2人の村人がいた。どうしたんだろう?新しい建物を建てたから、気になって見に来たのかな?
でも、ちょうどいい。リーナに話があったんだよね。
「リーナ!もう身体は大丈夫?動いて辛くない?」
「はい、エル様。もう、なんともありません。健康そのものです」
「リーナだけじゃありませんよ。村中の者が健康になって、もう信じられないくらい元気ですよ」
「年寄り連中も10歳は若返ったみたいで、子供達を連れて元気に畑仕事に行きました」
リーナに話しかけたのに、他の村人も話しかけてきた。その表情は晴れ晴れとしていて、活気に満ちている。とても楽しそうだ。
「立派な家も建ててもらって………本当に、エル様には感謝してもしきれません」
「これまでの態度をお詫びします。申し訳ありませんでした」
「「「申し訳ありませんでした!」」」
「!?」
突然、一斉に頭を下げてくる村人。
ビクッとして一歩後ろへ下がると、代わりにディエゴが前に出た。
「その調子で、エル様を崇め称えるがいいでしょう」
「もう、なに言ってるの!」
慌ててディエゴの服を引っ張ったけれど、相手はゴーレム。それくらいではびくともしない。
仕方ないので、わたしはディエゴより前に出た。
「あのね。リーナに話があったの」
「私にですか?なんでしょう?エル様のご命令なら、なんでもしますよ」
「そうじゃなくて。ダグから手紙が来たの」
「え!ダグから!?」
そりゃ驚くよね。
転移の魔法陣があるから、いまはすぐに手紙のやり取りができるけど。それでも、昨日、連絡したばかりで、今日、返事が来るなんて驚きだよね。
「ダグは次の商隊と一緒に帰って来るって」
「あの人に会えるんですね!嬉しい!」
そう言って、リーナは泣き出してしまった。
「リーナ、よかったね」
「カイトも喜ぶよ」
リーナの肩や背中をバンバン叩きながら、自分のことのように喜ぶ村人。
リーナは痛そうだけど、嬉しそうに涙を拭っている。
「あ、カイトの具合はどう?」
「おかげさまで、あの子もすっかり元気になりました。いまは、他の子供達と畑に出ています」
「畑って、村の外周に作った畑のこと?あそこは結界の外だよ。子供が行って大丈夫?」
「はい。ランベル様のおかげで、村には魔物が近づきませんから」
「そういえば。ディエゴが、ランベルは村の周囲を自分の縄張りだと主張しているって言ってたね」
「ええ。黒の森で、ランベル様は上位に位置します。下位の魔物はランベル様を恐れて近づきませんし、上位の魔物はクロム様の気配を察知して近づきません」
「これも、エル様が村に来てくださったおかげです。ありがとうございます」
リーナが深々と頭を下げ、他の2名もそれに続いた。
ふと、リーナ達が着ているボロボロの服が気になった。継ぎ接ぎだらけで、痛みが激しい。
これまで生きるのに必死で、そこまで服にこだわる余裕がなかったんだろうね。
「ねえディエゴ。リーナ達の服、用意してあげられないかな」
「エル様のご要望とあれば」
それはつまり、リーナ達の服を用意してくれるってことだよね?
「ディエゴありがとう!リーナ、ディエゴが服を用意してくれるって!」
「「「え?」」」
なにを言われたのかわからないのか、ポカンとしているリーナ達。
「ディエゴ。もちろん、村人全員分の服を用意してくれるんだよね?」
「もちろんです。個人だけに与えれば、差別と捉えられかねませんからね」