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112 訓練用ナイフ、護身用ナイフ

 男達がグラタンに夢中になっている間に、わたしはディエゴと午後の予定について確認することにする。


「ディエゴ、午後の予定だけど………」


「はい、エル様。午後は、まず燻製小屋を建てていただきます」


「うん。バーナビーと相談しながら建てるね」


「それから、リングス商会経由でダグから手紙が届いております」


「え、もう返事が来たの!?」


 ダグは、カイトの治療費を稼ぐためにアルトーの街へ出稼ぎに行っている父親だよ。ディエゴがリーナの伝言をルオーへ伝えてくれてから、まだ1日も経っていない。こんなにすぐ返事が来るとは思わなかったよ。


 さすが情報ギルド『月影』の情報力と、ルオーの行動力ってところかな。


「次に行商人がアルトーの街を出発する際に、行商人に同行して村へ帰って来るそうです」


 村へ来る行商人と言うと、小型犬の獣人トリーとケシー、それからロバのクーだね。


 クーは大人しくて可愛いんだよ。早く会いたいな。


 いまごろ、トリー達は黒の森をアルトーの街は向かって移動している最中だ。会えるのは、またまだ先になる。


「ということは、ダグが村に到着するのは約1か月半ほど先だね」


「そうなりますね」


 ちょっと時間がかかるけど、ダグもひとりで黒の森を抜けるより、旅慣れたトリー達と一緒のほうが安全だし、しかたないな。


「リーナとカイトに教えてあげたら、きっと喜ぶね」


「そうですね。そろそろ参りましょうか」


「うん」


 わたしはディエゴに手伝ってもらって椅子から降りると、クロムの傍へ行った。出掛ける前に挨拶しないとね。


「クロム、行ってくるね」


「ああ、行って来い」


 そう言って、クロムはわたしの頭を優しく撫でてくれた。ふふ、気持ちいい。


 えへへ、と笑うと、クロムもフッと笑ってくれた。なんだか、くすぐったいような気分になった。


 それからわたしは、ディエゴと食堂を出た。玄関に向かうと、そこには直立不動のバーナビーがいた。


 バーナビーは私を見ると、ガバっと頭を下げた。なんで?


「エル様、先ほどは申し訳ありませんでした!」


「え、なに?」


「エル様の涙を見て、ハッとしました。俺はエル様のために存在するのに、エル様を傷つけるなんてとんでもないことをしました」


 あ、さっきの屋根裏部屋でのことをまだ気にしてるの?


「バーナビー、もう気にしなくていいよ。わたしが過剰に反応しちゃっただけだから、ね?ほら、燻製小屋を作るから、どんな風に作ればいいか教えてくれる?」


 バーナビーに近寄り、その手を握った。バーナビーの身体がびくりと震えた。


「あ………あの………はい!わかりました!わかりましたから、手を離してください!」


 やたら動揺するバーナビー。これが人間だったら、汗を流していそう。


 手を離すと、バーナビーはぎこちない動きで玄関を出た。わたしとディエゴのために、扉を押さえてくれている。


「ど、どうぞ」


「ありがとう」


 笑顔を向けると、やっぱり視線を逸らされた。


「………」


 照れているだけとわかっているけれど、複雑な気持ちになる。


 屋敷の外へ出ると、村人が楽しそうに引っ越し作業をしている様子が見えた。もう、腰の曲がった老人の姿や、具合の悪そうな人の姿はない。大人も子供も和気あいあいと、協力しながら家具や物を運んでいる。

 

 さすが獣人と言うべきか。重そうな棚やベッドなども、軽々と運んでいる。


 解体小屋を覗くと、すでに今日の作業は終了したらしく、綺麗に片付けられていた。


 隣の加工小屋からは、賑やかな話し声が聞こえてくる。


「解体は午前中の間に済ませ、午後からは加工を行うようにいたしました」


 と、ディエゴが教えてくれた。


「うん。それでいいと思う。獲物はアイテムボックスに入れておけば傷まないから、うまく調整してあげて」


「はい。保管している獲物がなくなれば、ヴィルヘルム達に狩りに行かせます」


「それはいいけど。ヴィルヘルム達は武器を持ってるの?素手で魔物を狩るの?」


「武器はあるのですが、性能がよすぎるので人前には出せません。普段は、リングス商会から仕入れた武器を使わせる予定です」


「そうなんだ。ルオーのところで武器を買ったんだね」


 騎士だし、やっぱり使うのは無難に剣かな?


「そのことで、ディエゴ様に確認したいことがあるんだけど………」


 バーナビーが話に割り込んできたので、おや?と思った。なにか、大事な話なのかな?


「なんですか?バーナビー」


「エル様の護身用ナイフを注文していますよね?」


「え?」


 いま、わたしのナイフって言った?なんでそんな物を注文したの?それはわたしも気になるよ!


「エル様が使用される物なら、最高の物を用意するべきではないですか?」


「いいですか、バーナビー。注文したのは、エル様の訓練用ナイフです。護身用ナイフは、もちろん最高の物をご用意いたします」


 わたしは、何も聞いてないんだけど?


「わかりました」


 いやいやいや。バーナビー、わたしは納得できないんだけど!?







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