111 熱々のグラタン
まずは、広場の周りの空き地に長の家を建てる。村の中心で1等地、安全な場所だからね。
そして、いずれ店となる予定の建物を建てた。
昨日、魔力過多の作物を食べた村人は全員健康体になった。ディエゴはそんな村人達に仕事を割り振り、仕事量や内容に応じて対価を払うと約束したらしい。
これまで物々交換が主流だったこの村でも、お金が使えるようになるの。
お金があれば買い物がしたくなる。つまり、お店が必要となるっていうこと!
でも残念なことに、この村で読み書き、計算ができるのは長とオイクスしかいない。
いくらなんでも、長に店番をさせるわけにはいかないよね。
だからって、あの態度の悪いオイクスに店番をさせて、それでお客さんが来るのかわからない。
だから、誰にお店を任せるかは保留なの。
「さあ、エル様。次はここに家を建ててください」
「はーい」
ディエゴの指示の元、わたしは次々に家を建てていく。
いまの村は一家族の人数も少なく、全員で82名しかいない。それでも、村の状況が改善されたとなれば、村へ戻って来る人がいるかもしれない。それを見越して、家はすべて2階建ての6人は住める大きさにした。
長の家はもう少し大きいけれど、他はすべて同じ造りの家にしたおかげで建築はスムーズに進む。
ところで。前はひょろひょろの作物しか植わってなかった村の畑だけれど。畑は作物が育ちやすい結界の外に作ることにしたそうだ。
結界の中でも長の一族が血を使えば作物を育てられるけれど、長とオイクスのふたりでそれをするのは身体への負担が大き過ぎるという結論に至ったらしい。
というわけで、村の外周の木を除けて畑を作ってあげた。
そこまでやってお昼になったので、わたしはディエゴと屋敷に戻って来た。
まっすぐ食堂へ行くと、皆がわたしを待っていてくれた。クロムとガンフィ、ラーシュは席につき、ユルド達メイドは壁を背に立っていた。
「バーナビーとヴィルヘルム達は?」
「部屋作りをしております」
ユルドが答えてくれて、メイド達に給仕を始めるように指示を出した。
運ばれて来たのは、湯気を立てるグラタン!
ユルドは、わたしが言った通りのグラタンを完璧に再現してくれていた。しかも、グラタン皿まで用意してくれていて、大皿ではなく、ひとり分づつ配られた。
「これは?」
「初めて見るな」
「熱そうだ」
クロム達がグラタンを見て不思議そうにしている。
うんうん。確かにグツグツしていて熱そうだよね。オーブンから出したばっかりみたい。上に乗せたチーズが溶けて、ドロリとしている。焦げているところも美味しそうだ。
「こちらは、エル様ご要望のグラタンと申します」
「また新しい料理を作ったのか」
「わたしが作ったんじゃないよ?ユルドに作り方を伝えて、ユルドに作ってもらったの」
「それでも大したものだ」
褒められて嬉しい。自然と笑顔になった。
「さあ、熱いうちにお召し上がりください」
ユルドに声かけされて、全員でグラタンにスプーンを差し入れた。
スプーンを持ち上げると、ホワイトソースとリボン型パスタが持ち上がる。
「これは?」
「ガンフィ。それはパスタだよ」
「パスタとは?初めて聞きました」
「え、パスタを知らないの!?」
驚くわたしとは対象的に、ガンフィとラーシュはキョトンとしている。ふざけているわけではなさそうだ。
「パスタは、小麦粉と卵を混ぜて薄い生地にして、食べやすい形に切って茹でたものだよ。麺にもなるし、こんなリボン型にもなるの。生のままでもいいけど、乾燥させておけば日持ちする保存食になるんだよ」
「これが、保存食になる………と?」
「そうだよ。冬の寒い時期にしっかり乾燥させれば、半年から1年は保つはずだよ」
「そんなにか!?いや、そんなに保つものなのですか?」
急に口調が荒くなったラーシュが、慌てて言い直した。
「うん。水分が抜けてカラカラになれば、日持ちするよ。水分を含んだ生の状態だと2〜3が限度だけどね。それより、早く食べてね」
「そ、そうですな!」
見れば、話している間にグラタンは少し冷めていた。アツアツ言いながら食べるのもいいけれど、このくらいなら口の中を火傷せずに食べられていいかもしれない。
わたしは、スプーンをぱくりっと口に入れた。
「ん〜〜、美味しい!」
ホワイトソースはコクがあってバターの風味が生きている。パスタも溶けたチーズも美味しい。完璧なハーモニー!
添えられている丸パンをちぎり、パンでグラタンをすくって食べるのも美味しい。
「「「!!」」」
気配を感じてテーブルを見回せば、わたしの手元を見て残念そうな顔をしている男達が3人。それぞれのグラタン皿は空っぽで、パンですくって食べることはできない。ふふっ。がっつきすぎたね?
しょんぽり肩を落とす男達。
ところがメイド達が新しいグラタン皿を運んで来てくれたおかげで、その顔は喜びに輝いた。