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11 アルトーの街

 アルトーの街の入口は、街をぐるりと囲んだ壁の南側にあった。近づくにつれて荷馬車に乗ったを商人や旅人、武器を携帯した冒険者と思われる人々が増えてきた。ヒト族と獣人は見かけるけど、いまのところエルフとドワーフは見かけない。


 街の入口には閉じられたままの大きな門と、人々が出入りする小さい門があった。小さいといっても、荷馬車が通り抜けられる大きさはある。


 行列ができていて、わたし達もそこに並ぶ。見ていると、兵士がいて人々にアルトーの街に来た理由や身分証について訪ねている。身分証がない人は、お金を払っているようだ。入街料かな。


 しばらく待って順番が来た。


「アルトーの街へ来た理由は?」


「はい。商売のためです、僕はリングス商会のトリーで、こっちは護衛のクロムと見習いのエルです。ふたりの身分証はないので、僕がお金を払いますね。銅貨8枚です。確認してください」


 行列に並ぶ前に打ち合わせしておいたこと、トリーがスラスラとしゃべっていく。

 

 兵士はトリーの身分証を確認し、お金を受け取ってくれた。


「よし、いいだろう。さあ通れ」


「ありがとうございます」


 そうして門を通り過ぎ、アルトーの街に入った。中は大きな建物がずらりと並んでいて、通りは大勢の人で賑わっている。


「こんなに人がいるなんてすごいね」


「王都はもっと賑やかですよ。さあ、リングス商会はこっちです」


 そう言って、トリーは歩き出した。


 もっと色々見たいけど、トリーを見失うわけにはいかない。クロムに抱き上げてもらい、あとを追った。


 リングス商会は、思ったより大きな建物だった。敷地も広い。街の出入口に近い場所の大通りに面して建つ3階建ての建物で、人がひっきりなしに出入りしている。


 トリーについて店の中に入っていくと、すぐにひとりの犬獣人がトリーに気づいて話しかけてきた。


「トリーじゃないか。もう戻ったのか?ケシーとクーは一緒じゃないのか?」


「あ、はい、そうなんです。緊急の用件で、ルオー様にご紹介したい方をお連れしました。こちらの方を応接室にお連れするから、急いでルオー様を連れて来てくれませんか?」


 ルオー様っていうのは、このリングス商会の会長だってトリーが言っていた。会長っていうのは、商会の1番偉い人なんだって。


「ルオー様に紹介したいのって、そちらの方か?商人には見えないが、貴族様か?」


「とにかく急ぐんです。よろしくお願いしますね」


 トリーは強引に頼み込み、商会の奥へと入っていく。案内された部屋は、ゆったりとした座り心地の良さそうなソファと、足の彫り物が美しいテーブルが並んでいた。壁際には飾り棚があり、よくわからない飾り物が並んでいる。


「間もなく、ルオー様がいらっしゃると思います。それまで、ソファにかけてお休みください」


「ああ」


 クロムはわたしをソファに座らせてから、自分はわたしの隣に座った。


「飲み物はいかがですか?紅茶と水、お酒があります」


「わたし、お酒飲んでみたい!」


「だめだ!トリー、紅茶を用意しろ」


 クロムが被せ気味に注意してきて、飲み物を紅茶に決めてしまった。


 トリーは苦笑しながら部屋のドアを開けて、廊下にいる誰かに紅茶の用意を頼んでくれた。


 そしてワゴンに乗せて運ばれてきた紅茶セットを廊下でトリーが受け取り、紅茶をわたし達に配ってくれた。


「美味しいけど、もう少し甘いほうがいい………」


 始めて口にした紅茶は、わたしには少し苦かった。


「それでは、砂糖を入れてみてください。飲みやすくなりますよ」


「うん」


 砂糖壺を手に取り、砂糖をスプーン1杯紅茶に入れた。


「うん!このほうが好き」


 紅茶を楽しんでいると、ドアがノックされ「ルオー様がいらっしゃいました」と声が聞こえた。


 トリーがドアを開けると、そこには艷やかな茶色の毛並みの犬獣人がいた。派手過ぎない、質の良さそうな服を着ている。


 彼が部屋に入ってすぐ、トリーがドアを締めた。


「初めまして。私はリングス商会の会長ルオーと申します」


 ルオーがにこやかに自己紹介してくれた。いい人な気がする。


「ルオー様、お呼び立てして申し訳ありません。こちらは黒の森の主アムナート様ことクロム様と、お嬢様のエル様です」


「え………?」


 ルオーのにこやかな表情が固まる。


「混乱するのも無理はありません。ご説明いたしますので、まず、椅子におかけください」


「あ、いや、アムナート様の御前で座るなど失礼にあたる。私はこのまま立っていよう。しかし、クロム様とはどういうことだ?」


「アムナート様から、お名前をクロム様とお呼びするように申しつかっているのです」


「ううむ。よくわからないが、アムナート様のご要望とあれば、致し方あるまい」


 そこまでトリーと小声で話していたルオーは、クロムとわたしのほうを向いて深々と頭を下げた。



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