107 プリンの次は部屋作り
ボウルに、とっておいた卵黄、砂糖を入れて混ぜる。そこへ小鍋で温めたミルクを注ぎ入れ、泡立たないように混ぜる。それでもできてしまう泡は、できるだけ潰すか取るかすると焼き上がりが綺麗になるのだけど。わたしはプリンの見た目などこだわらないので、泡はそのまま残す。美味しければいい。
泡を無視してプリン液をカップに注ぎ入れ、鉄板にカップを並べてから、鉄板からこぼれないようにお湯を注ぎ入れる。
プリンは蒸し焼きにするの。
準備ができたら、これもユルドが温めておいてくれたオーブンに入れる。
ちなみに。卵白を使わない卵黄だけのプリンは固まりにくいから、オーブンの温度が低いとプリン液は液状のまま固まってくれないんだよね。そこが注意するポイントかな。
厨房の片付けをしようとしたところで3名のメイドがやって来て、「お任せください」と言われてしまった。
彼女達は、昨日、隣の屋敷で過ごしていたメイドらしい。サムサとアリアに言葉を教わったんだとか。
たった1日で言葉を話せるようになるなんてすごいね。
今日は、昨日ここにいたメイド2名が隣の屋敷に行ってサムサとアリアに言葉を習うんだって。
「エル様、朝食のメニューはいかがされますか?」
「そうだね。う〜んと、スクランブルエッグとソーセージ、パン、スープでいいんじゃないかな。………あ、果物もほしいかも」
「かしこまりました」
そういえば。チーズがあってミルクもあるなら、グラタンが作れるのでは?
「ねえユルド、グラタンは作れる?」
「初めて聞く料理名です。どのようなものですか?」
というわけで、わたしはグラタンの作り方を説明する。
「問題は、マカロニだと思うんだよね。小麦粉があるからパスタなら作れると思うんだけど、マカロニはね、中が空洞になっているの。長さは2センチくらいかな」
「そうですね。そのマカロニというパスタは、作るのが難しいように感じます」
「だとすると、リボン型のパスタだね。生地を薄く伸ばして、リボン状にカットしてから、ギザギザのナイフでこれくらいの長さに切っていくの。で、中央を摘んだらリボンの形になるでしょ?」
「なるほど。それなら作れます」
という答えをもらったので、ホワイトソースのグラタンの作り方をユルドに教えた。基本のパスタの作り方はユルドが知っていたので、自力でリボン型パスタを作ってくれるらしい。
「ところで。バーナビーの居場所はわかる?畑の種まきを手伝ってほしいの」
「そうですね………バーナビーは屋根裏部屋にいます」
うん?なぜ、そんなふうに言い切れるの?
「私達は、お互いの位置がわかるのですよ」
わたしの心を読んだのか、ユルドが教えてくれた。
どうしてお互いの位置がわかるんだろう?その能力もだけど、そんな能力をついていることが不思議だ。でも、いま考えても答えが出なさそうなので、いまはバーナビーのところへ行くことにする。
ユルドにお礼を言って、わたしは屋根裏部屋へ向かった。
屋根裏部屋のドアノブに手をかけると、そっと押してドアを開いた。音もなく、ドアは静かに開いた。
部屋の中では、バーナビーとヴィルヘルム達、騎士が一心不乱に家具を作っていた。
騎士達は、言われなければ騎士とわからない格好をしていた。黒いシャツとズボン、ブーツという出で立ちだった。鎧は身に着けていない。もちろん、武器の類も。
バーナビーはともかく、ガタイのいい男達がひしめき合うようにして家具作りをしているので、ちょっと圧迫感がある。でも、その手さばきは見事と言う他ない。手元は速すぎて残像が見える。
ヴィルヘルムが木に手を当てて撫でるように動かせば、次の瞬間には素晴らしい彫刻が浮かび上がっているのだ。目を凝らせば、手を高速で動かして彫刻を施しているのがわかる。
そう。手を動かしていることまではわかったけれど、それでどうして彫刻がされるのかはわからない。
だって、なにも道具を持っていないんだよ!?
ヴィルヘルムには及ばないけれど、アントンも猛スピードで彫刻を施していた。
他の騎士達も、おそらく職人と呼ばれる人達と同じくらいのスピードで木を加工して家具の形にしていく。
それでも、ヴィルヘルムは騎士達の作業ペースが遅く、技術力が低過ぎると文句を言っている。アントンでさえ、怒られている。
ヴィルヘルムが求める水準が高すぎるんだと思う。
バーナビーは裁縫を担当しているらしく、布を目印もなく裁断してソファのクッションカバーに緻密の刺繍を高速で施したり、カーテンを作ったりしている。
かと思えば、アイテムボックスからガラスの塊を取り出して手の中で溶かし、窓ガラスにして窓枠に嵌めたりしている。
おかげで、気づけば屋根裏部屋はどこの貴族令嬢の部屋と見まごう素晴らしいできになっていた。
投稿を始めて、1年が経ちました。
それなのに、物語の中ではまだ数日しか経っていないという………おかしいな(汗)。