表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/141

104 ゴーレムの皆、働きすぎじゃない?

「なにこれ?」


 わたしは戸惑っていた。


「服ね」


 寝間着という言葉を知らないのか、アリアはそれを「服」と言った。


 だけど、問題はそこじゃない。


「とりあえず、着る?」


「………うん」


 ここにあるのだから、わたしに着ろということだよね。


 着てみると、ぴったりだった。シャツワンピースの形で、ボタンは骨を削って作られていた。裾にはフリルが付き、胸元には黄色い小花の刺繍がしてある。


 ………ルオーが送って来た服の中に、こんなに寝間着はなかった。じゃあ、新たに送って来た?でも、生地は少しも傷んでいないし、中古品には見えない。


 じゃあ、誰が、どうやって用意してくれたのかな?


 頭に疑問符を浮かべながら副寝室に向かうと、主寝室の前で待っていたユルドに「こちらへどうぞ」と主寝室へ案内された。


「ご令嬢として相応しいことではありませんが、エル様はまだ幼いですし、クロム様がエル様とご一緒に寝るとおっしゃるので仕方ありません」


 とのこと。


 わたしは令嬢ではないよ?


「ところで、この寝間着なんだけど………」


「良い布が手に入りましたので、急ぎ仕立てさせたいただきました」


「いやいやいや!仕立ては家具が揃ってからって言ってなかった?それに、ユルドにこんな素敵な寝間着を仕立て時間はなかったでしょう!?」


「ふふふ」


「………ユルド?」


「クロム様にも、寝間着を仕立てさせていただいたのですよ」


「………」


 わたしの話を無視し、どこか恍惚とした表情を浮かべるユルド。


 恐いな。


 主寝室に入ると、まず目に入ってくるのは天蓋付きの大きなベッド。


「………」


 ディエゴの指示でわたしがベッドと天蓋の枠を作ったから、ベッドがあることは知っていたよ。でもね、いまのベッドには落ち着きのある深緑色の天蓋がきちんと付いていて、見るからに柔らかそうな布団と、ピンとシワの伸びたシーツが掛かっている。


 これは誰が用意したの?


 そして室内をぐるりと見回すと、ベッド以外なにもなかったはずの殺風景な室内にテーブルやソファが配置され、彫刻が美しい棚も飾られていた。


「ヴィルヘルム達は、ちゃんと仕事をしたみたいですね」


「これ、騎士達がやったの!?」


「木を削って家具を作ったのは騎士達ですが、ソファのクッションや天蓋を用意したのはバーナビーですよ。メイド達は、まだ仕事が遅くて任せられませんから」


 バーナビー………どれだけ仕事してるの。可哀そうな人。まぁ、人ではないけど。


「エル様。お休みになられる前に、なにかお飲み物を召し上がられますか?」


「うん。お茶をお願い」


「かしこまりました」


 そうして運ばれて来た完璧な温度の紅茶を飲み、わたしはベッドに潜り込んだ。


 ふかふかの布団に包まれて、わたしはすぐに眠りに落ちた。


 翌朝、ちょうど夜が明けるときに目が覚めた。窓の外がうっすら明るくなってきている。


 視線を窓から正面に戻すと、クロムの寝顔がある。紺色のシャツの胸元がはだけていて、そこに顔を近づけるといい匂いがした。


「ん………くすぐったい」


 あ、起こしてしまったかな?


 ドキドキしながら静かにしていると、クロムは寝息を立て始めた。よかった。


 クロムを起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、足音をたてないように寝室を出た。


 クローゼットを通って副寝室へ入ると、そこはまだ家具も揃っていなかった。でも、窓にガラスがはまっている。これはどういうこと?ガラスなんて、どうやって手に入れたんだろう?


 不思議に思いながら寝間着を脱ぎ、いつもの魔力で作ったワンピースとブーツ姿になる。


 そして脱いだ寝間着は洗濯室に持っていき、そこにあったかごに入れた。


 まだ早い時間だからか、屋敷の中は静まり返っている。誰に会うこともなく裏口から外へ出て

、そのまま畑に辿り着いた。屋敷を大きくし過ぎて、建物が畑ギリギリに建っているんだよね。


「あ、エル様だ。おはよ〜」


「今日も早いね〜」


 ギベルシェンの皆が、次々に頭を地上に出して挨拶してくれた。


「皆おはよう。畑を耕しちゃうから、畑から出てくれる?」


「いいよ〜」


 畑から出てきたギベルシェン達は、ぞろぞろと屋敷とは反対側の森へ向かった。


 わたしが木を動かしたせいで、そこは木が密集していたはずなのに、なぜか木がない。ぽっかりとなにもない空間が開いている。切り株が掘り起こされた跡があるだけだ。


「皆、どうしてそこに木がないか知ってる?」


「おっきなゴーレム達が木をシュパパンッて切り倒して、ボコッて掘り起こして持って行ったよ」


「うん?」


「ヴィルヘルムって名乗るゴーレムが他のゴーレムを連れてやって来て、手刀で木を切り倒したんだよ。切り株は、力づくで掘り起こしてたな」


「そうなんだ………教えてくれてありがとう。ロコルナ=ティルリ」


 それなりに太い木だったと思うけど、手刀なんかで木が斬れるのかな?それに、力づくで切り株を掘り起こすだなんて………無茶するなぁ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ