103 ディエゴのお説教と食事
「王位を狙うミルドレッド姫の執念は、それはそれは深いものです。おまけに、あの手の人間の欲望は際限がない。手に入れて当然と思うところもたちが悪い。王位を手に入れて満足し、国の運営に尽力するということはあり得ない。あの女性に王位を渡してはいけません」
「だから、殺すと言うのか?監禁するとか、王女の地位を剥奪し志井に落とすとか、他の選択肢はないのか」
「まったく生ぬるい。そんなことだから、ミルドレッド姫になめられるのです」
ディエゴは呆れ声で言った。ガンフィを見る視線からも、呆れているのがわかる。
それから、ユルドが夕食の準備ができたと呼びに来るまでディエゴのお説教は続いた。
ユルドの案内で、わたし達は食堂へ移動した。
食堂には、20人が一度に食事できるような長いテーブルがある。とっても大きいの。その上座にクロムが座り、クロムの右隣にわたし、左隣にガンフィとラーシュが座った。
座ってすぐに、給仕が始まった。
食堂に料理を運んできた人物の中にサムサとアリアを見つけて嬉しい気持ちになった。ふたりに向けて手を振ると、にこりと笑ってくれた。嬉しい。
そして………今日の夕食のメインは、なんと魚!大きな魚の切り身がお上品にバターと香草で焼かれていて、とても食欲をそそられる。
「ユルド、この魚はどうしたの?」
「今日、ヴィルヘルムが獲ってきたのですよ」
「え?騎士隊長は釣りもするの?」
「いえ。釣りではなく、手づかみだと申しておりました。10匹ほど獲ってきたので、下処理をして干し魚にいたします」
「へえ。そんなに獲れたら楽しかっただろうね」
干し魚も美味しそう。
「………周辺の地理把握と共に警戒にあたるという任務を放棄して、魚を獲っていたのです。さぞ楽しかったことでしょう。………今夜は寝ずに家具作りをさせますので、ご了承くださいませ」
あ、ユルドが怒っている。
わたしはユルドを刺激しないように、食事に集中することにした。
スープは念願のコンソメスープで、雑味のない深い味わいに言葉も出なかった。
そして、わたしの様子を見ながらスープに手を伸ばしたクロム。初めて具のないスープを見て戸惑っている。スプーンでゆっくりスープをすくい、口へ運んだ瞬間、クロムはカッと目を見開いた。
「これはなんだ?具も浮いていないのに、複雑な味がするぞ」
「これがコンソメスープだよ、クロム。美味しいね」
上品に、でも素早い動きでコンソメスープを飲み干したクロムを見て、魚を食べていたガンフィとラーシュもコンソメスープに口をつけた。
「魚のソテーも美味しかったが、これは美味しすぎる!」
「なんて素晴らしい!」
ふたりはそう叫んで、夢中でスープを飲み干した。
その様子を見たメイドが、それぞれの皿に無言でスープを注いでいく。
なにかの競争なのかな?と思うくらいに勢いよくスープを飲んでいく3人。
今日のメインはコンソメスープじゃなくて、魚のソテーだと思うんだけどな。それに野菜炒めも美味しいよ。もちろん、丸パンも抜群の焼き加減で、手でちぎるとふわっと小麦粉のいい匂いがする。
ユルドがコンソメスープがなくなったと告げると、ようやく3人は他の料理を食べることにした。
「酒が欲しくなるな」
突然、「酒が欲しい」と言い出したクロム。
「そうですね、クロム様」
「こう落ち着いていると、酒が欲しくなりますな」
ガンフィとラーシュもクロムに同意している。
鍋が空になるまでスープを飲んでおいて、まだ水分を欲しがるなんて信じられない!
それにわたしは、お酒には興味がない。飲んだことがないっていうのもあるけど、なんだか、わたしには早い気がするんだよね。
「赤ワインでよければ、バーナビーが仕入れた物がありますよ。ご用意いたします」
ユルドがそう言うものだから、男3人は大いに喜んだ。
やれやれ、である。
「じゃあ、わたしはお風呂に行くね。アリア、ついて来てくれる?」
「いいよ」
軽い調子で答えて、アリアはわたしが椅子から降りるのを手伝ってくれた。
浴室に向かう前にリネン室に寄り、身体を拭くための布を手に浴室へ向かった。
リネン室は、シーツや身体を拭くための布等の布製品が仕舞われている。のだけど、うちにこんなに布はなかったよね?リネンをしまう棚もあるし、いつの間にリネン類をこんなに仕入れたんだろう………?わりと広いリネン室の棚には種類別にリネンが畳まれてしまわれていて驚いた。
これもバーナビーが手配してくれたんだろうな。
バーナビー、できる男だね!
浴室は、ゆったりとした脱衣場と、広い洗い場、そして10人ほどが一度に入れる大きな湯船があった。湿気を逃がすために、天井に近い位置に細く窓が開いている。
せっかくなので、アリアにも裸になってもらって一緒にお風呂に入った。ただし、わたしがのぼせやすいので、早々に湯船から上がることになった。
それでも身体から湯気を立ち上らせながら脱衣場へ戻って来ると、そこには淡く柔らかなピンク色の寝間着が置いてあった。