102 これからのこと
「あ、絨毯には靴を脱いで上がってね」
クロムは靴を消し、ガンフィとラーシュはブーツから足を引き抜いた。クロムは裸足でもなんともない顔をしているけれど、ガンフィとラーシュは慣れないようだ。足の指を開いたり閉じたりしながら、絨毯の感触を確かめている。
クロム達は絨毯の上にあぐらをかいて座った。わたしも絨毯に座ろうとしたけれど、クロムに捕まり、当然のようにクロムの脚の上に座らさせられた。むぅ。
そこへ、ディエゴがお盆にカップを載せてやって来た。ディエゴは白いシャツと白いズボンを身に着けていて、なかなか様になっている。足元は、やっぱり木靴だ。
ディエゴの服もユルドが作ったんだよね?ユルドは、どれだけ仕事が早いんだろう。
そのとき、ディエゴが給仕してくれたカップから、ふわりとお茶の香ばしい香りがした。
あれ、でも、お茶の葉なんてあったかな?
「ランベル様に茶の木の場所を教えていただき、お茶をご用意させていただきました。ハチミツはアーヴァメントとエグファンカが採って来たものを使用しております。どうぞご賞味ください」
あ、アーヴァメント達のこと忘れてた!………そっか。採蜜、頑張ってくれてるんだ。
「アーヴァメント達は放置してたこと、怒ってなかった?」
「少々、ランベル様に怯えている以外は、ここの環境に満足しているようです。怒ってなどいませんでしたよ」
「そっか。それならよかった」
そう言ってから、ディエゴがテーブルに並べてくれたカップに手を伸ばした。
お茶を口にすると、熱いけれど飲めないほどではなく、ちょくどいい温度に冷めていた。お茶は、紅茶だった。ハチミツの甘さがちょうどいい。
このハチミツを使ってフィナンシェを作ったら美味しくできそう。うん。きっと美味しいよ。
「ディエゴ、お茶をありがとう。とっても美味しいよ」
「喜んでいただけてなによりでございます。ところでエル様、バーナビーより村中の家を建て替えることについて村長より許可を得たと報告がありました。早速、明日は家の建て替えを行いましょう」
「うん。わかった」
「次に、畑の作物についてはすべて収穫し、バーナビーが保管、管理しております。そして、乱雑に生えていた果樹は1箇所に植え替えました。明日、家の建て替えの合間に畑の作物を育てていただきたいと思います。育った作物はギベルシェン達に収穫してもらい、この屋敷で消費する分と村人に販売する分を残し、残りをリングス商会へ販売いたします」
「うん?村人に売るの?村人はお金ないでしょ?」
「村人には、作物を渡す対価として狩った獲物の解体、加工をしていただきます。もちろん、労働に応じてお金も支払います」
「それならいいよ」
と言ってから、グラムス芋のことを思い出した。せっかく砂糖の素となるいもを育てているのに、砂糖に精製する方法がわからなくて放置してたんだよね。
「あのね。砂糖の素になるグラムス芋を畑で育てていたの。いっぱい育っているはずだよ。砂糖に精製するやり方はわかる?」
「はい。存じております。お任せください」
「お願いね」
ふふふ。これで、高い砂糖を買わなくて済むようになるね!
「次に、解体が済んだ肉と素材ですが、こちらも必要分を残してリングス商会に販売いたします。燻製肉と小屋の作り方についてはバーナビーが知っていますので、エル様にはバーナビーと相談の上で燻製小屋を建てていただきたいと思います」
「うんうん、やるよ!任せて!」
「それから、エル様が気にかけていらしたリーナとカイト母子ですが、すっかり回復してエル様に感謝しておりました。カイトが回復したことを父親のダグに報せたいと申しておりましたので、ダグの職場を聞き、ルオーに連絡をとってもらうよう依頼しました」
「そう。ダグは出稼ぎをする必要がなくなったもんね。親子で暮らせるようになるといいね」
「そして、王太子暗殺未遂事件ですが………」
「なんか仰々しい名前付けてる!?」
びっくりして身体が跳ねてしまった。
「結論から申し上げますと、王妃とミルドレッド姫を暗殺すべきです」
「「なんだと!?」」
ガンフィとラーシュが勢いよく立ち上がり、ディエゴを睨んだ。
「おや。生かしておいては、よからぬ輩が野心を抱き、ふたりを神輿として担ぎ上げるでしょう」
「しかしだ、王妃の背後にはトラフィオ公爵家がいる。王妃を処刑しようとすれば、王妃の兄であるトラフィオ公爵が黙っていない」
ラーシュが「ぐぬぬっ」と唸っている。
「ですから、暗殺を、と申し上げました」
「理由はなんだ」
「王妃とミルドレッド姫は、いわば病巣です。ハノーヴァー国の病巣を取り除かなければ、この国は病んでゆくばかりです」
「は?びょうそう?」
「おや、病巣をご存知ない?この時代の医学は遅れているのですね。病巣とは、病の巣と書きます。病変が置きている箇所ですね。完治するためには、病巣を取り除くことが必要なのです」
「それは………わかる」
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