1 はじまり
………コポ………コポコポ………
わたしは、魔素溜まりから生まれた。
魔素溜まりっていうのは、文字通り、魔素が溜まっている場所をいうの。強力な魔物の近くや、森の中、洞窟なんかに発生することがあって、そこから魔物が生まれてくる。
それじゃあ、わたしは魔物なのかというと、それは違う。
わたしは人間。
人間ていうのは、ふつう、母親の体から産み落とされる。
だから、わたしはふつうとは違う。
そもそも魔物だって、こんなふうには生まれない。
………コポ………コポ…
わたしは、水晶でできた卵の中に生まれた。水晶の中は水のようなもので満たされ、わたしは窒息することもなく、ただ、水に身を任せて漂っていた。
わたしは考えた。
どうしてここにいるのか?………どうして水晶の卵に閉じ込められているのか?
ここはどこなのか?………洞窟の中に見えるけど、本当に洞窟なのか?
そもそも、わたしは何者なのか?………自分では人間だと思っているけど、魔物なのか?
考える時間はいくらでもあった。というか、それくらいしかできることがない。
コツンッ
そのとき、なにかが殻にあたる衝撃を感じた。
殻の向こうに鱗が見えた。
よく見ると、巨大なトカゲだ。
卵の周囲にはヒカリゴケが生えていて、そのかすかな光に照らされたトカゲは息絶えていた。
わたしが殺したんじゃないよ?
もちろん、卵にだって生き物を殺す力はない。だけど、この卵は、このトカゲのような生き物を取り込むことができる。卵の殻から青白い靄のようなものが発生し、トカゲを包み込んだ。そして、シュンッ!と音を立てて一瞬でトカゲを靄の中に取り込み、吸収してしまった。すると靄は卵全体を包み、1分ほどかけてゆっくり殻に浸透していく。それにつれて、中にいるわたしにエネルギーが供給される仕組みになっている。
こうして卵が触れた獲物を吸収し、中にいるわたしにエネルギーを供給することによって、わたしは生かされていた。
だけど、ね?
卵は動けない。当然、中のわたしも動けない。とすると、誰が獲物を獲ってくるのかと言えば、目の前のドラゴン以外にありえない。
そう。わたしの様子を満足そうに眺めている、巨大なドラゴン。
わたしなんて卵ごと丸飲みできそうな大きな口に、漆黒の屈強そうな体躯、鋭い爪に、背中に折りたたまれた大きな翼。わたしを見つめる黒い瞳は、紛れもないドラゴン。背丈は建物3階分くらいある。
「ふむ。腹は満たされたようだな」
低い声で、ドラゴンは満足そうに呟いた。
そう。このドラゴンはしゃべるの。それだけ知能が高いということ。
ドラゴンは大きな欠伸をすると、わたしの近くで丸くなった。少しすると、寝息が聞こえてきた。
このドラゴンの名前は、アムナート。そう、自分で名乗っていた。見るからに強力な魔物で、この洞窟の主。そしてたぶん、わたしはこのドラゴンの魔素溜まりから生まれた。だからわたしにとって、親とも呼べる存在。
そして、わたしは卵の中を漂いながら考える。
わたしは何者なのか?どうして卵の外へ出られないのか?
わたしは、魔素溜まりから生まれた人間。人間だと思う理由は、容姿にある。どんな顔をしているかわからないけれど、頭はひとつ、角はない。白く頼りない腕は2本あり、細い脚も2本だけ。鱗やコブなどはなくて、獣人やエルフ、ドワーフなどを示す特徴とも違う。もちろん、尻尾もない。
あ、でも、水の中で呼吸ができるということは、人魚なのかもしれない。………いいえ、それは違う。わたしにヒレはない。
ふうっとため息をつくと、口から空気の泡がコポコポと溢れた。
空気の泡は、上へ登っていって殻に吸い込まれた。
卵は大きく、わたしが手足を伸ばしてもぶつからない。そっと腕を伸ばして殻に触れると、表面はツルツルしてなめらかだった。
前に確かめたことがある。殻はすべて磨かれたようになめらかで、どこにも凹凸などない。ましてや、亀裂などありはしない。
卵で生まれた生き物は、自らの力で殻を破って生まれてくる。ということは、この殻を破らなければわたしは真に生まれることはできない。それはわかっている。
だから、挑戦した。でも、この殻は硬く、わたしには傷ひとつつけられなかった。
まだ、生まれる時ではないのだろうか?
わたしの体は幼い。せいぜい、5〜6歳の子供くらいの背丈しかない。そのため、力もないのだと思う。
ただ、わたしが存在するようなってから、それほど月日は経っていないように思う。洞窟の中にいるせいで昼夜がわからず、月日もわからないけれど、せいぜい、数ヶ月くらいだと思う。
だから、異常な成長速度であるのは間違いない。
そこまで考えて、急激な睡魔に襲われた。
いつもこうだ。……、わたしの体はままならない。
………コポ、………コポ……
パソコンが壊れて使えません(泣)
仕方なくスマホで少しづつ書いていますが、どうしても時間がかかります。
なので、投稿は週一でできたらな、と思っています。