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最終話 愛を知らずして愛を求む

優が顔を覗かせた。

四葉ちゃんの様子を観察するように、そして視線が動き、

私達がなにをしていたのか考察するように。


彼の白く透き通った頬からは、冷気さえ感じる。

病的なまでに外出をしない優だからこその肌質。

彼の黒い瞳がキラキラと光って見えるのも、白い肌と対照的だから。


「……こほん。この事は、中で話そうよ」


張り詰めた空気感を両断するため、声のトーンをわざと上げた。

そして室内を指差す。それから間も無くして、玄関から全員が移動した。




「ウチ恋愛した事ないからわかんないけど、

 ……2人はどういう関係性?」


兼ねてから全員が気になっていた事を、葵は開口一番口にした。

リビングの食卓にて、私と四葉ちゃんと葵が並んで座っている。

その向こう側で優と黒咲明日香は、肩身が狭そうにしている。


「……恋人よ」


ガタッ!


黒咲がそう口にした瞬間、他の3人が椅子から立ち上がる。


「嘘だ!」


意外にも四葉ちゃんが叫んだ。

叫んだことに意外性はないけど、声の大きさが意外だった。

その時ばかりは、しっかりと鼓膜が震えた。


「アマミーに限ってそんな事……」


葵もショックを受けているようだった。

口に片手を当てて、フルフルと震えている。

今にも泣き出しそうだった。


私は?


怒りでもなく、落胆でもなく、悲しみでもなく。

ただ儚く散っていった初恋に、感情が追いつくことはなかった。

ほんの小さな何かで、思考を繋ぎ止めているようだった。


「優、それって本当なの?」


すがるように彼を見つめる。

たった一言『嘘だ』とか『こいつの妄想だ』とか言ってくれればいい。

それに、彼がそうやって言う姿を容易に想像できるってことは、

否定してくれる確率が高いということ。


つまり、まだ望みは──


「恋人です」


彼は深くうなづいた。


プツンと糸が切れた。全身の力が抜けて、椅子にもたれかかる。

乱雑になった思考から、ただひとつだけ『失恋』という文字が浮かび上がる。

それはきっと、わたし以外の2人もそうだと思う。

彼女たちの表情を見られるほど余裕はないけど、なんとなく分かった。




木之下 四葉


それからどんな風に会話をしただろうか。

私は普段通りでいられただろうか。

雨宮への思いを断ち切れただろうか。


否、むしろ強まるばかりだった。


時刻は午前2時

夜も静まって、幽霊でさえ寝ている時間。

私はふと目を覚ました。


リビングのソファの上だった。


たしかベッドの数が足りなくて、それならばとソファで寝たような気がする。

最後に押しかけた身分で贅沢を言ってられない。妥当な結果だ。


私は静かに立ち上がって背伸びをした。

眠気は吹っ飛んでいた。しかし切なさが残っていた。

だからだろうか。

私は音を立てぬよう気をつけながら、階段を登っていた。


扉を開くと、そこにも暗闇が広がっている。

だけど窓から差し込まれる月明かりが、ほんのりと部屋を照らし、

目的の場所は簡単に視認できた。


枕は入口と反対方向に置いてある。

だから雨宮の頭もこちら側にはなかった。


私はベッドのそばに寄って、雨宮を覗き込んだ。

無防備に寝ている。暑かったのか、掛け布団は蹴っ飛ばされていて、

制服のボタンも全て外されている。彼の鎖骨が視界に入った。


手錠の鍵は壊れていた。

だから今、雨宮と明日香は繋がれている。

その忌々しき鉄の輪は、2人を繋ぐ赤い糸のようにも見えた。


雨宮は片腕だけ下ろした大の字に、ガサツに眠っている。

逆に明日香は雨宮の懐で胎児のように眠っている。

正反対の寝相。だけど2人は恋人関係にある。


その事実を噛み締めると共に、涙が溢れてきた。

頬を伝って地面に落ちる涙。こういう恋愛は、突然終わるらしい。


なんの脈略もなく、伏線もなく、ある時を境にして終わる。

私は蚊帳の外で、誰かの都合を埋め合わせるみたいに消えて無くなる。

世界が終わる日も、こうやって唐突に訪れるのだろう。


雨宮を舐め回すように見ていると、一瞬だけ明日香に違和感を感じた。

彼女の肘から手首にかけて、赤い斑点がポツポツ……。


それは雨宮に近づけば近づくほど多くなっており、

手首に最も多くの斑点ができていた。


アレルギーみたいだなと、勝手に思った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました

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