第三章15 マルサネ王国とエルフの国アールヴヘイム
朝、目を覚ます………。 先ほどまで見ていた夢をはっきりと覚えている。
夢と言うよりは、あまりにもはっきりした、生々しい記憶のようなモノだった。
俺は起き上がり、軽い朝食を取り出陣の準備をする。
出発前にマクシミリアン将軍と少し打ち合わせをする。
今回のエルフの里遠征は、極力戦闘を避けたい旨を伝えて置く。
『全て閣下のご指示のままに―――』との返事だった。
土台わずか二〇〇〇の兵でエルフの本拠地を制圧するのは、正攻法では不可能だ。
皆まで言う必要は無いらしい………。
マクシミリアン将軍を伴い砦の中庭に出ると、出陣の準備が整い一糸乱れぬ隊列で並ぶ二〇〇〇の騎士たちが、出陣は今か今かと待ちかねていた。
「朝早くからご苦労様です。 これよりエルフの里、首都アールヴヘイムへ出陣します!」
俺はウインドコントロールの魔法を皆にかける!
⋘―――ΑνεμοςΕλεγχος(ウインドコントロール)―――⋙
この魔法で馬に気流を纏わせ、体重を軽くさせ、足が軽くなり、後ろから押されるように早く走れるようになる。
さらに俺の大きくしたフェンリルの後ろを走る事を指示する、スリップストリームを使い風の抵抗をさらに無くす為だ。
エルフの里アールヴヘイムへは、モンシャウ砦から北に馬で五日ほどの距離にある。
しかし、ウインドコントロールの魔法とスリップストリームで三日に短縮する。 二日後には途中のマルサネ王国に到着して、翌日アールヴヘイムへ攻め込む予定だ。
アールヴヘイムからシャンポール王都までは、馬で九日かかる、五日に短縮したとしても……… 約束した二週間で王都に戻るには、もう時間が無い。
⦅まぁ~ 王都の座標は知っている、最悪の場合は俺だけで転移陣で戻れば良いのだが………⦆
「さぁ! 出陣だ―――!」
「「「「おぉぉぉぉぉ―――!!!」」」」
俺はフェンリルに乗り先頭を走る。
フェンリルは街道を塞がない程度の大きさにして、後ろに続く騎馬隊がスリップストリームに入れるように注意しスピードを調整しながら走る。
フェンリルは圧倒的に早い、いや速さだけを考えるなら飛竜を使い一人で行けば、アールヴヘイムには直ぐに着けるだろう。
しかし、エルフ族の首都、大国の首都に攻め込むのだ、兵士は二〇〇〇でも少なすぎる。 だが一人で乗り込むよりはマシだろう。
まともに戦うつもりは無いが、ハッタリをカマスにも兵士二〇〇〇は居た方がまだ見栄えが良い。
街道は馬車程の大きさのフェンリルが猛然と走り来る様を見て、人々は目を見張り道を開けてくれる。
そして俺達は丸二日間走り続けマルサネ王国にたどり着いた。
シャンポール王都にメガメテオが発動して今日で九日目。
あの日各国は、戦争が終結するまでシャンポール王都に留学中の王族を、一旦本国に戻している。
マルサネ王国のコート王子も、昨日か今日には戻ってきているはずだ。
コート王子とは一年の入学式で、力試しで戦った仲だ………
俺は、マルサネ王国王都城門にて、コート王子の面会をお願いする。
シャンポール騎士団を引き連れている事や、フェンリルに乗っている事も有り、疑われる事は無かった。
コート王子に面会依頼をお願いしたのだが……、王との謁見の間に通された。
俺はマクシミリアン将軍をお供に、謁見の間へ向かう。
謁見の間には、マルサネ王と王妃、コート王子、コート王子の姉シャントレーヴ王女が待っていた。
「マルサネ陛下、お初にお目にかかります、シャンポール王国のソーテルヌ・ディケムと申します。 本日はお目通り頂き感謝いたします。 コート王子、お目通りの願い受けて頂きありがとうございます」
『うぐぅ!』とコート王子が後ずさりするのが分かる……。
入学式に水竜に流されて以来、俺に苦手意識があるようだ。
「ソーテルヌ卿、先日のメガメテオからの王都防衛と、エルフ軍撃退の話は聞いている。 全種族の脅威、メガメテオの排除は歴史に残る偉業だ! そしてエルフ領と接するこのマルサネ王国は、特にその事の難しさと重要性を知っている。 重ねて礼を言う」
「はっ!」
「して、今日はシャンポールのマクシミリアン将軍まで引き連れて、どのような事で我が国に参られた? 正直ソーテルヌ卿はシャンポール王都でエルフ軍と睨み合っていると思っていた、まさか我が領土に突然現れるとは驚いたぞ」
「はっ! なんの先ぶれも無しに訪問の不敬お許しください。 本日伺ったのは今晩の休息場所と補給をお願いしたくお願いに参りました」
「休息場所と補給とな………、容易いことだが、理由は聞かせて貰いたい」
俺は機密事項だと、謁見の間の重鎮以外の人払いをお願いした。
陛下は他国の俺の願いを疑いもなく受け、人払いをしてくれた。
「明日、エルフの里アールヴヘイムを攻略に向かいます」
「なっ! ア、アールヴヘイムだと! エルフ族の首都を落としに行くと申すのか?!」
マルサネ王、王妃、コート王子、シャントレーヴ王女、謁見の間の皆が目を見張る!
「はい。 エルフ族も我々シャンポール王都を今、直接侵略しにきています、我々に同じ事が出来ない道理はないでしょう?」
マクシミリアン将軍も俺の言い分に呆れている。
「不可能だ! エルフ族がそれを可能にしているのは、精霊シルフとの契約により、制空権を持っているからだ! 我々が同じことをしたら、一気に上空から殲滅させられるぞ! いくらソーテルヌ卿でも、空を支配されれば、地の利があるエルフには敵うはずがない! 長年争ってきた我々マルサネ王国は、その恐ろしさを一番知っている!」
あまり戦略上の事は話したくはないが……… 致し方あるまい。
「陛下、現在エルフ国の軍の中心ダークエルフ族は、シャンポール王都攻略に向かいエルフ領には居ません。 そして私がすでに精霊シルフへの支配権を持っているとしたらどうしますか?」
マルサネ王が目を見開く!
マクシミリアン将軍も驚愕の表情だ!
「なっ! ま、まさか―――」
俺は含み笑いだけして、頷く。
「ソーテルヌ卿! 休息の場と補給は直ぐに用意する! そしてこれは私の願いだが、断ってくれても良い。 ぜひこの戦いに我が子コートも参加させてもらえないだろうか?」
「………………。 その申し出、受けるためには条件がございます。 王子が参戦された場合も、私の指揮下に入っていただきます。 それと…… これは遊びではなく戦争です。 策があると言っても兵力差は歴然。 最悪の事態に陥れば皆命を落とします、それでも宜しいのですか?」
「当然だ! 我が国が長年戦い続けてきたエルフ族との戦いに、ソーテルヌ卿が参戦するのだ。 その戦いに我々マルサネ王国の王家一族が参戦していなかったとなれば末代までの恥! 存分にコートを一騎士として使ってくれ!」
「かしこまりました! コート王子とは入学のおり、共に競い合った仲、共に戦場に参りましょう」
「よろしく頼む。 コートと一緒に騎士団も預けるが…… 何分突然の来訪、急遽兵は集めるが明日までに集められるのは五〇〇〇程が限界だろう」
「十分でございます。 助力感謝いたします」
翌日、俺達はマルサネ王国で補給を受け、十分な休息を取り、エルフ族の首都アールヴヘイムへ向け出陣する。
俺達の騎兵隊はコート王子とマルサネ軍も加わり、七〇〇〇まで膨れ上がっていた。
マクシミリアン将軍が話しかけてくる。
「閣下…… マルサネ王国の参戦は閣下の想定通りなのですね」
「さぁ、どうでしょう。 ですがどちらにしてもアールヴヘイムでは戦う気は無いと話しましたよ」
「はい………」
「ただ………、アールヴヘイムの次は、シャンポール王都へ戻ります。 そこで追い詰められたダークエルフ族一〇〇〇〇の兵との戦闘は避けられないかもしれない。 その戦いにはマルサネ王国の兵は欲しかったですね。 王都軍の兵三五〇〇。ラトゥール将軍兵三〇〇〇。 今の我々の兵を足せば一三五〇〇になりますから」
「………………。 そ、そこまで考えていらっしゃるのですね。 怖い人だ」




