第三章14 マナと風の精霊シルフィードの記憶
アイフェル山脈の山頂で一夜を明かした翌日、今回の旅の目的地、エルフ領へ向かう為、一度モンシャウ砦へ戻るため山を下る。
俺は適度な大きさにしたフェンリルに乗り、アイフェル山脈を駆け降りる。
アイフェル山脈山頂の厚い雲はすっかり晴れ、今日は快晴の一言だった。
山の天気は直ぐに変わるだろうが、フェンリルとシルフィードによる作為的な結界は解除されているようだった。
地上を走るのは、とにかくフェンリルが早い、今までのクリスタルで作ったユニコーンは、とにかく固いが、スピードは普通の馬よりは少し早くらいだった。
フェンリルは猛烈なスピードで雪山を駆け下りる。
山脈中腹まで駆け下りると、前方に魔族軍と戦っている王国騎士団第三部隊マクシミリアン将軍の部隊を視認する。
馬ほどの大きさにしていたフェンリルを、竜のサイズに戻し、一気に魔族軍の軍隊の中に襲い掛かる。
フェンリルの猛威が魔族軍に襲い掛かり、一瞬で魔族軍の隊長を切り裂き滅する――!
指揮官を失った魔族軍は、統率できなくなった烏合の衆…… 暴れ狂うフェンリルに為す術べなく蹂躙されていった。
マクシミリアン将軍を筆頭に、第三騎士団皆が固まっている……
それはそうだろう、突然乱入してきた竜ほどの大きさの狼に敵が蹂躙されている……
次は自分たちかもしれないと言う恐れ―――だが皆、俺の姿を見て安堵する。
「ディ、ディケム閣下! ご無事で何よりです! ご助力ありがとうございます! 氷の上位精霊フェンリル様の力を手に入れられたのですね!」
「マクシミリアン将軍、このままアイフェル山脈に進行している魔族軍を全部隊殲滅させます! その後この山脈にしばらく継続する結界を張り、魔族軍の侵攻を阻みます! 第三騎士団はそのまま私と行動を共にし、エルフ族の里に向かってもらいます!」
「え? あ、はい! しかし本国の―――」
「王の承諾は得ています! 一気に行きますので後れを取らないように!」
「はっ! マイ・ロード!」
マクシミリアン将軍が部隊に号令をかける!
「お前らソーテルヌ閣下に続け! 一気に魔族軍を掃討する―――!」
「「「「おぉぉぉぉぉ―――!!!」」」」
俺はフェンリルに乗り、第三騎士団の騎馬隊を引き連れ、アイフェル山脈を走り回る!
マナで場所を感知し、魔族軍進行部隊5カ所を全て殲滅して回る。
フェンリルが魔族軍部隊に飛び込み、隊長を引き裂き、四散する部隊を第三騎士団が殲滅する……。
出合い頭に像に踏みつぶされる蟻のように……
魔族軍は悪夢を見る暇もなく、殲滅されていった。
魔族軍を全て殲滅した後、俺達はモンシャウ砦に戻り、結界の準備を行う。
今回の結界はこの作戦の期間、一月程持てばいい。
永続的な結界を山に張るには、自然や人々の暮らしにどのような影響が起こるか分からない、短期的な時間稼ぎの結界にする事をマクシミリアン将軍に伝える。
だが…… かと言って山全体に結界を張る事が簡単な筈はない―――
俺の周りには固唾をのみ、成り行きを見守る第三騎士団の皆が居る。
俺は従属した六柱の精霊を顕現させ、俺の周りに配置する。
そしてその六中の精霊をマナで結び【六芒星】の魔法神を描く。
六芒星にはマナの力を取り込み、力の増幅強化する力がある!
結界に必要な膨大なマナを、地脈から吸い上げ、六芒星の魔法陣で増幅させる!
六芒星の補助を使い呪文を発動させる―――!
「四柱神を鎮護し、天地・光闇・火水・風土・陰陽、五陽霊神に願い奉る……」
⋘―――ΕξιΚολόνα・πνεύμα・Εμπόδιο(六柱精霊結界)―――⋙
オーロラが地面から上空に立ち昇るように、六色に輝く結界がアイフェル山脈を覆いつくす。
『こ、こんな大規模な結界を見たことが無い………』
『上位精霊様が六柱も揃うのを見られるなんて………』
その結界の規模と壮大な光景に、第三騎士団からは感嘆の声が漏れる。
「マクシミリアン将軍、これで一カ月間は結界で魔族軍の心配はないでしょう。 明日二〇〇の手勢はこの砦に残し、あとの二〇〇〇の騎馬隊でエルフの里に向かいます。 残り十日以内に片を付けなければなりません」
「と、十日以内に、たった二〇〇〇の手勢でエルフ族と片を付けるのですか………?」
「そうです。 皆に準備をするように伝えてください」
「はっ! マイ・ロード!」
「さすがに今日は疲れました、今日はすぐに休む事にします」
「食事を直ぐに取れるようにいたしました、明日からの戦いに備えて、ゆっくりとお休みください」
「あぁ、ありがとう」
その夜、俺は死んだように眠った。
そして夢を見る………。
⦅ん? ここは………?⦆
そこは緑深い、多くのエルフ達が住む森の里。
エルフ達は、何本もそびえたつ大きな木を利用した家に住んでいる。
子供たちは走り回り、家族は幸せそうに暮らしている………。
⦅なんだ……、やけにリアルな夢だな。 これはマナの記憶? 結界を張るために集めたマナの記憶なのか?⦆
里の中心部に、一際大きな木が生えている。
これがドライアドから聞いた、エルフの国の神木なのだろうか……
そして、そこには村の長ハイエルフが住んでいるようだ。
『シルフィード様、申し訳ありません。 早くこの里からお逃げください』
『しかしアルコよ……。 私が去ったと知れれば、エルフ族の長、ハイエルフ六賢者のお前の立場は無くなってしまうぞ』
『構いません、私はエルフ族を纏めるものとして失格です。 ダークエルフ族の族長争いを諫める事が出来ませんでした。 ブロンダの暴走、それに端を発し現ダークエルフ族長のエリゼも暴走するでしょう。 彼女はエルフ族の禁忌、シルフィード様を我がものとする為にここに来るでしょう!』
『なっ! それは本当ですか?』
『我々エルフ族は、軍事面の大半をダークエルフ族に依存しているのが現状、ダークエルフ族が本気で軍事クーデターを起こせば、それを止める事は出来ません』
『私との契約を破ると言うのですか…… それならばシルフとエルフの盟約を破棄する事も―――』
『シルフィード様――! それだけはお許しください! この優勝劣敗の戦乱の世、シルフ様の加護が無くなれば、我々エルフ族は直ぐに滅んでしまうでしょう!』
『ですが、私が逃げたとしても、解決策になるのでしょうか……?』
『ブロンダは、族長としての実績を得るために、人族の都を攻め落とすつもりです。 ですが、彼の地には英雄が誕生しています。 ブロンダはその英雄に討たれるでしょう。 そして戦争責任を取って、エルフ族の長の私が死ねば……… 全面戦争を回避できるかもしれません。 それは人族の英雄に判断をゆだねるほかありませんが……』
『あなたは。 自分を犠牲にして、エルフ族を守ると言うの?』
『それが族長としての務め…… 私は長く生きました、私の命だけで種族が生き残れるのならば…… 最善の策だと思います』
『わが友アルコ…… 事態は刻一刻と進んでいるようですね、あなたの言う通り私は一旦この里から離れましょう。 ですが、あなたの策が最善だとは思いません。 事態はあなたの想像を超え変化していくでしょう、最後まで生きる事を諦めないでください。 また会えることを願っています』
『はい…… 今一度、お会いできることを願っております』
⦅………………。 これはシルフィードの記憶? マナの記憶? どちらにしても只の夢では無いようだ………⦆




