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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第三章 アールヴヘイムの六賢者
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第三章12 風の精霊を統べるもの、女王シルフィード


 その洞窟の中は、外の一面の銀世界からは想像できない、苔むした緑の蔓が覆う神秘的な、まさに精霊の隠れ家だった。

 そして、その奥にシルフィードが佇んでいた。


 水・火・風・土の四大元素を司る精霊は、上位精霊の中でも特別な存在。

 その大精霊の一つ、風を司る精霊シルフの女王、シルフィード。


 その姿は優美な少女のようで、女王に相応しく豪奢で気品があり…… 慎ましやかさもある。

 その背には風で出来た羽を見る事ができる。


 マナが見えない人にはわからないだろう、その優美で可憐に見える少女だが……

 その圧倒的なマナの量は畏怖を覚える。




 俺が話しだす前に…… フェンリルがシルフィードに話しかける。


「シルフィード…… すまない。 俺はお前を守り通すと約束したのに、約束を守れなくなってしまった」


「フェンリル別にいいのです、昔の小さな恩だけで、貴方はこれほどまでしてくれたのですから。 そして彼は【クロノスの希望の種】なのでしょ?」


 フェンリルが頷く


「フフ……フェンリル。 偶然なのか必然なのか――それはクロノス様しかわからない事」


 シルフィードが鋭い視線で俺を観察する!


「彼は…… 私がずっと待っていた(・・・・・・・・・・)()も、この方かもしれません」


 俺はシルフィードに話しかける。

「私はディケムと言います、見ての通り人族です。 いま人族の町にエルフ族の軍隊が攻めてきています。 私はそれを止めたいのです!」


 シルフィードは静かに聞いている。


「この度のエルフ族の侵略は、ダークエルフ族の独断だと聞きました。 ハイエルフはきっかけがあれば、戦争をやめたいと。 貴方の力を借りられたら、エルフ族を、そしてエルフ族と契約しているシルフを止められませんか?」


 シルフィードは難しい顔をし、話し出す。


「此度の戦争は、ダークエルフ族の次期族長を狙う、ブロンダの独断での所業、しかし、エルフ族はみなそれを止められなかった。 ダークエルフの現族長エリゼも、最初は戦争などするつもりがなかった…… ですが放たれた矢はもう戻らない。 『どうせ何時かは戦う定めならば』と……。 この世界は、神により、種族が戦う事を義務付けられていますからね」


 シルフィードは大きくため息をつき、話を続ける。


「さらに此度の戦争は、エルフに力を貸している精霊シルフ達も意見が割れました。 しかしシルフが力を貸さなければ、エルフの力は半減する。 それを恐れたダークエルフの族長エリゼは、タブーを犯し私を使役しようとしました。 盟約でエルフは決してシルフの女王に手を出してはいけないと定めているのに………。 シルフ達は女王である私の命令に背けないからです」


 シルフィードは悲しそうに続ける。


「私は、エルフ族の里をでて、フェンリルに力を借り、このアイフェル山脈に逃げ込みました。 そして風と雪の障壁を張り、エルフから隠れたのです」


「私の聞いた情報では、フェンリルがシルフィード様をさらったと………」


「フェンリルと私は友人。 フェンリルが後に遺恨を残さぬよう、自ら憎まれ役を買って芝居を打ってくれたのです」


「………………」


「ですからディケム様。 もし私をエルフ族の里に連れて行っても逆効果になる恐れがあります」


 なるほど、状況は把握できた………。

 だが俺は提案する。


「シルフィード様、この度の戦争の原因ブロンダは、もう滅びています。 あとのエルフはみな、戦争を止まる切っ掛けが欲しいのです。 貴方の力を借り、シルフの力を無効化出来れば、エルフ族は交渉の席についてくれるでしょう。 私もエルフ族を滅ぼすために、貴女の力を借りたいのではないのです」


 『………………』シルフィードは考えている。


「ディケム様、貴方は【クロノスの希望の種】だという。 貴方は……この神に戦う事を義務付けられているこの世界どうしたいと思うのですか?」


 『この世界をどうしたい?』 ……そのような大きな見方で考えたことが無かった。

 戦う事を義務漬付ける神とはなんだ、神なんて居るのか?


「正直、私にはまだそのような大きなことは分かりません。 フェンリルのいう、クロノスとは何なのかさえも……… ただ、私は他種族を滅ぼさなくても世界は一つに出来るのではないかと思うのです」


 おれは少し考えて、話すことを決めた。


「私は、マナに触れ少しですが前世の記憶を得ました。 私の前世は魔神族でした。 そして、私は記憶だけではなく、前世での力もそこから引き出すことが出来ました。 そこから私は思いました。 『種族など関係ないのではないか……?』と。 大いなるマナからすると、人族も魔神族もただの器でしかない、私と言うものを形作るのは、中身のマナなのだと」


 シルフィードが目を見開き驚いている。


「ディケム様、貴方、大いなるマナに繋がっているのね!?」


 そこでいきなりウンディーネがでてくる。


「久しいの、シルフィード!」

「ウンディーネ! あなたが出てくると言う事は…… ディケム様と契約したの?」


「そうじゃ、ディケムが話してしまったからしょうがないが…… まぁ、どちらにしても時間の問題じゃからな。 ディケムは大いなるマナと繋がった! じゃから妾はディケムと契約した。 ちなみに、イフリート、ドライアド、ルナ も居るぞ! お前もグダグダ悩んでないで、重い腰を上げろ」


 シルフィードが目をまたたく。

 そして俺の目を見て決心したように、そして嬉しそうに言う。


「そうですかウンディーネ、貴女の待ち望んだ人がやっと現れたのですね。 でしたら、私も託すとしましょう。 ディケム様、このシルフィードあなたと契約いたしましょう。私の力をどのように使うかはあなた次第」




 俺は頷き、契約魔術の演唱を行う!


 “シルフィードに告げる!

 我に従え! 汝の身は我の下に、汝の魂は我が魂に! マナのよるべに従い、我の意、我の理に従うのならこの誓い、汝が魂に預けよう———!”


 ⋘――――συμβόλαιο(シンヴォレオ)(契約)――――⋙



 俺の契約呪文にシルフィードがYesとこたえる。

 精霊シルフィードと俺のマナが繋がり、契約は成立した。



 シルフィードは俺に言う。


「ディケム様、もし願いが叶うなら、エルフ族を滅ぼさないでほしいのです」


「分かりました、約束しましょう」



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