第一章8 水の精霊ウンディーネ
俺はマナの本流と繋がり精霊ウンディーネと契約した。
精霊魔法って、カテゴリーはなんだ?
確か魔法書で精霊使いに関する記述を読んだことがあった。
精霊使いは精霊の力を借りて魔法を発動する。
精霊魔法は精霊の属性が加わるため、普通の魔法よりもかなり強力になるらしい。
だから魔法に耐性のある魔物にも魔法が効くようになるそうだ。
だが………
魔法書には精霊使いは、精霊から力を借りると記述があった。
しかし今回のウンディーネとの契約は契約することによって、ウンディーネと俺のマナが繋がった。
そしてウンディーネが俺のマナの中に取り込まれた感じがする。
そうなると精霊の力を借りるというよりも、精霊の力が使えるのではないのか?
この魔法書にも載っていなかった精霊との契約は、追々ウンディーネから教わるとしよう。
とりあえずまずは………。
向こうで泣きじゃくるララを何とかしなくては。
俺はゆっくりとララの所に歩いていく。
マナと繋がった俺には、全ての物に宿るマナがハッキリと見えるようになっていた。
マナを意識しすぎると全ての物がマナで光り輝き、慣れるまでは歩くことも苦労しそうだ。ゆっくり歩くというよりゆっくりとしか歩けなかった。
俺はララの所まで行き泣き崩れてしゃがみ込むララの頭を軽くポンポンとなでた。
「もう大丈夫だから、泣き止んでくれララ」
ララはやっと泣き止み頷く。
そして、泣き止んだララが顔を上げて俺を見た後目を見張った。
「ッ――ちょっと待ってディケム! 肩に精霊様が!」
「あぁ、さっき神珠杉で契約したんだ」
俺は先ほど起こったことをある程度噛み砕いて皆に話した。
ただ、マナの大河やラインを繋いだことは今回は話さなかった。
なぜならマナを知らない人に、マナの概念自体を説明することが難しいと思ったからだ。
今回は簡単にマナの力を精霊の力として。
その力を受け入れ水の精霊ウンディーネと契約した事を話した。
さっきまで泣きじゃくっていたララが、ウンディーネを見たとたん感動に目を見開き、
俺に『ウンディーネ様に紹介してよ!』と迫ってきた。
「えと~、コレが……… グハッ」
コレと言ったところで、ウンディーネから叩かれた。
「ディケム! 妾はものでは無いぞ! コレとはなんだ! コ・レ・と・わ!!」
「うっ……すみません。この精霊様が先ほど契約したウンディーネ様です」
「そう言う事じゃ! みなの者よろしく頼むぞ!」
みな目を輝かせてウンディーネに挨拶している。
ウンディーネが一人ひとり値踏みして見ているのが少し気になるが、今考えても何も分からないから棚上げしておく。
ちょっと色々あり過ぎたが予定通り皆で神珠杉に行くことにした。
ウンディーネ曰く残念ながら他の者は、さっきの俺のような事は起こらないと断言したからだ。
ウンディーネは残念だというが皆をあんな危険な目に合わせたくはない。
せっかくなので神珠杉までの一〇mにウンディーネから指導を受けて、即席の水の結界を張ってみた。
「おぉ! ディケムこれ凄くないか!」
「ディックお前はなかなか見どころがある奴じゃな! だが妾の力はこんな物ではないぞ? 追々見せてやろう」
皆が羨望の眼差しでウンディーネを崇拝している………。
皆は他人事だから素直に感心しているが当事者の俺は喜んでばかりいられない。
今後の事が思いやられるからだ。
全員が安全に神珠杉までたどり着くことが出来た。
みんな恐る恐る神珠杉に近づいたが、先ほどの事が嘘のように何も起こらない。皆少し拍子抜けしたが、俺はあの圧倒的な力が再燃しない事に安堵した。
その後は予定通り、神珠杉の下で皆でお弁当を食べワイワイ楽しんだ後帰りの旅路についた。
「あぁ~ 俺もディケムみたいに精霊様と契約したかったな~」
「――ディック、あれ今回は何とかなったけど正直かなりヤバかったんだ。絶対にマネしないでくれよ!」
「そうじゃな、妾が介入しなければディケムはあそこで死んでおったな。 決して自分もなどと自惚れたことを考えては駄目じゃぞ!」
「…………」「…………」「…………」「…………」
ウンディーネから『死』という言葉を聞き、皆沈黙する。
そして全員が改めて先ほどの出来事を思い返し身震いした。
皆には今日の事は出来るだけ秘密にしてほしいと相談したが………。
ディックと当のウンディーネから肩に精霊が乗っているのに、秘密にできるはずが無いだろうと即座に突っ込まれた………。 たしかに。
ディックの忠告通り帰りの道すがら、通り過ぎる人達はみな俺の肩を見て、二度見して固まっている。
(これはやっぱり一番の問題は自宅だよなー。この精霊様を両親にどう説明しようか………)
だが……
うちの両親はとても順応が早く、驚くほどポジティブだった。
毎日のように『妖精さん』とお祈りして、お供え物を与えるようになった。
(妖精ではありません、精霊様です………)
案の定、この小さな村では数日で俺が精霊ウンディーネ様を連れていることが広まり、知らない人は居なくなった。
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