第三章6 エルフ戦対策軍事会議
俺たちは、水竜に乗り王城に向かう。
通常王都を水竜で移動することはしない。
だが宣戦布告をした以上、エルフの攻撃はこれで終わりではない。
次の対策を練るために、急いで王城に戦況報告をしたかったのと……
絶望的な状況から脱した事で、人々が歓喜のあまり街中がごった返しているのだ。
とても街中を普通に移動できる状況ではなかった。
俺たちが上空を通ると、人々は大歓声で俺達を送ってくれた。
ドライアドの時に、水竜で上空を移動して騒ぎを起こした分、俺の水竜は住民には馴染みなのかもしれない。
俺達は王城に到着し、謁見の間へ急ぐ。
謁見の間に着くと、そこにはすでに王国の重鎮以外にも、様々な人が集まっていた。
日頃あまり公の場には出てこない、王妃、王子、王女の姿まで見られる。
メガメテオの攻撃は軍人だけではない、国民すべてを標的にした大虐殺だ、王都に住む全ての住人が少しでも多くの情報を聞きたいのだろう。
王国騎士団の団長は珍しく、ラスさん以外に三名が居た。
俺は王に帰還を報告する。
「陛下、ディケム・ソーテルヌ、エルフ軍を撃退して、ただいま戻りました」
『おぉぉぉぉ――!』『すばらしい!』などの大歓声と盛大な拍手が謁見の間に響く!
「ソーテルヌ辺境伯、こたびの働き素晴らしかったぞ! あのメガメテオを防ぎ、エルフ軍を撃退し、王都を、国民を守ってくれたこと感謝する」
「はッ! ありがたきお言葉、畏れ多い事でございます。 王都守護者の任、必ずや遂行して見せます」
「おぉ頼もしいその言葉嬉しく思うぞ。 今後の働きも期待している。 それで…… ソーテルヌ卿、今後のエルフ軍の動きはどう思うのだ?」
謁見の間の全ての貴族が、固唾をのんで俺の言葉を待つ。
「陛下! エルフ軍との戦いはまだ終わっていません、宣戦布告の直後にメガメテオを王都に撃ってくるような敵です。 早急に軍事会議を開き、さきの戦いの戦況報告を各部隊と共有し、次の戦いの戦略を立てなければ、次は危ないかもしれません」
謁見の間に居る貴族の中には、少なからず今回の戦いで全て片が付いたと勘違いしている者がいるようだ。
俺の言葉を聞き、絶望の顔を浮かべている貴族が多いい。
「うむ、わかった! 此度の攻撃はシャンポール王都滅亡の危機であった。 我々の想像をはるかに超える速さで、刻々と戦況が変化している。 ソーテルヌ卿の力が我々の頼りだ、早急に将軍を集め今後の対策を立ててくれ!」
「はっ!」
俺たちは謁見の間を足早に退出し、作戦会議室に向かう。
王族との謁見も大事な仕事だが、今は一刻を争う事態だ。
俺が作戦会議室に入ると、既に王都在中の騎士団四部隊の将軍と各副官が揃っていた。
王国騎士団は通常、王都に常駐しているのは王都守護の第一部隊のみだ。
しかし、他の部隊は月交代で三部隊程が500程の騎士を連れて王都に来る。
これは各部隊が三~四ヵ月に一度王都へ仕事の報告に来ることと、王都の守りを固める為でもある。
現在王都に居るのは四部隊。
騎士の数は第一部隊が2,000名、他の三部隊が合計1,500名。
一般兵士は騎士の50倍ほど人数は居るが……
兵士は騎士とは違う、その将軍が治めている地域に住まう地元兵だ、戦争時では別だが、通常の王都出張には連れて来ない。
今回のエルフ戦は奇襲だ、将軍たちはもちろん兵士を連れてきてはいない。
よって、現状王都に居る戦力は、騎士3,500名。 兵士10,000名になる。
先の戦いではエルフ軍5,000名だった、3倍近くの兵士が居る事になるが………
現実は町を守りながら戦うと、国民を放っておいて、全兵力で戦う事など出来るはずがない。
この大きな王都の守りを考えると一般兵士は町の守りに回し、完全にフリーで戦えるのは、騎士3,500名と考えた方が妥当だろう…… 圧倒的に兵士数が足りない。
『王都守護者ソーテルヌ辺境伯に敬礼!』俺が入室すると皆が敬礼してくれる。
俺はこの会議にララとポートとラローズ先生を連れてきた。
ラローズ先生はラス将軍の副官でもあるので、元から会議には参加なのだが、今回は先のエルフ戦に俺と一緒に戦った精霊使いとして、会議に参加してもらう。
『この度のエルフ軍に対する迅速な対応と、メガメテオを防いだソーテルヌ卿の成果には敬服しかございません!』とラス将軍が口火を切る。
「ラス将軍! お褒めの言葉はありがたいのですが、時間がない。 率直な意見の交換がしたいのですがよろしいでしょうか?」
「はっ! 失礼いたしました!」
ラス将軍は本当に気が利く。
対策を立てることが急務と、社交辞令や貴族の煩わしいやり取りを省きたい俺の想いを察し、ラス将軍がワザと俺に指摘される役を演じてくれる。
俺は各将軍を見渡し話し出す。
「では私から………。 この度のエルフ軍の戦略はメガメテオを王都に打ち込み、壊滅状態の王都を精霊シルフで蹂躙する計画だったと思われます。 エルフ軍の軍勢は5,000、上級魔術師団の数は100」
頷く者、目を見張るもの、反応は様々だ。
現実、戦場に立っていた俺たち以外は、メガメテオ以外はどのような戦いが戦場で行われていたかを、全く知らない。
「私の設置した二十層の防護結界は、八層まで突破されましたが…… あの規模のメガメテオなら問題有りません! 結界もすでに修復しています」
『おぉ――! 素晴らしい!』と感嘆の声が上がる。
「そしてこの度の私の攻撃は、メガメテオを防げる事を確信していたので、迅速に反転攻勢に出ました。 これは……絶対の自信のあるメガメテオを防がれた、エルフ軍の動揺の虚を突くためです! 戦略は成功、エルフ軍に3000のダメージを与えました。 そして上級魔術師団の殲滅に成功! これでしばらくはメガメテオは撃てなくなったでしょう」
『おぉぉぉ―――!』とさらに感嘆の声が上がる。
「しかし………、成果だけを見れば成功でしょうが、私はここでエルフ軍すべてを殲滅する予定でした。 ですが出来なかったのです」
今度は皆が息をのむ……。
「エルフ軍の使役する精霊シルフの軍団が予想以上に強かった! また、エルフ軍の中に精鋭部隊と猛将が一人います!」
「………………」将軍たちは黙り込む。
「エルフ軍は現在、戦場となった東門の二キロ地点から後退して、現在は十キロ地点で留まっています。 この度の敗戦で、撤退はしてくれなかった様です。 まぁ、あれだけ派手に宣戦布告をしたのですから…… そうでしょう」
皆が難しい顔をしている……
『ソーテルヌ卿は、エルフ軍はまた再編成して攻めてくるとお考えですか?』と質問が来る。
「必ず来るでしょう。 しかも次は此度のような虚は突けない、万全の相手と正面から戦わなければならない」
「ソーテルヌ卿…… 万全の相手と戦うと、どのような懸念が考えられますか?」
「………………。 此度、敵の動揺をついても予想以上に強かったのです。 エルフは風の精霊シルフの加護を得た種族。 兵士全員がシルフを使えると想定した方が良いでしょう。 またシルフを使える兵士は空も飛べます、騎士団でもまともに戦っては勝ち目はないでしょう。 万全のエルフ軍と戦えば、かなりの犠牲者が出ると考えられます」
『ぐっ……』犠牲者の言葉で皆の顔が青くなる。
「今後の戦略の組み立ての為、今回私と一緒に戦ってくれた彼女たちの力と、どのように戦ったかを皆さまにも把握しておいてもらいます」
皆が頷き真剣にきく。
「まずはララ。 彼女はわたしとマナラインが繋がっているので、私の月の上位精霊ルナが使えます。 この度はクリスタルゴーレムを使って、エルフ軍への打撃系攻撃を行ってもらいました」
「次にポート。 彼女は木属性の精霊、木霊と契約しています。 彼女は王都の植物よりトレントという木兵を呼び出すことが出来ます。このトレントは攻撃には不向きですが、防御に強い精霊です。 とくにエルフの契約するシルフの弱点は木属性ですので。 今回の戦いでは結界が破られた時の保険として、防衛に備えてもらっていました」
「そしてラローズ、彼女は皆さまもご存じの、水の精霊ウィルウィスプを使役します。 今回彼女には王都の結界強化を担当してもらいました」
「そして私が遊撃で、魔法師軍団を殲滅に向かいました」
将軍たちに俺たちの情報を伝えた。
次の戦いは、両軍正面からの総力戦、消耗戦が予想されるからだ。
自軍の戦力を把握していなければ、作戦は立てられない。




