第三章3 神獣フェニックスの誕生
『そう言えば、ディケム君! あの伝達は何だったのよ?』とラローズさんが聞いてくる。
「伝達? 木霊のことですか?」
「そうそう!」
俺は木霊を顕現し説明する。
「この町中に張り巡らせたドライアドの植物情報網は、みな理解してますね?」
みな頷く。
「ドライアドの植物情報網に、木霊を乗せて送ったんです」
「っえ! そんなことが出来るの? びっくりしたわよ! いきなり木霊が植木から現れて伝達してくるから――!」
『ドライアドの情報網に木霊を乗せる……、それは凄いかもしれないな!』ラスさんが興味を示す。
「王都の通信ラインは、数人の術者が魔力を使って通信を繋げることが出来る…… だが魔力もコストも非常にかかるから、鑑定の義と、戦争の時にしか使用が許されていない。 魔術師を揃えるのに時間もかかるから、気軽に使えるものでは無いんだ」
確かにドライアドの木霊通信は、低コストで手軽さはあるが、致命的な問題がある……… 俺は木霊通信の問題点を上げる。
「ただ、今回俺が使った木霊は、俺からは送れて、相手からも返信は貰えるけど……、最初に俺から送らないと、相手から発信することは出来ません。 今のところこの方法を使えるのは木霊が使える俺とポートのみですね、これから研究してみます」
『う~ん』と皆うなる。
「それと……、もう一つの問題点はドライアドの情報網に限られます。 ただこれは、今回サンソー村のドライアドと繋がったので、エリアを増やすことは可能です。 どちらにしても、すぐにはどうこう出来ないですね」
追々考えるって事で、この話は終わりという事にした。
そして、皆で俺の部屋に移動する。
『ねぇディケム、どうして孵化が今日って言いきれるの?』とララがたずねる。
ひょこっとウンディーネが出てきて説明してくれる。
「マナの総量じゃよ。 卵のマナを見ると……、例えばじゃが1000必要なマナが999まで溜まっていることが分かる」
『マナって便利なのね~』とララが感心している。
「それでは始めます! 先生準備はよろしいですか?!」
「OKよ! おねがい!」
俺はいつものように卵に手をかざし、マナを注ぐ。
すると―――!
卵にひびが入る………。
みな緊張して見ている。
卵がどんどん割れ出し、空いた穴から赤いくちばしが覗く―――!
『これは―――!』俺がつぶやく。
『これは当たりじゃな! フェニックスじゃろう!』ウンディーネが言う。
卵に空いた穴が大きくなり、炎に包まれた鳥がヨチヨチと出てくる。
そして俺をよじ登り肩に留まる。そしてじゃれるように頭を俺の頬にこすりつける。
『カ…… カワイイ~~~~~!』女子たちは叫ぶ
『おい! ディケム! お前熱くないのか?』男子共は可愛さよりも、現状を指摘する。
「あぁ、なぜか熱さは全然感じない………」
するとウンディーネが説明してくれる。
「フェニックスは炎属性の神獣じゃが、その炎は復活の炎じゃ。 マナの模様が炎に見えるだけで、炎に見える鳥の羽だと思えば良い」
『へ~』とみな、フェニックスをよく見るが…… 炎にしか見えない。
「フェニックスが纏うのは復活の炎、敵をせん滅するときは、神獣としての神の炎で全身を焼き敵に突っ込む! 簡単に言うと自爆攻撃じゃ―――!」
その説明に『え………?』と皆が唖然とする。
「じゃが! フェニックスは消滅しても不死鳥の属性でよみがえる。 何回でも、何回でもよみがえる。 フェニックスの本当の消滅は、ディケムのマナが無くなったとき。 ようは我々精霊と同じじゃ」
『そうするとイフリート様と同じって事ですか?』とララが質問する。
「炎属性の攻撃として使うなら、ほぼ同じと言うより、攻撃力はイフリートに劣る」
『え………?』と皆疑問に思う。
「じゃが、フェニックスの凄さは、その属性、不死・復活じゃ――!」
みな食い入るように説明を聞く。
「例えば……… アルザスの戦いで、ディケムは普通の剣に炎を纏わせ、奥儀:金翅鳥王剣を放った。 そして剣はその威力に耐え切れず、刀身が溶け落ちた」
ダルシュが、ラスさんにもらった剣を大切に抱えて、ゴクリと息をのむ。
「しかし、あの時にフェニックスが居たら、フェニックスが霊基となりディケムが纏っていたら、剣は復活する―――!」
『おぉぉぉぉ!』と皆驚く。
「ディケムが着た鎧は、敵が幾らダメージを与えても、復活するのじゃ! 悪夢じゃろう?」
ラスさんが息をのむ………。
『ちょ、ちょっとディケム君! フェニックス私も欲しいんだけど!』ラローズさんがいつもの無茶ぶりを言う。
「神獣はその代に一匹のみ、フェニックスはディケムが死ぬまでこ奴のみのものじゃ。 他の神獣を探すしか無いの」
『ウンディーネ様、先ほどアタリと言っていましたが、外れも有るのですか?』ララがたずねる。
「いろいろ居るが、例えば饕餮などは、貪欲で全てを食らおうとする。 自分さえもな…… 卵からかえってすぐに襲って来るじゃろう」
『………………』皆唖然としている。
「神獣の卵を見つけても、そう安易に孵化させようと思わぬことじゃ」
『では、今回はなぜ普通に持って帰ったのですか?』ララがたずねる。
「卵の色とマナの雰囲気じゃろうな、炎系の色と神聖を帯びたマナ……、 これはフェニックスか麒麟とかじゃろう」
『なるほど……』とみな納得する。
「神獣と人が呼んでいるだけで、先ほどの饕餮などは、封印すべき魔物として恐れられている。 じゃが、それは人族の考え方で、何でも食らうから魔も食べてくれるのじゃ。 ようは使いようじゃの」
「ちなみにディケムよ、精霊は個が無いから、日ごろお前のマナに溶け込んでいる。 呼び出した時だけ出てくるが…… 神獣は基本【個】じゃ、卵から孵ったことからも分かるじゃろ。 だから連れ歩くか、部屋の止まり木にでも置いておくしかない。 幸運にもフェニックスはその特質からマナを移動できる。 部屋に置いていても、お前が呼べばお前の元にマナを伝ってやってくる」
俺は頷く。
「じゃが……… 今は生まれたばかり、さすがにしばらくは、一緒に居たほうが良いじゃろうな」
俺は先生を見る。
「まぁ学校も大丈夫でしょ! フェニックスよフェニックス! 皆、見たいでしょ!」
全員頷いているが、俺は恥ずかしい………。
翌日から、俺はフェニックスを肩に乗せて登校するようになった。
フェニックスには小さくなってもらい、肩乗りフェニックス的な感じで………。
次回からは急展開、この章の本題に突入です。




