第二章46 幕間 ヒルダとメリダ
「どうしたメリダ!」
「い、いゃあの…… ディケム様、やっぱり今日は―――」
「メリダ、お前が今日一緒に行きたいって言うから、連れてきたんじゃないか、もう諦めてそのドア開けて入れ」
『うぅぅぅぅ…………』メリダが頭を抱えて縮こまる。
俺とメリダは今、ブロワ村の木馬亭の前に居る。
俺は定期的に木馬亭に来て、ヒルダの話を仕入れていた。
そして、諜報部がある程度サマになったとき、メリダが一緒に行きたいと言ってきた。
この木馬亭は、メリダの母ヒルダが経営する酒場、メリダが家出した実家だ。
中に入れずにオロオロしながら、メリダは窓から酒場の中をのぞく。
さすがは勝手知ったるだ…… 何処から覗けばヒルダにバレないか、知り尽くしている。
中をのぞくと……
寂れてたはずの木馬亭が、活気に満ちた酒場になっていることにメリダは驚く。
そして嬉しそうに微笑んでいる。
今日は、俺がソーテルヌ辺境伯と言う事は秘密。
だけれども、メリダは今、ソーテルヌ卿の元で働いていると報告。
俺とメリダは王都で知り合い、ヒルダの願いを聞き連れてきた――― と言う設定だ。
煮え切らないメリダを待っていたら、いくら待っても進まない。
正直俺はそれ程暇じゃない―――
って事で! モジモジしているメリダの背中を押し、無理矢理酒場に押し込む。
「わ……、わぁ~ ――――――!」
メリダが体勢を崩して、酒場に転げ入る。
床にへたり込むメリダを見て、ヒルダが目を見張る。
「えッ………………………。 メリダかい?」
「あっ…… か、母さん…… ただいま」
ヒルダは何も言わず、メリダに駆け寄りメリダを強く抱きしめる。
「ちょッ! か、母さん…… はずかしい……よ」
ヒルダはメリダを離さない。
「………………」
ヒルダの気が済むまで、メリダを生贄にして、酒場の皆はそれを肴に大騒ぎする。
「よしみんな! 今日はヒルダとメリダの記念すべき日だ――! 今日の飲み代は全部このディケム様が受け持つ! さぁ飲め――!」
「おぉぉぉ―――! ディケム気前が良いな!! 何かいいクエストでもクリアしたのか?!」
⦅俺のおごりだけど…… 俺まだ酒飲めないんだよね⦆
酒場の常連はタダ酒に大騒ぎ、お陰でヒルダとメリダはゆっくり話す時間が出来た。
失った数年分娘を抱きしめたヒルダは、落ち着きを取り戻し。
酒場の隅で話をする。
俺も邪魔だと思ったが…… メリダが俺の腕を離さない。
「そうかいメリダ…… 今はソーテルヌ辺境伯様の所で働いてるんだね。 凄いじゃないか、大出世だ! 母さん自慢だよ」
「うん……… ありがとう」
それからメリダは、今までの事を母親に話した。
家を飛び出して、王都のスラム街に住んでいた事。
スラムの盗賊団の頭まで上りつめた事。
盗賊団が落ちぶれていき、それでも残った団員を見捨てられず、最後まで意地を張っていた事。
ソーテルヌ辺境伯に挑み、負けて、団員全員拾ってもらった事。
『そうかい…… そうかい………』とヒルダはただ嬉しそうにメリダの話を聞くだけだった。
「母さん…… ごめんなさい。 わたし、酷い事言って家出した。 でも結局わたしは母さんと同じだったと気づいた。 だから…… きちんと謝りたくて今日は来ました」
「メリダ…… そんな事はどうでも良いんだよ、あなたがまた私に会いに来てくれただけで、それだけで良いんだよ」
生きていてくれただけで良い。
親の愛情は何よりも深いようだ―――。
「ディケム、あんたが王都に来た時の…… あんな小さな約束を覚えてくれていたなんて、ホントに感謝だよ。 ありがとう」
『あぁ』と俺は頷く。
「もしさ…… あんたがソーテルヌ辺境伯の事も知っているのなら、『娘をよろしくお願いします!』って伝えておくれよ…… ディケム」
⦅あれ…… もしかしてヒルダにバレてる? まさかね?⦆
「あぁ、お会いしたら必ず伝えておこう」
「ありがとう、じゃ~とっておきの情報を教えておくよ! エルフ族に不穏な動き有りだ! しかもダークエルフの暴走っぽい………」
「ッ―――なっ!」
今までの感動の場面が吹っ飛ぶほどの、爆弾情報をヒルダは投げてきた―――!
「ちょっ! ヒルダそんな大きな噂…… 何か根拠が有るのか?」
「ある訳ないだろ? これは酒場の噂話、真意を確かめるのは上の人の仕事だろ?」
「………………」
「ただね、モンラッシェ共和国に圧力をかけていたダークエルフが、3年前のアルザスの奇蹟で鳴りを潜めてたのに、ここに来てダークエルフ軍が兵を集めてるって噂だよ。 しかも情報筋じゃ…… 狙いは人族の要シャンポール王都! 非常に危険な状態だと聞いた。 あんたら十分注意するんだよ!」
俺達はヒルダからもらった情報を調べる為、急いで王都に戻った。
これで二章は終わりにする予定です。
次回は第三章に突入する予定です。
引き続き読んで頂けると、嬉しいです。




