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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章45 幕間 妖精たちの夜宴と人族の王


 メリダたちがウチの諜報部として入って、少しラスさん達と確執が出ると思っていたが……

 杞憂だったらしい。 

 ラスさんのパーティーにもシーフのギローさんが居るが、軍隊と言うところはキレイ事だけでは済まない、諜報部隊は必須らしい。

 俺がメリダを連れてきたときに、むしろ喜ばれたほどだ。


 だが…… メリダたちはやはり苦労していた。

 諜報部になった事で、盗賊ではなく軍の兵士だ、上下の規律は盗賊の中で培われ問題ないが、訓練など、規則正しい生活が苦手のようだ。

 正直、きちんと軍の1部門として機能するには数カ月かかるだろう。


 しかしメリダはホント根が真面目だ、母親の所に謝りに行きたいが、きちっと軍の仕事が出来るようになるまでは、行けないと意地を張る。

 さらに、以前忍び込んだ時に、ルルに嘘をついたことをケジメとして誤りに行っていた。

 メリダを引き抜いて、正解だったと思う。



 そんな事で、学校に通いながら軍の強化をして、数カ月になる。

 そろそろ落ち着いてきたので、我が屋敷に一度、シャンポール王を招こうと思っている。

 

 なぜ王を招くのかと言うと…… 単純に王より一度招待しろと宰相伝いで言われているのだ。


 王都に来た時に結界を張り、唐突に敷地内に神木が生え、先日から夜にその神木がほのかに光っている、さらには精霊の目撃情報が絶えないとなれば…… 誰でもどうなっているのか気になるのだろう。


 そして…… まことしやかに囁かれる噂がある。

 それはソーテルヌ邸では精霊様が飛び交う、夢のように美しい夜宴が催されていると……。


「うん、その夜宴本当です……」

 ⦅その情報、どこから漏れた……… まぁ隠してないけどね⦆



 と言う事で、王家に招待状を出す。

 国王陛下、王妃、王子、姫、そしておつきの宰相。

 警備にラス・カーズ将軍とラローズ先生。


 ホストは俺、執事のゲベルツには俺のそばに付いてもらう。

 必要最低限の限られた人だけの夜宴。

 『精霊達の遊び場を垣間見る会』とし、最低限の人数にさせてもらった。


 ちなみに両親とダルシュにはその日、『王様が来るから家から出ないで』と言ってある。

 3人とも王様が来ると聞いて、無言で首を縦に振っていた。



 当日夕方に、国王陛下のご家族ご一行が馬車で到着される。

 ソーテルヌ邸で働く者総出で出迎える。


「国王陛下、お待ちしておりました」

「ソーテルヌ卿、夜宴への招待感謝する」


 俺は、夜宴会場の神木の横のテラスへ、陛下御一行をお連れする。


 その会場は、国王陛下をお誘いするにはとてもシンプルな、夜宴会場だ。

 音楽隊も曲芸師も誰も居ない、キャンドルの火だけ灯されたシンプルな会場だ。


 ただ一つ、会場のテーブルとイスは、精霊ルナが作った水晶で作られたものだ。

 硬質なクリスタルを、これほど造形的に素材として使う事は人の手では出来ないだろう。

 もちろん椅子にはクッションを引いている。



 王族ご一行と俺は席に座り、陛下の横にはマール宰相が控え、俺の横に執事のゲベルツが控える。

 ラス将軍とラローズ先生は王の後ろで護衛だ。



 全員が着席したとこで、クリスタルの食器にパンが運ばれてくる。

 バターとジャムも添えて。


「ソーテルヌ卿、このパンは美味しいな!」


「はい、そこの庭園で育てられた小麦で作っています。このマナで満たされた肥沃な土地で育てた作物は、本来の力を発揮します。 このように味と栄養が凝縮されるのです」


「本来の味?」


「はい、度重なる戦争で土地が枯れてしまっているのです。 このパンが美味しいのではなく、本来のパンはこのように美味しく、栄養も豊富なのです」


「なるほど………」


「陛下。 その事をココで研究して、パンの栄養を増やし、貧民街の子供の飢えを救う為に尽力している者をご紹介させて頂いてもよろしいですか? 是非陛下よりお言葉を頂ければ、その者の励みになります」


「ほぉ、ぜひ会わせてくれ」


 ディケムはルルを呼び、陛下に紹介する。

 平民のパン職人が陛下より直接お言葉を貰えることなど、普通ではあり得る事ではない。


「ルル。 そなたの努力のパン見事なものであった。 そしてその努力が貧民の子供の為と聞き感銘を受けた。 本来ならばそれは私が行わなければならない仕事、感謝する。 今後そなたの研究費用にソーテルヌ卿の予算を増やすことを約束する。 そしてこれはその約束の印だ、受け取ってくれ」


 王はそう言い、ルルに【ボンボニエール】を下賜(かし)する。

 ボンボニエールは手の平サイズの、細工を施された菓子箱だ。

 昔から王族より、見事な仕事をしたものに贈られる褒美である。


 王にお礼を言うルルの所に俺は行き、そしてルルのボンボニエールにそっと手をかざす。

 ボンボニエールの蓋に付けられている飾り水晶に、ほんのりと小さな明かりが灯る。

 飾り水晶に小さな精霊結晶を埋め込んだのだ。


「ルル、これは俺からのお礼だ、このボンボニエールの中は常に聖なるマナに満たされ浄化されるはずだ。 そして…… お前が窮地の時も救ってくれるだろう」


「ちょッ! ソーテルヌ卿それは精霊結晶? 我々には分不相応って言われた―――」


 ラローズ先生の言葉を、俺は『シー』と口に指をあてるジェスチャーで止める。

 そして『武器ではなく、お守りです』と付け加えて置いた。


 ルルはボンボニエールを大切そうに胸に抱き退出していく。



 そしてスープが運ばれてきたときに、『シャン…… シャン………』と微かな音が聞こえだす。


 俺は王のご家族全員に、しゃべらず耳を澄ますように言う。


 『ピチョン…… ピチョン……』

 『シャン……  シャン……』


 いつの間にか夜が更け、夜闇が辺りを覆いつくそうとする時刻……

 神木がほんのりと光り出す。


 王族の皆が息をのむ――!


 そして薄っすらと顕現しだすいくつもの水色の光の玉。

 『ピチョン…… ピチョン……』

 その足音に合わせて、踊るように走り回る。


 それに合わせて……

 いくつもの緑色の光の玉が顕現する。

 『シャン……  シャン……』

 その足音に合わせて、踊るように走り回る。


 ほんのり光る神木の周りに、無数の青、緑、赤、黄の光の玉、オーブが楽しそうに飛び回る。

 それは息をのむ光景。

 その光の共演と精霊たちの足音が、幻想的な雰囲気を相乗効果で増幅させていく。


「おぉ、おぉぉぉぉ……… な、なんという光景だ―――! ソーテルヌ卿、素晴らしい!」


「はい陛下。 ほんの少し精霊たちの遊び場を覗き見るだけですが……… 一度陛下にも御覧に入れたかった光景です。 精霊たちの機嫌もございますので、あまり公開できません、ご了承ください」


 陛下はその光景にくぎ付けになったまま、目を離せず、ただ頷くのみだった。



 一通り食事も終わり、皆が満足したところに、執事ゲベルツの淹れたハーブティーが運ばれてくる。


 『ソーテルヌ卿…… いえ、ディケム様!』フュエ王女が貴族名ではなく、『ディケム』と俺を名で話しかけてくる。


「はい、フュエ殿下」


「ディケム様は度々ココで夜宴を行っていると聞きます…… このような夜宴、私ももっと参加したいです。 ズルいです!」


「殿下…… ズルいとは手厳しい。 ですが…… この神木の領域は精霊の領域。 本来ならば精霊は人が入る事は許しません」


 皆が息を飲むのが分かる。


「私が夜宴を開くのは、精霊使いと私のパーティーメンバーだけです。 彼らは精霊と(えにし)を結ばなければなりません、精霊の機嫌ばかりを気にして、遠目で見ているだけでは(えにし)は結べないのです。 ですから定期的に精霊と接する機会を作っているのです。 そして『どうせなら楽しく!』と夜宴を行っていますが……… これは我々精霊使いには必要な仕事なのですよ」


「ご、ごめんなさい。 私のような何も知らない子供が、差出口を……」


「いえ、殿下。 今後はもう少し皆さまをお招きして、夜宴を行うとしましょう。 精霊達にも陛下や王族の皆さまの事を知ってもらわなければなりません。 精霊にも感情と情がございます。 精霊の情を掴むことが出来れば、有事の際には心強い味方になってくれることでしょう」


 『はい!』とフュエ王女は嬉しそうに返事をする。



 王族を招いての夜宴は大成功に終わった。

 約束した通り、また王家のご家族を招待しての夜宴を、行う事にしよう。


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