第二章42 いじっぱりなルル
ルル目線になります。
私はルル、サンソー村のパン屋の次女、姉ララの一歳下の妹だ。
このサンソー村はとてものどかだ。
ここで普通に暮らし、家族を作って老いてゆく…… 私はそんな生活が嫌だった。
私が6歳の誕生日を迎えた時、ララの幼なじみ達が、『昔し村で行われていた【お披露目の義】というのをやろう』と言い出した。
私は正直ララの幼なじみが苦手だった。
一歳しか違わないはず、少し早く生まれただけ……
なのに! ララも彼らもいつも私を下に見ている、それがたまらなく嫌だった。
どうせ【お披露目の義】とやらをやるなら、一番乗りでたどり着いてやる。
そんな意気込みで、神珠杉を目指し、村の結界の端まできた。
そこで、やっぱりいつもの『ルルは一番安全な順番で――』となった。
私が先に行きたいと言っても、多数決…… いつも通りの順番だった。
⦅もう、本当にイヤ――!⦆
一番最初はディケム、この頃魔力を操作して水の玉とか飛ばしている。
とても綺麗で触りたかったのに、ダメだって言われた。 ケチ!
ディケムが神珠杉の近くまで行くと―――
ディケムの水の玉が膨張して、破裂した!
そして、金色に輝く砂嵐に巻き込まれ、倒れていく!
「やだ! なに恐い! 誰か私を助けて―――!!」
私は心の中でそう叫んでいた。
この時、私とララ達との道が分かれた。
その後、ディケムは上位精霊様と契約して、この時『ディケムを助けて』と願ったララ達は、ディケムとマナのラインが繋がったらしい……
私はあのとき、『誰か私を助けて!』と願った。
いけない事なの? あたりまえの事じゃない。
あんなの怖くて、助けを求めることが普通でしょ?
自分の事より、ディケムを心配するララ達がおかしいのよ!
ディケムを心配した彼らは、私が欲しかった魔法使いの才能を手に入れた。
ディケムとの繋がりで、精霊様の影響を授かったらしい。
次の年。 次はわたしの番!
魔法使いの才能で私もララ達のように、王国騎士団のキャンプに行くの!
そして才能を発揮してララ達をごぼう抜きよ!
………能力は【職人】だった。
父さん母さんは大喜び、パン屋の跡継ぎが出来たと……
『ぜったい嫌!』 私はもっと冒険に満ちた人生を歩むの!
私が家でパン屋の手伝いしてる時、ララ達は王国軍のキャンプ場で楽しんでいる。
毎日疲れて、泥のように眠っているけど、だからなに?
毎日繰り返し同じパンを焼く、この死んだような生活より、よっぽど楽しいじゃない!
二年後
また戦争が始まる…… 王国騎士団の兵士は王都に帰っていった。
ララ達は今も村で自主トレに行っている。
なんで私はずっとパン屋の手伝いで、ララは王国軍が返っても、訓練続けてるの?
しかも父さんも『ララは大変だから』って家の手伝いはやらせない。
褒められるのはいつも、ララ ララ ララ ララ………………… 嫌になる!!
王国軍が返った後、置いていかれたはずのディケムが、【アルザスの奇跡】【英雄ディケム】と言われて国中大騒ぎ………
あぁ……… これでまた、ララ達はチヤホヤされるのね。
あの時、神珠杉に私も居たの、でもなんでこんなに道が分かれちゃったの?
神様は不公平だ、ララが訓練で疲れて帰ってくる顔が嫌い。
なら私が変わってあげるから、変わってよ!!
二年後、ララ達は王都に行った。
みんなで、ディケムの家に住むんだって。
王都は沢山の人が居て、毎日お祭りのようだとか。
あぁ…… 私もこんな村じゃなく王都に行きたい。
来年私も十二歳、私はどうなるの?
王都のパン屋さんに修行に行けるの?
それとも、ずっとここで手伝いをして、十六歳で戦争行って………
もし死んじゃったら、私の人生なんなの?
誰か、ここから連れ出してよ。
村に来る行商人から、王都の話が聞こえてくる。
大改革をして、水と緑とクリスタルの彫刻が調和した、とても美しい王都になったとか。
一生に一度は見に行きたいと、連日王都は旅行客で大賑わいだとか。
あぁ……… ララはそこに住んでいるのね。
ディケムから、家族を王都に移住させたいと、連絡が来たそうだ。
え…… ダルシュも王都に行くの?
⦅ッ――なぜ?!⦆
これほどに行きたい私が行けなくて、この村で暮らしたい人たちが王都に行くの?
この世の中は、思ったことの反対になるようにできているの?
私はこのまま待っていても、誰も連れ出してくれないわ。
このチャンス、自分でつかみ取ってやる!
「父さん、母さん、今度わたし十二歳になるでしょ。 ララ達が村に帰って来た時に、私も王都に行かせて!」
「何を言っているんだ、ルル。 お前は王都なんか行かなくても家で働けば良いんだ! 王都なんかいったら苦労するに決まっている」
「父さん、十六歳になったら私戦争に行かないといけないの! あと四年間! 好きな事させてよ! 戦争で死んじゃうかもしれないの、今までお父さんのいう事聞いてきたわ! 四年間だけ! 四年間だけ――― お願いよ……」
涙が溢れて止まらない………
「このまま死ぬなんて嫌よ………」
絞り出す声で、訴えた…… お願い、もっと色々なものを見てみたいの………。
ララ達が返ってきて、父たちはディケムに話してくれた。
そして、私は王都に行けることになった。
初めて乗る馬車、それだけで嬉しい。
この馬車もディケムのものらしい。
私が乗る馬車は、ララ、ディック、ギーズ、そして私。
三人から王都での話を聞く。
ディケムはソーテルヌ辺境伯という貴族様になっていて、三人はまだ爵位も何もなく、家もディケムの居候、家族を呼べるわけがない状態らしい……
⦅あれ? あんまり私と大差なくない?⦆
夢にまで見た王都。
町中水路が張り巡らされ、魚が泳いでいる。
水路に沿って、木々が並んで植わっている。
広場や噴水、展望台、街のちょっとしたスペースにクリスタルで出来た彫刻が飾ってある。
⦅あぁ…… なんて素敵なのでしょう。 私が求めていたものが、ここにある⦆
馬車は貴族街に入っていく。
貴族街なんて、あぁお姫様になったみたい。
ディケムの屋敷に着き、門をくぐると…… 使用人と王国騎士団の兵士が両脇に並んで出迎えてくれる。
⦅あぁ…… なんて素晴らしいのでしょう。 早く私も自分の屋敷を手に入れて見せるわ!⦆
今晩はララの部屋に泊まることにした。
食事は自炊と言ったが、今日は使用人が作ってくれた。
まぁ、今日来たばかりだから良いわよね。
明日からどうするか、明日考えましょう。
次の日から街に出て、仕事を探した。
誰も私を相手にしてくれない……
とにかくお金を稼がなけりゃ、村に返されちゃう。
仕事を探しながら、日払いのバイトで日給を稼ぐ。
毎日毎日肉体労働で、自炊する体力無いから、稼いだお金で屋台で食べる。
屋敷に戻って泥のように寝る…… これが私の日課。
どうしよう、家賃分はお金を残さないと。
今日も日払いバイト。
終わったら少しのバイト代で、シャンポール王都名物フルーツサンドを買う。
フルーツサンドを食べる場所は…… 噂に聞く中央公園の噴水広場、そこに格別に美しいという女神像が有るという。
今日の楽しみは、その女神像を見ながら食べる事だ。
噴水広場に着き、期待に胸弾ませて女神像を見上げる――― すると……
⦅女神……… ララだった………⦆
私は小石を拾い上げ、女神像に投げつける!
クリスタルに傷がつくはずもなく、悪態をついていると。
広場の人たち皆に怒られた。
「なによ! もぅ―――!」
私は何もかもがうまくいかず、泣きながら走って、高台広場のベンチにたたずむ。
こんな筈ではなかった………
もっと華やかで、もっと楽しくて………
いや違う…… 最初から分かっていた。
なんでもそんな簡単じゃない。
私は運がない? そんな筈ない、みんな同じ。
理想どおりになんて誰だって簡単になれない。
私だけが不幸なんて、そんなはずない。
みんな一生懸命やっているのに、私は妬むだけ。
私は素直になれない、ララはいつも素直。
こんな性格の悪い私なんて、誰も助けてくれるはずがない。
しょうがないじゃない、これが私、私は自分の気持ちに嘘をつきたくない。
偽った私で居たくない、正直に生きているだけ………
涙が止まらない………
「やっと見つけた!」
ディケムが立っていた、ハンカチを渡してくれる。
「なによ、なんでここが分かるのよ! ストーカーなの、気持ち悪い」
そんな事言いたいんじゃない…… 素直にありがとうって言いたいのに……
「王都の町は俺が設計したって言ったじゃないか。 みんなが綺麗って楽しんでくれているけど、基本は防衛用に作っているんだ。 町中に植わっている植木を通して、ドライアドに情報が入って来るんだ。 だから…… ルルが女神像に石投げた後、ここに来たの分かったんだよ」
「……なによそれ、コワイ…… やっぱりストーカーじゃない」
ディケムは笑ってごまかしている。
「そういえばルル、うちの屋敷でさ、兵士が訓練しているじゃない」
「うん…… だからなによ」
「訓練終わった後にさ、食事も出しているんだけど…… 人手が足りないのね。 特にパン焼く人が欲しいんだけど、お願いできないかな? もちろん国から給料でるよ」
「……………。 べ、別にやってあげても良いけど、私も忙しいのよ………」
「ありがとう、お願いね」
「ちょ…… ま、まだやるって言ってないじゃない!」
「あ! それからさ、薬草園でも人手が欲しいんだ、ルルは職人のスキルあるから、パン焼くの終わったら、そっちも手伝ってくれないかな? もちろん、別に給料出すけど、お願い」
「…………。 そ、そんなにお願いするなら、やってあげても良いけど……」
「ありがとう。 じゃ~明日からお願いな。 食事も兵士が終わったら食べられるから」
「じゃ~ もう外で食べられないわね、残念だわ!」
⦅ディケムのやさしさが胸に突き刺さる⦆
「それでは! 皆が心配するので、そろそろお家へ帰りましょう! お姫様」
ディケムがおどけて見せる。
私は涙が止まらない………
『ディケム……… ありがとう』 ディケムは笑うだけだった。
それから私は、毎日パンを焼き、薬草園でポーションづくりの手伝いをしている。
親しい人も増え、ポーションづくりでは、一緒に実験もさせてもらっている。
生活も安定して、お金に余裕も出てきたから、実家に仕送りすることにした。
「あ~ぁ~ ララにディケム渡したく無くなっちゃったな~」
私は少し素直になってきたみたいだ。




