第二章41 ルルは王都で暮らしたい
帰郷している間俺は、この1年間で増えた古本屋の本を全て読むために毎日通っていた。
今日も本屋に行こうと身支度をしていると……
母さんから、少し付き合ってほしいと言われて、ララの家に連れて来られた。
⦅なんだろう??⦆
ララの家に招かれ、お茶を飲む………
机の前には、ララのお父さん、お母さん、ララ、妹のルル
⦅あ、あれ? ナニこのシチュエーション…… まさか責任取ってくださいとか、そんな話じゃないよね? 俺まだ、何もしていません!⦆
脂汗ダラダラで、座っていると…… ララのお父さんが口を開く。
「ディケム君、今日はお願いがあります」
「は、はい……?」
ララの笑顔も引きつっている―――!
⦅おい、ララ! 何の話が始まるんだ!⦆
あっ! ララが顔を逸らした………
「じつは…… ルルの事なんだが――」
「へ? ララじゃなくてルルですか?」
「ん? ララの事でなにか有るのかい?」
「ッ――いえ! ルルですね、ルル! っでなんでしょう?」
「ルルはララの1つ違い、1つしか違わないのに、王都での君達の話がしょっちゅう村まで聞こえてくるんだよ」
「はい…… ご迷惑をおかけしています」
「いや! そんなことは無い! 人族の希望として頑張っている君を誇りに思っているし、その近くにララを置いてくれていることも感謝している! ⦅これでララを貰ってくれれば………⦆」
ん……? 最後どさくさに紛れて、何か聞こえたような? おとうさん??
「それでだが、ルルが拗ねてしまってな…… しかも、ルルはこの前の鑑定で【職人】の才能だった。 戦いには向かない、パン屋を継ぐのが1番だと思っている」
「お父さん! 私拗ねてないもん! 王都に行って働きたいって言ってるだけだよ!!」
⦅なるほど………⦆
「だって、この前王都から行商に来た人が、いま王都は凄いきれいになって、どの国の王都よりも一番きれいだって言ってたの!」
「フフ~ン、そぉ! ディケムが王都改造計画を行って、凄い町になったんだから~!」
『ン―――――――――ッ!』ルルが見る見る脹れる。
⦅ララ――! それ今言ったらダメなやつ! ルルの焼きもちが!⦆
「ルルだって、王都に行ければ、すごい事出来るんだから!」
⦅ダメだ…… ララの一言で完全にこじれた……⦆
俺は一応説得してみる。
「ルル、俺たちはみんなが思うほど良いものでは無いよ」
「え? なんで? みんな楽しそうじゃない!」
「楽しそうにしないと、心が折れてしまうんだよ」
「え………?」
「王都は華やかに見えるけど、その裏には常に戦争があるんだ。 俺も、ララも、戦場で沢山の人が死ぬところを見た。 亡くなった兵士の家族の号泣、お父さんが亡くなって、身を売るしかなくなった娘さんの涙。 愛する人を助けるために、自分の命を捨てる恋人たち。 そして俺たちが奪う敵の兵の家族もそこに居る。 そんな悲しい物語の上に王都は有るんだよ」
『………………』皆が黙り込む。
「それでも行きたいの! この時間が止まった村じゃなく、外の世界に飛び込んで、自分の目で見てみたいの!」
⦅説得失敗…… この意思の強さはララと一緒だな⦆
「それでディケム君、ルルも一緒に連れてってやってくれないか?」
「良いのですか?」
「この子もララと同じ強情だ、一度王都に行って経験してみないと引かないだろう。 ディケム君と一緒なら、後戻りできない事にはならないと思うんだ」
「俺は良いですよ。 屋敷広いし、部屋は沢山ありますから。 その代わり、いつも兵士が出入りして、負傷者を目にすることも多々有りますが良いですね」
ルルがガッツポーズしている。
「ああ、ありがとう、ルルには家賃を払わせる、それと食事は自分で作らせる」
「いえそれは別に大丈夫―――」
「――いや! それが、私がルルに付けた条件だ。 安全な住む場所だけで十分だ、本当は家も自分で決めて、働いて家賃を払うのが当たり前なのだから」
⦅なかなか厳しいけど…… まぁ良いか⦆
それでルルの話はおしまい。
そのあとは、いつララを貰ってくれるのかなど、懐かしい茶化し話で終わった。
そして、出発の前の日、いつもの本屋に行く。
『明日王都に帰ります』と挨拶をして、立ち読みを始める。
夕方になり『結局全部読めなかったな~ また来よう』と帰ろうとしたときに……
オーゾンヌから話しかけられる。
「ディケム、これをやろう」
そう差し出されたのは、黒い透明な宝石のペンダントだった。
「これは?」
「精霊結晶の一種だな」
この大きい精霊結晶を見て驚いた。
この世界の精霊結晶は米粒程度、自然に出来た精霊結晶にこれ程大きな物は普通は無い……
ま~ ウンディーネと知り合いだし、そういう人なのだろう。
だが…… 驚くのはそこでは無い!
「これが精霊結晶?」
マナの密度、純度が精霊結晶よりも遥に高い!
その宝石の中に宇宙が入っているかの密度、膨大なマナだった。
「お前が、その宝石を理解し、作れるようになったら、またここに来るが良い」
俺は頷きペンダントを首にかけ、深くお辞儀をして家に帰った。
翌日、家の前にずらりと馬車が並ぶ、人が乗る用と引っ越し荷物用だ。
うちの家は村長さんに預けることにした。
『いつか帰ってこられるように……』だそうだ、うちの家族はホントにここが大好きらしい。
最後に家の鍵を閉め、家族全員で家にお辞儀をして、慣れ親しんだ我が家にお別れをした。
村の人々にお別れの挨拶をして、馬車に乗り込む。
弟のダルシュとルルは王都に行けると大はしゃぎだ。
村の皆に見送られ、俺達は王都に向かった。
馬車に揺られて一週間、馬車が王都に近づくと、シャンポール王都に入場するための長い行列が見えてくる。
「俺達が王都に来た時よりも列が増えてないか?」
俺達が並んだときは、列は1列だった。
しかし今は2列に増えているように見える。
「あらディケム、列を増やした張本人が知らないの? とても美しく生まれ変わったシャンポール王都は、その美しい街とクリスタルの彫像を一目見たいと、前よりもさらに多くの人が集まるようになったのよ! さらにその人達を目当てに商人が集まって、今の状態になったって事」
「そ、それはまた……嬉しい誤算だけど、本当は彫像ではなく、ゴーレムなんだけどね」
俺の馬車は、その入場の行列の横を通り過ぎて、上級貴族専用の入り口に行く。
「これはソーテルヌ辺境伯、おかえりなさいませ! 辺境伯様のおかげで、王都は美しく活気に満ち溢れた町になりました。 見てくださいこの入場待ちの行列! 本当に感謝しています」
お偉い貴族に褒められるより、門兵に褒められるととても嬉しい。
俺は根が平民なのだろう。
門をくぐり、街を馬車で移動する。
街に彫像を設置するとき、3カ月くらい町を歩いて人々と交流していたので、街の皆は俺の顔をよく知っている。
だから馬車で移動しても、馬車についているソーテルヌ家の紋章を見て、道行く人々が俺に声援を送ってくれる。
⦅ちょっと恥ずかしい……)
母さんが町を見て声を上げる。
『ディケム! 凄いきれいな街ね! 水と緑がとてもきれい! あとクリスタルの彫像が沢山有るのね~!!』と母さん大喜びだ!
「ディ、ディケム…… おまえすごい人気だな! 本当にお前への声援なのか!?」
「ここの町を整備する時に、町中歩いて回ったんだよ。 皆、顔見知りなんだよ」
父さんも嬉しそうだ。
馬車は貴族街の門をくぐり奥に進む。
そして王城の前のソーテルヌ辺境伯邸に着く。
門が開き中に入ると―――
使用人達と、訓練をしている王国騎士団第一部隊の方々が整列して迎えてくれた。
ラスさんとラローズさんが、正面で出迎えてくれた。
「ソーテルヌ辺境伯、おかえりなさいませ」
「ソーテルヌ様のご家族方、お待ちしておりました。 その節は大変お世話になりました。 辺境伯には今もお世話になりっぱなしです。 どうぞ慣れない王都ですが、お楽しみください」
『ラ、ラスさん…… 恥ずかしいから』と俺が言うと。
『ディケム君、あなたの御両親にはサンソー村でお世話になったのだもの、きちっと挨拶をしないと―― 礼節は大人のたしなみよ!』とラスさんの隣のラローズさんに諭された。
「は、はい………」
皆さんの挨拶が終わり、俺は家族を薬草園の近く、神木の奥に立てた別宅に連れてきた。
「父さん、母さん、ダルシュ、ここがこれからの我が家です。 このソーテルヌ邸の敷地は、大部分が軍の訓練施設になっています。 俺とララ達はみな本館に居ますが、そこも仕事場です。 この別宅は薬草園と研究所施設は近いですが、基本我が家だけのプライベート環境にしています。 この別宅用に使用人も5人ほどいますので、遠慮無く申し付けてください。 ラスさん曰く、遠慮は彼らの仕事を奪う事だそうです」
『ありがとうディケム。 来たばかりで何もわからないから、慣れてきたら聞くようにするよ』と父さんがお礼を言ってくれる。
『ルルはどうするの? ここに一緒に住まないの?』と母さんから聞かれる。
「ルルの事はララと今日話し合って、決めようと思います。 ルルはオジサンの言いつけで、働かないとダメそうですからね」
「それを言ったら、俺も少し慣れたら働きたいな。 する事無いと体がダメになってしまいそうだ」
「町に木こりは無いですが、仕事の希望があれば探しますよ?」
「ありがとう、助かるよ」
こうして、各自王都での生活が始まった。




