第二章40 久しぶりの帰郷
王都の防衛強化を終え、王都は様変わりした。
水と緑と彫刻の町、そしてマナが満ち、生命力に溢れた歴史に残る美しい街へと変貌を遂げた。
しかし…… この町の真骨頂は美しさではない。
街で起こる全ての情報は街路樹を通してドライアドに集まり、各所に置かれた月の精霊ルナの彫刻を模したクリスタルゴーレム兵と、有事の際には街路樹から繰り出される樹人兵での物理的防御。
水路で増幅されるウンディーネとイフリートの20層の防御結界。
鉄壁の要塞と言っていいだろう。
そんな訳で、俺は両親を王都に呼ぶことにした。
移住の話は1ヵ月前から手紙のやり取りで何度もしている。
正直色よい返事はまだ貰っていない、両親も渋々と言った感じだった。
学校がお休みになったタイミングで、帰郷もかねて直に顔を合わせて話し合う事にした。
帰郷と言う事で、ララ、ディック、ギーズも一緒に帰る。
今回は時間も限られ、王都に戻ることも考えると、馬車に乗っての移動になった。
「3人は、家族どうするんだ?」
「俺たち、まだ何も活躍してないから爵位とか無いし、家無いからな~……」
確かに彼らは、俺のパーティーメンバーとして、王都ではそれなりの待遇にはなっているが…… 爵位とかは今のところない。
「そう言えば、ラス・カーズさんのパーティーメンバーって、みな爵位ないよな…… ラローズさんは、実家が伯爵家なだけで」
「もし爵位が欲しいとなると、先輩パーティーを追ってしまうと…… 同じ事になるのでは?」
『う~ん』と3人とも悩む。
「でもさ、うちは家が木こりだから、連れてきても良いけど、皆は実家が商売してるじゃない、簡単には連れてこられないんじゃないの?」
『う~~ん』と3人ともまた悩む。
久しぶりの4人での馬車での旅、一週間ほどで、サンソー村に到着した。
サンソー村は相変わらず、時が止まったようにのどかだ。
各々の家に寄って馬車を降りていく。
最後に俺はララの家に寄ってパンを買っていくことにした。
「おばさん、久しぶり!」
「あら!ディケム! よく来てくれたね~おかえり。 あなた辺境伯とか、凄く偉くなったんだね」
「おばちゃん、辺境伯とか意味わかってる?」
「そんなの分かるわけ無いじゃないか~」
そんな、普通の会話が嬉しい。
「ディケムがララをもらってくれたら、安心なんだけどね~」
俺もララも真っ赤になって何も言えなくなる。
沢山パンをもらい、店をでて実家に帰る。
「ただいま~」
1年ぶりの実家、全く変わらない生活。
「ララの家から、パン貰って来たよ」
「おかえりなさい、ま~こんなにパンを、晩御飯はごちそうだね!」
「おかえり。 一段とたくましくなったな、王都での噂はこの村にまで届いているぞ! がんばっているようだな」
父さんは、昔のように俺の頭をワシャワシャしながらほめる。
「兄さん、おかえり! 兄さん凄い凄い! 王都で爵位貰っているなんて。 僕も早く王都いきたいな~」
「お!ダルシュ、1年で見違えたな~ ダルシュも今年【鑑定の義】だな、能力楽しみだな!」
その夜は家族4人水入らずで食事をした。
野暮な話しは無しにして、この1年の楽しい出来事だけをお互い語り合った。
そして翌日、今回帰郷の本題を話し合う。
「それで…… 父さん母さん。 事前に連絡入れたように、王都に引っ越してきてほしいんだ。 ラス・カーズ将軍からも警備的に必要な事だと言われている」
父さんと母さんは、難しい顔をした後……
「分かった。 お前の迷惑にはなりたくない、王都のほうが安全なら従おう。 ダルシュも行きたがっているしな」
「ありがとう父さん! ここを離れたくは無いと思うけど…… 俺、少しだけ有名になってしまって、他種族に襲われる可能性があるんだ。 父さんたちが襲われると、村自体燃やされたりする可能性があるらしいんだ」
「村の皆にも、迷惑はかけられないからな……」
「ゴメン」
「お前が謝る事じゃないだろう、俺たちはお前を誇りに思っている」
引っ越し準備に1週間。
ララ達も家で親孝行したいだろうから、余裕をもって10日ほど滞在することにした。
翌日は村長の家に行き、各家にあいさつ回りをする。
ララの家に寄ったとき、母親同士で難しい顔をして話していた。
ララはまだ寝ているらしい…… 実家に帰ってきているんだ、少しゆっくりしていても良いと思う。
次の日からは自由行動、俺はウンディーネと神珠杉に来ていた。
改めて来てみると、やはり神珠杉は凄かった、ソーテルヌ邸にある神木はまだ幼生だけど、ここの神珠杉はまさに世界を支えているイグドラシルの1つ。
溢れるほどのマナだった。
そして神珠杉に寄りかかっていると、ドライアドが出てきた。
以前はウンディーネが居たので、ドライアドが住めなかったらしいが……
今は空いたので住んでいるのだとか。
俺の契約しているドライアドと情報交換している。
ドライアドどうし、一回繋がっておけばネットワークで連絡とり合えるらしい。
ウンディーネ、イフリート、ルナには、個という概念が無い。
だがドライアドは個に近い概念があるようだ……
正確に言えばやはり個の概念は無いそうだが、個の神木に宿る性質上、神木の意志に引っ張られ個の概念が定着するようだ。
しかし元は同じ1つの精霊、一度つながれば全ての事を共有することが出来る様になる。
だから、今繋がったサンソー村のドライアドを俺は使うことが出来る。
神珠杉から戻り、久しぶりにオーゾンヌが居る古本屋に向かう。
「こんにちは、ご無沙汰しています。 オーゾンヌ」
「おぉ、久しぶりだなディケム。 ウンディーネも息災で何よりだ。 おぉ! イフリート、ドライアド、そしてルナも居るのか」
俺はウンディーネだけ顕現したが、あとの精霊は見せていない、やはり只者では無いな、オーゾンヌ。
もともと俺の旅は、この本屋で【始まりの書】を読みだしたことから始まった。
今から考えてみると、オーゾンヌにすべて導かれていたように思う。
すこしカマをかけてみよう。
「オーゾンヌ、俺は次はなにをすれば良い?」
「フン…… 好きにするが良い、お前が考えなくても、物事は進んでいくものだ。 あえて言うなら四大精霊は揃えるがいいさ」
⦅四大精霊。 始まりの書にはウンディーネ、イフリート、シルフ、ノーム だったかな⦆
「分かりました、頑張ります」
その日はまた昔のように、夕方まで本を読み漁り家に帰った。




