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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章39 閑話 非同盟国・モンラッシェ共和国大統領の娘

人族同盟に参加していない、モンラッシェ共和国大統領の娘、グラン・モンラッシェ視点になります。


 私は、グラン・モンラッシェ。

 モンラッシェ共和国大統領の娘。


 モンラッシェ共和国はロマネ帝国と同じ、まだシャンポール王国が提唱する人族同盟に加盟していない。

 それは、モンラッシェ共和国の立地が、他種族との交通の要所にあり、多種族が集まる国である事が大きな理由なのですが……

 シャンポール王国の力に疑問を持っているのも事実です。


 現に、4か国が同盟を組んだ矢先、アルザスの悲劇が起こり、モンラッシェ共和国の大臣たちは、同盟加入を先送りにしました。



 しかし独立自治として維持してきた共和国も、各種族の国から圧力を受け、維持がままならなくなってきていました。

 そして近年、人族と国境を挟んでいるエルフ種族のダークエルフ族が高圧的な圧力をかけてきました。


 エルフ種族も人族と同じく種族が1枚岩ではないようです。

 エルフ族は、純粋なエルフ族、ハーフエルフ族、ダークエルフ族、そして頂点に立つハイエルフ族が居ます。

 基本はハイエルフ族と、純粋なエルフ族が国を仕切っています。

 ですが好戦的なダークエルフ族が、まだ反旗をひるがえしては居ませんが、中央の権力に反抗的なようです。


 そして国の方針を無視して、ダークエルフ族は独自に、モンラッシェ共和国に圧力をかけてきました。


 そこにアルザスの奇跡が起こりました。

 人族が各種族をけん制し、ダークエルフ族も少し静かになりました。

 さらに2年後、人族と魔神族の同盟が成立する。

 モンラッシェ共和国は、一気に同盟加入派が強くなっていきました。


 そこで今年、魔法学校2年に体験入学と言う名目で、大統領の娘の私『グラン』がシャンポール王国を視察にやってきました。


 期せずして、帝国からもヴォーヌ王子が3年に体験入学しに来ていました。

 同じ目的、シャンポール王国の視察で今年戦士学校に体験入学するということです。

 私と同じ、アルザスの奇跡、魔神族同盟の立役者ソーテルヌ伯爵が目的なのでしょう。


 私は入学の2か月前、準備のために王都に来ていました。

 我々がしばらく滞在するのは、貴族街にある迎賓館。

 まだ同盟を結んでいないので、シャンポール王都にモンラッシュ共和国の大使館は有りません。


 そしてある日、ソーテルヌ伯爵が魔法学校入学のために、王都に入城すると情報が入ってきました。

 私はソーテルヌ伯爵を自分の目で見る為、貴族街のソーテルヌ邸のそばに馬車を止め、馬車から覗いて待っていました。

 ですが、一向にソーテルヌ伯爵らしき馬車は入ってこなかった。

 おかしい…… このモンラッシュ共和国の情報網をして、間違った情報を掴まされたと言うの?

 途中、平民風の4人の子供が入っていくのを見ましたが、使用人でしょう。



 もうその日は、ソーテルヌ伯爵は来ないだろうと、諦めかけたとき……

 突然屋敷全体を緑の光が覆い、大規模な結界が屋敷を覆いました。


 あのような大規模な結界など見たことが無ありません。

 あんな事が出来るのは、ソーテルヌ伯爵以外居ないでしょう…… 

 いったい…… いつのまに、どこから入館したの!

 さすがは最重要人物、セキュリティーが完璧です。



 それから何度か伯爵邸を見張っていますが…… どうも伯爵邸だけ様子がおかしい。

 他の屋敷に比べ、明らかに植物の草木、花々の力強さが違うのです。

 そして私は幻想をみました、ソーテルヌ伯爵邸の塀の上に、フワフワした何かが浮いていたのです……


 ⦅ちょっとナニあれ? カ、カワイイ………⦆



 結局、ソーテルヌ伯爵を見ることが出来ず、事前調査も出来ないまま、魔法学校の入学式になってしまいました。


 私の期待を裏切り、1年生徒代表挨拶は【マルサネ王国のコート王子】でした…… 

 この学校は身分の上下は無しの治外法権と聞きましたが、結局はそういう事なのでしょう。


 いったい、ソーテルヌ伯爵はどこにいるの?



 そして、私はやっと彼を見ることになる。

 放課後、帰りの支度をしていると…… 1年生が校庭に集まりだしました。

 同じクラスの子に聞くと、魔法学校恒例の力試しなのだとか。

 建前上治外法権のこの学校、学内での身分は関係なくなる。

 ですからこの力試しで、この学年の力関係が決まるらしいのです。


 共和国の私から言わせてみれば、あたりまえのことです。

 滅亡寸前の人族の中で、生まれながらの権力など唱えたところで何の意味があるというのでしょうか。

 力ある物が上に立つ、それが生き物の摂理です。


 しかし、現実はそれだけではないようです……

 この場は、身分の低いものが、身分の高いものへ、卒業後のアピールになるらしいのです。

 貴族社会とは…… なんて不公平で不毛な制度なのでしょう。


 校庭を見ると、結局は先ほど代表挨拶をしたコート王子が仕切っていました。


 ですが…… よく見るとコート王子も伊達に王子をやってない、その統率力は素晴らしいものでした。

 さすがにこの人族滅亡の危機に、馬鹿では王子は務まらないらしい。


 そこに、先生からの激励がとびました!

「お前たち、今、うちの組のディケムが、杖を取に行っているぞ! みんなせっかくのチャンス、逃すなよ!」


 ⦅せ、先生が全員を焚きつけた! なにかんがえているのこの人は!⦆


 先生にたきつけられた30人以上いる魔法師の士気は高い。

 『さすがにこれは……』と思っていましたが、現れたソーテルヌ伯爵は、全ての魔法をはじき返し、100匹以上の精霊を召喚し、大量の水で生徒たちを押し流してしまいました。


 ⦅これが…… アルザスの奇跡、ソーテルヌ伯爵の力⦆


 それから学校では毎日、私はソーテルヌ伯爵を見張っているのです。

 もちろん偵察です、ストーカーでは決してありません。



 そしてある日、ソーテルヌ伯爵邸をストー…… イヤ偵察していると。

 突如上空から水竜が下りてきました!

 『ちょっ! 王都の真ん中に竜って―――!』驚いて頭を抱えて震えていると。

 ソーテルヌ伯爵の庭に、瞬く間に巨木が育っていきました……


「え…… な、なに? 竜はどこに行ったの? なんで巨木が生えてくるの? なに? ゆ、夢なのこれは?」


 私は何が起きているのか分からず混乱していると……

 遠目に、先ほどいきなり生えてきた巨木に、妖精のティンカーヴェルが見えました。


 ⦅このソーテルヌ伯爵邸の中はどうなっているの? 子供の頃に読んだ絵本の世界、竜や精霊、妖精まで居る物語の世界が広がっているの? あぁ~、一度で良いから入ってみたい……⦆



 数日後、ソーテルヌ伯爵は功績を認められ、辺境伯王都守護者に出世したと情報が入りました。

 精霊ドライアド様と神木イグドラシルの幼生を王都に連れてきたらしいのです……


 『あの時の巨木が神木だったのね、そしてあの神木にはドライアド様が宿っている』

 ソーテルヌ卿は今でも着実に力を増している。



 それからしばらくして、王都守護者に任ぜられたソーテルヌ卿は、大規模な王都の防御改革を始めました。

 今、ちまたでは人族領土で一番安全な場所は、ソーテルヌ卿が住む、ここシャンポール王都だと言われています。


「そう! 私はこれが見たかったの、モンラッシェ共和国を守るため、どのように防衛改革を進めるのか、見させてもらうわ!」



 改革はすぐに始められました。 水路を整備し町中に行き渡らせ、要所に湧水を利用した小さな泉を設置し、植樹により緑を増やし、各所にクリスタルの彫像が飾られている。

 ソーテルヌ辺境伯は自分の足で歩いて町中を確認して彫像を設置していました。

 おかげでしっかりストーカーすることが出来ました。


 ⦅ん? 王都の防御改革ではなかったの?⦆


 改革を推し進める王都は、それは美しい、水と緑と彫像の芸術的な町に変貌していきました。

 王都民も神話に出てくる、イグドラシにあるという精霊の国になぞらえ、讃えていました。



 そして王都の改革工事がおわり、王都民を集めての式典を開くと聞きました。

 この式典で王都全体に防御結界を張るのだと言う……


 いくら何でも…… 王都全体に結界を張るなど出来るはずがない。

 ですが…… もしできると言うならば、我々モンラッシュ共和国も……



 私は一分一秒でも見逃すまいと、式典が行われる中央広場の噴水前に急ぎました。

 ずいぶん早く来たつもりでしたが、すでに中央広場は凄い人だかり。

 近くの家々の屋根にも、人が上って見ているのがわかります。

 王都の全国民が見に来ているのでは? と思えるほどの人が集まっていました。


 式典が始まると。

 シャンポール王が演説をし、この度の都市防衛の立案をし、結界を完成させるソーテルヌ辺境伯を紹介しました。



 そして私は、信じられない光景を見ました…… 

 いや、全王都民がその光景を目撃したのです……


 ソーテルヌ辺境伯が金色に光り、4体の上位精霊様が上空に飛んでいき――

 空一面に魔法陣を描き、王都全部を覆う20層にもなる巨大防壁結界を張ったのです!

 

 その光景は…… 神の御業だと思えるほどのスケールでした。


 『ソーテルヌ辺境伯の力は本物です! モンラッシェ共和国の存亡は、早急に彼の居るシャンポール王国同盟軍の庇護下に入る事が賢明です!』と…… 私は、父であるモンラッシェ共和国大統領に手紙を送りました。


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