第二章38 四柱精霊結界
王都防衛の為の下準備、井戸掘り、水路工事、適切な場所への植樹をすべて完了するのには3カ月以上かかった。
俺も精霊結晶と魔法陣、クリスタルゴーレムの設置を完了させた。
王都防衛のための王都改造工事だったが、俺が計画していた通り、シャンポール王都のその美しい景観は損なわれることなかった……
いや、王都はさらに美しく生まれ変わったと言っても良い。
以前の『水の都』が水路の工事でさらに規模を増し、水路が町中に行き渡った。
さらに要所要所に湧水を利用した小さな泉を設置し、人々の憩いの場となっている。
また、植樹により緑も増え、各所にクリスタルの彫像が飾られている。
美観も計画的に設計された、水と緑と彫刻のとても美しい芸術都市として生まれ変わった。
⦅これが最強の防衛都市の設備だと誰が思うだろう⦆
この都市を訪れた人々は、精霊使いで有名なソーテルヌ卿が指揮を取り作り変えた事も有り、イグドラシルの麓にあるという精霊の国になぞらえて語った。
そして今日、王都全体に結界を張る日になった。
下準備の工事が完了した後、王に式典を開いてもらう事をお願いしたのだ。
王都民を集めての式典を開いてもらい、そこで結界を発動する事で、王都民に安心感と希望を与えたい、そして国民の士気も上がるだろう。
術が発動したときの、国民のパニックを抑え込むことも出来る。
もう一つの理由は…… 何も言わないで突然王都全体に結界に発動したら、国民は驚いてクレームが殺到するだろう…… との事だった。
⦅ソーテルヌ邸の時に、クレームが大変だったのだろう……⦆
王の演説が始まる――
「今日この日、王都全体に大規模な防御結界を張ることを宣言する! みなも見て知っているだろう。 この数カ月間をかけて、この結界の為の準備を行ってきた。 工事のために迷惑をかけてしまた国民も居るだろう…… すまなかった。 しかし人族が生き残るため、この最後の砦シャンポール王都の防御を強化することは、必要欠くべからざる事だ! 今日この日をもって、この王都が人族で最も安全な都市になる事を宣言する!」
『おぉぉぉぉ―――!!』
『シャンポール陛下、バンザーイ―――!』
『人族に栄光あれ―――!』
「この度の都市防衛計画の立案と指揮を担当したのは、もちろん皆が知っているアルザスの奇跡、ソーテルヌ辺境伯王都守護者である! みなこの壮大な計画を立ててくれたソーテルヌ卿を敬意をもって迎えてほしい」
『おぉぉぉぉ―――!!』
『ソーテルヌ辺境伯様―――!』
王の説明が終わり、中央広場の中心に今、俺は居る。
⦅………は、はずかしい⦆
俺の周囲10mに騎士達が壁を作り、俺を守ってくれている。
その周囲には、王都全国民が見に来たのではないかと言うほどの民衆が集まっていた。
屋根の上にも、木の上にも、広場を見ようといたるところに、人が登って見ている。
俺が立っている中央広場の噴水の前は、ちょうど国の中心になる、結界を張るにはこの場所が一番いい。
そして俺の後ろには、クリスタルで出来た女神像が立っている……
そう…… ララの像だ。
意図してそうした訳では無いのだが……
ララ像には核に精霊結晶が組み込まれてる、そのため大規模な結界を張るための礎石にするのに丁度良かったのだ。
⦅もちろん、そのまま礎石にしてしまうと、ゴーレムとしての機能が難しくなるので、あとで礎石は入れ替えるが…… 式典では女神像が礎石の方が見栄えが良いのだ⦆
俺は大きく息を吸って周りを見渡す。
民衆を抑える壁役の騎士の中に、ララ、ディック、ギーズの姿が見える。
さらに学友のマディラ、ポート、トウニー、エミリア、マルケ、リグーリアの姿も。
もちろん本業の騎士団、ラスさん、ラローズ先生、ラモットさんの姿はある。
その中にカミュゼの姿も見える。
この儀式を近くで見たいと、他国貴族のマルケ、プーリアも参加している。
学校の先生方なども見える、ラローズさんのコネを使ったのかもしれない。
皆がこの儀式を間近で見るために、関係者として参加していた。
失敗するわけにはいかない……
失敗は、国民に失望を与え、人族の希望が脆い事を示してしまう。
神輿役は常に強く、迷わず、民衆を導かなければならない。
俺は自分を鼓舞する! 傲慢に、傲岸不遜に、尊大に―――
⦅俺なら出来る! こんな結界余裕だ! 全国民を俺が守ってやる!⦆
おれは、神珠の杖をカツンと地面につき、マナを取り込んでいく!
マナの大河とのラインを、大きく開け、膨大なマナを取り込んでいく。
地面の魔法陣が光り、地面から光の粒子が舞い上がる。
噴水に設置されているララ像も光りだし、上空に膨大なマナの柱を立てる。
そして俺は、神珠の杖を高々く上げると、4柱の精霊が顕現し飛び出す。
『おぉぉぉぉ―――!!』と民衆からどよめきが起こる!
水の精霊ウンディーネ、炎の精霊イフリート、木の精霊ドライアド、月の精霊ルナが上空に駆け上がる。
その4柱の精霊がマナの光の線を描く!
王都各所に設置した精霊結晶石からもマナの光の線が伸び、ララの像から延びる光の柱と交差する。
ララの像から延びる光を柱に、精霊結晶から集まる光を骨踏みに、その隙間に4柱の精霊が光の魔法陣を書き込んでゆく。
そして俺は呪文を演唱する。
⋘―――τέσσεραΚολόνα・πνεύμα・Εμπόδιο(四柱精霊結界)―――⋙
俺から大量のマナが放出され、4柱の精霊を起点に、王都全体にドーム状の結界が広がっていく。
そして、結界が王都全体を覆ったとき、次々に上へと結界の層が増えていく―――!!
結界の層は20階層で止まり、大きな光を一瞬放ち、そして徐々に透明になって見えなくなった。
精霊が顕現したときまでは、騒いでいた民衆も、騎士達も、全ての王都民がその光景を呆然と言葉もなく見ていた。
この日、王都に居る全ての人、王都民、各国の要人、留学生達が、この歴史的な儀式を見届けた。
言葉もなく立ち尽くしていた人々は、一人の歓声を機に、堰を切ったように歓声の渦に変わっていった。
そして王都全体が震えるような、歓声をあげ、全王都民がソーテルヌ辺境伯を称えた。




