第二章34 月の精霊ルナ
翌日、ソーテルヌ辺境伯邸に神木の枝を貰った皆が完全武装で集合した。
幼馴染組のディック、ギーズ、ララ。
ララの友達マディラ、トウニー、ポート。
戦闘力は無いが水晶が欲しい薬師のフィノ。
精霊部隊に参加する為ラローズ、ラモット、エミリア、マルケ、リグーリア。
お友達枠の他国貴族のマルケ、プーリア。
さらには、婚約者のラローズ先生が心配なラス・カーズ将軍と、ポートが心配なカミュイゼも参戦することになった。
この2人は正直、前衛が少ないので助かる。
洞窟ダンジョン攻略としては総勢17人の大所帯だ…… 洞窟にこの人数は大丈夫なのだろうか?
まぁ、半数くらいは戦力外だから、後方で見ているだけになる。
ちなみに、ラモット、エミリア、マルケには精霊部隊に入ることが決定しているので、神木の枝を渡しておいた。
俺も鬼丸国綱と神珠の杖をもって完全装備で出発。
「ソーテルヌ閣下!」
「ラスさん、調子狂うので、いつも通りディケムでお願いします」
「あぁではディケム君、ラローズから聞いたが、精霊ルナ様を手に入れたら、かなり王都の防衛力が良くなるみたいだね」
「みたいです! だから我々がこれから生き残れるために、ラスさん期待してますよ! カミュゼもな!」
「はい! お任せを!」
今回の目的地はロワール平原なので、馬車3台で出発。
ちなみに馬車は、ウチから1台、あとはグリュオ伯爵、ラス・カーズ伯爵から1台づつ出した。
今回の任務(?)は、ラスさん、ラローズさん、ラモットさん以外は全て学生。
任務の内容からすると、学生が行って良い任務ではないような気もするが…… まぁ頑張ろう。
他国貴族のプーリアとマルケを筆頭に、結構実戦経験を積んでいる者も多いい。
「ラスさん。 今回大人数ですが…… 学生ばかりなのと、実戦経験が無い者も居るのでお願いします」
「分かった、配慮しよう」
目的地に到着して、みな準備をする。
俺は学校では隠している精霊珠を12個浮かべ、ウンディーネを肩に乗せる。
「皆、準備は良いか!?」
「「「「はい!」」」」」
皆の返事と共に、俺はドライアドを呼び出し、地下洞窟の位置を探る。
さすが上位精霊ルナ、地下洞窟には入り口は無いようだ。
「さて、どうやって洞窟まで行くかだな…… 俺は土の精霊ノームとは契約していない」
『どうするのディケム』とララが心配そうに聞いてくる。
「さすがにルナと初めて会うのに、天井爆破して入っていくのは避けたいな……」
「当たり前でしょ…… 怒らせちゃったら契約してくれなくなっちゃうじゃない!」
「ドライアド、位置的にあの草原に立つ大きな木の下あたりなんだが…… 何とかならないか?」
「かしこまりました。 あの子に少しどいてもらえば、根があった部分が入り口になりそうですね」
ドライアドが大きな木に飛んで行き、木に触ると………
大きな木が、根を足のように動かし歩いていく……
さすがにみな唖然として驚いている。
⦅こんな巨木が動くとは…… これが攻撃してきたらゴーレムより強いのでは?⦆
「おぉ! 凄いなドライアド!」
「木の精霊ですからこの程度は…… ディケム様のお役に立てて光栄です」
「よしみんな! そこの穴から洞窟に入るぞ!」
「は、はい……」
洞窟に入り、俺は灯りの魔法で洞窟を照らす………
⋘――φως(灯り)――⋙
「おぉ! きれいだ!」
「なんか水晶が光ってないか? 灯りの魔法いらないかもしれない」
そこは全体が水晶で出来た神秘的な世界、地下なのに水晶が光を宿し、まるで夜空のようにきれいだった。
⦅水晶の洞窟だと、サラマンダーの住家を思い出すけど…… あそこは熱と湿気と毒ガスでまるで地獄だった、こことは真逆だな⦆
あまりの神秘的な光景に、みな我を忘れて立ち尽くしていたが……
洞窟の奥の方から、月のように水晶の夜空に光を照らす何かが近づいてくる。
『何か来るぞ! 皆! 戦闘態勢!』 俺は小声で皆に指示を出す。
その満天の星空の中を近づいてくる月明り……
意識を集中していないと、その美しい光に見とれて気が緩んでしまう。
そしてゆっくりと、『月の精霊ルナ』が俺達の前に姿を現した。
「人族が何用でここに来た?」
「あなたの力を借りるために、ここに来ました」
「ほぉ 人間の分際で、私に下僕になれと?」
⦅い、いや…… 下僕とまでは……⦆
「我々に力を貸してほしい!」
「ほぉ~ ではそなた達の力を見せるが良い! このルナを満足させられたら契約してやろう!」
そう言うと、精霊ルナは1匹のクリスタルドラゴンを召喚した。
俺はすぐにドライアドを使い、3体の木の巨人トレントを召喚した。
「ほぉ~ トレントだと、ドライアドを使役したか! おもしろい!」
トレント3体、ラスさん、カミュゼが前衛でクリスタルドラゴンを足止めする!
「精霊ルナよ! 力を見せるとは、どういうことだ? クリスタルドラゴンを倒せばいいのか?」
「さ~ どうかの~」
俺たちのパーティーは魔法使いばかりで、バランスが悪い、どう攻めたらいのか……
俺は皆の戦いを観察する。
「やはり、ラスさんとカミュゼの物理攻撃は効かないな!」
ラスさんとカミュゼが凄く嫌そうな顔でこっちを見る。
「ディックとギーズの炎系、雷系、水系の魔法もダメだな…… 効いていない」
ディックとギーズも嫌そうな顔をする。
『ラスさん! 奥儀とか無いんですか~』と俺はダメもとで聞いてみる。
「よし、やってみよう!」
⦅おぉ! ラスさん奥義とかあるんじゃないか!⦆
ラスさんが全身に力を込めて、居合の感じで剣を繰り出した!
剣が光り、爆発的な力がクリスタルドラゴンに叩きつけられる!
『………………』っが、傷1つ付かなかった。
「凄いな!完全物理防御なんじゃないのか? 城の防御に是非ほしい!!」
ラスさんが、ものすごい嫌な顔でこっちを見てくる。
「ちょっとディケム! なに冷静に見ているの? ちょっとは、手伝ってよ!」
ララが怒っている……
「でも、ほら、攻撃何も通じないじゃないか?」
「でもその余裕、何かあるんでしょ?」
「あるっちゃ~ 有るのだけれど…… 面白くないから、その前に皆の戦いぶりと、敵側から見たルナの力が見たい」
「ちょっ! 面白くないって!」
「ほら! ララ! カミュゼがケガしてるぞ! ララも俺じゃなく敵を観察しなさい! もっと敵を見て考えるんだ」
ララがプンプン怒りながら戦場に帰っていく。
『……オヌシは戦わぬのか?』とウンディーネが聞いてくる。
「戦いますけど…… 今後のために色々みたいんですよ。 それにルナもこちらを倒す気がない、ルナも観察しているだけだからね」
「じゃな、だが勝たなければ契約は出来ぬぞ!?」
「倒すだけならば、いくつか思いつきます。 物理攻撃でも鬼丸国綱で放った奥義:金翅鳥王剣なら倒せるでしょう。 もしボディがクリスタルではなくダイヤモンドとか宝石系ならば、硬度は上がりますが熱に弱くなります。 元は炭素だからイフリートの圧倒的な超火力なら燃やせます」
「ほぉ~ そこまで分かっているなら、妾はなにも言わぬ」
見ていると、さっきまでバラバラに動いていた皆が連携しだした。
そして、ポート、ラローズ先生の精霊と俺のトレントが盾になり、ラスさんとカミュイゼが、クリスタルドラゴンの関節に攻撃を仕掛ける。
それと同時に攻撃魔法が追撃をかける。
白魔法軍団は、すぐにけがを治す。
「ルナ楽しそうですね」
「じゃな」
激闘につぐ激闘、そしてやっとクリスタルドラゴンは動きを止めた。
精霊ルナが、もう終わってしまったのか、もっと見たかったのにと言う顔で見ている。
「クリスタルドラゴン!」
ルナが叫ぶと、倒されたクリスタルドラゴンが再生し、さらに3体のクリスタルドラゴンが出現した。
「マ、マジか!―――」
「もう無理………シンジャウ」
うちのチームは絶望に打ちひしがれていた。
「そう――! その顔じゃ! たのしいの~」
俺が杖を突きだす―――!
地面から巨大な植物の蔓が生えだし、一瞬で3体のクリスタルドラゴンを拘束した。
『………………』精霊ルナは何も言わない。
「十分楽しんだだろ? そして俺と共にくればもっと楽しい毎日が待っている! お前の力を十分引き出して楽しませてやる!」
「………………」
「こんな1人で寂しいところに居るな! 自分の作った人形で遊ぶのじゃなく、俺のところで、ドライアドやほかの精霊、妖精達と遊べばいい、こいつらだって居るぞ!」
「………本当か?」
「ああ、寂しい思いをする時間がないほど、こき使ってやる!」
「……約束じゃぞ! もう1人ボッチで洞窟に居るのは嫌なのじゃ!」
「あぁ 約束しよう! だから俺と一緒に来い!」
“ルナに告げる!
我に従え! 汝の身は我の下に、汝の魂は我が魂に! マナのよるべに従い、我の意、我の理に従うのならこの誓い、汝が魂に預けよう―――!”
⋘――――συμβόλαιο(契約)――――⋙
俺の契約呪文にルナがYesとこたえる。
精霊ルナと俺のマナが繋がり、契約は成立した。
⦅う…… 皆がジト目で俺を見ている………⦆
ララが『何か助かったけど、釈然としない』とプンプン怒っている。
皆が白い目で『良い所だけ持って行ったなこの野郎……』って顔をしている……
「ほ、ほら…… ルナは『満足させろ』って言ったじゃないか。 皆が楽しませてくれたから、契約してくれたんだよ アハ アハハハハ――」
「………………。」
「そ、そんな事よりみんな! ここの水晶全部ルナに回収させて、洞窟閉めちゃうから、今のうちに自分の属性に合った水晶を探しなさい!」
皆は慌てて、蜘蛛の子散らすように水晶を探しに行く。
⦅危なかった………⦆
「みんな頑張ったから、特別に一人2個までOKです!」
『わぁ~い』みな喜んでくれているようだ。
ルナが話してくる。
「なんだ、ディケム。 ウンディーネもイフリートまで居るのだな。 一瞬でルナを殺せたではないか……」
「お前を倒したかったんじゃないからな、お前の力が欲しかったんだ」
ルナがまんざらでも無さそうに微笑んでいる。
「そういえば、ディケム。 この洞窟を作ったときに、太古の神獣の卵が出て来てな。 ふ化したらルナでは制御できそうもなかったから、クリスタルに封印したのじゃ、お前なら飼いならせるのではないか?」
『ほほ~ 面白そうじゃな! 神獣は飼いならせると、強力な助っ人になるぞ!』とウンディーネが言う。
おれはルナに案内され洞窟の最奥に行き、クリスタルに包まれた、大きな赤い卵を見つけた。
「あ、赤い卵って………」
「炎系じゃろうな」
「そうそう、だからルナにはちょっと相性悪いかなと、ディケムならイフリート居るから大丈夫でしょ!」
「とりあえず持って帰ろう」
俺が神獣の卵を回収して戻ってくると、みな水晶を拾って広場に集まっていた。
赤い大きな卵を抱えて戻った俺を見て、みな後ずさる………
「ディ、ディケム…… それなに? 明らかに怪しい色と大きさなんだけど?」
「ララ、ルナがこの洞窟作ったときに出てきた、神獣の卵らしい」
『え? なんで神獣ってわかるの?』ララがたずねる。
それにはウンディーネが説明してくれる。
「卵が神聖なマナで満ちているのじゃ、これが邪悪なマナだと魔物じゃの」
『へ~ なんの卵だろう?』とウンディーネの話を聞き、皆安心したようだ。
「赤い卵じゃから、炎系、たぶんフェニックスじゃろう」
「え! フェニックス?! うそカワイイ~ 私もほし~ぃ」
「ララ…… お前はアホか! 炎属性もないお前じゃフェニクスが生まれたとたんに黒焦げじゃ!」
「こわっ! ディケムはイフリート様居るから大丈夫なの?」
「そうらしい、ルナも属性合わないから諦めたらしいよ」
「ルナ様が諦めたなら、私なんかじゃ手が出ないわね」
「俺もやってみないと分からないけど、神獣は飼いならせたら、強い助っ人になるらしい」
「へ~ 楽しみだね~」
こうして俺たちは、各々お目当ての水晶を手に入れ、俺は月の精霊ルナと思いがけず神獣の卵を手に入れ、意気揚々と王都に戻った。




