第二章30 辺境伯と王都守護者
ルビー卿の陞爵(爵位が上がる)が告げられた後、陛下が俺の方を向く。
「ソーテルヌ伯爵」
「はっ!」
「こ度は真実を詳らかにしてくれたこと、ありがたく思う。 そしてさらに、魔の森で朽ち果てるはずの、イグドラシルの幼生神木とドライアド様を王都に連れてきてくれた。 ドライアド様はソーテルヌ卿の元で、王都の守護を誓ってくれた」
『おぉぉ!』 謁見の間にどよめきが起こる。
「これは、大精霊風のシルフ様の加護を得て栄える、大国エルフ領を見れば、上位精霊様の加護がどれほど大きなことなのか想像に難くない。 ウンディーネ様、イフリート様、そしてドライアド様がそろい、王都の防衛力が格段に上がった事になる。 この功績は計り知れない」
謁見の間がざわめく…… この場に集まった貴族達が王の言葉で知る。
現在の王都が3柱の上位精霊の庇護下にある事を。
⦅だが…… ちょっとこの流れはマズい。 俺はもう褒美とかいらないから⦆
「この度のソーテルヌ伯爵の功績をたたえ、ソーテルヌ名誉伯爵を、名誉の称号を外し世襲貴族とし、さらに辺境伯へ陞爵とする」
世襲貴族は、子に爵位継承が出来る歴史ある貴族家だけの特権、決してお金では買う事の出来ない称号になる。
⦅………………………。⦆
「また辺境伯爵は、通常ほかの領地を守護することになるが、ソーテルヌ卿は王都の防御責任者、【王都守護者】とする!」
謁見の間にどよめきが起こった。
⦅ん?? どうしてそうなった?⦆
「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」
ここに集う全ての貴族に祝辞をもらう………
だが俺の顔は引きつって居るに違いない。
辺境伯ってなに? 伯爵の上みたいだけれど領地を持った伯爵的な感じなのかな?
それで、他の領地に行くと王都の防備がまずいから……
王都守護者の任もくっ付けて、王都の防備を管理する辺境伯って事にしたの?
う~ん…… なんか良いように使われている気がするな。
………………………。
ま~しょうがないか、なってしまったものは致し方ない。
ドライアドも加わった事だし、どうせやるなら徹底的に王都の強化をしよう!
城での全ての行事が終わり、俺は豪奢な絨毯が敷かれた廊下を歩いていると、ポートのお父さんに挨拶される。
もう友人のお父さんとか気軽に言ってはいけない、ルビー男爵だったな。
「これはルビー男爵、陞爵おめでとうございます」
「いや、先ほども陛下にお伝えした通り、本当は私にはその資格はないのです。 最後まで兄のテイラーを信じた娘にこそ相応しい。 ですが世襲貴族は父親が死ななければ爵位は譲れない、ポートの為に恥を忍んで爵位を頂きました。 どちらにしても、この度の事はソーテルヌ卿のお力なくして叶いませんでした。 ご助力感謝いたします」
「ルビー卿、貴族の世界しか知らない貴方が、無実の罪で謂れのない謗りを受け、4年間平民としての暮らしに堪えたのです。 十分あなたにも陞爵の権利があると思いますよ」
ルビー卿が深々と俺に頭を下げる。
『今後も娘を使ってやってほしい……』そんなお願いをされてルビー卿と別れた。
ポートは今回の件で、木霊と契約を果たした。
俺にとっても、この国にとっても貴重な精霊使いだ。
ただその隠れた才能だったため、今まで一切精霊使いとしての訓練を行ってこなかった。
ド素人が精霊と契約を果たしてしまった今、昔の俺のような危険な状態だ、今までは自主的に訓練に参加してもらっていたが、これからは強制的にでも来てもらわなければ危険だろう。
そして、俺が城の門を出ようとしたところ、ラス・カーズ将軍とラローズ先生が待っていた。
「ソーテルヌ卿、辺境伯への陞爵、また王都守護者のご就任おめでとうございます!」
2人が深々と頭を下げる。
「ありがとうございます」
「………………」
「………………」
「………………ん? ラスさん、先生、なにか?」
「いや、辺境伯…… 王都守護者は我々王国騎士団第一部隊のトップですから!」
「は? なんですかそれは?」
二人が説明してくれる。
「いいですか? 王国騎士団は1~12部隊まであります。 その中で第一部隊は一番の精鋭部隊になるので、戦争に行くときは、第一部隊が全部隊のリーダーになり他の部隊をまとめます」
「はい」
「ですが…… 戦争がない時は、第一部隊の仕事は主に王都の守護となります。 っで、王都の守護者のトップはソーテルヌ辺境伯となります」
『………………』何も言えない俺
『………………』微妙な感じのラスさんとラローズ先生
⦅どうしてこうなった………⦆
「あの、いままで通りではダメですか?」
「公の場、街中ではダメですね………」
「ちなみに学校では今まで通りです、治外法権ですから」
「………………」
いままで、この慣れない貴族社会に、気恥ずかしさもあり少しでも抗おうとして来たが……
それはこの王都に住む人々にとっては、非常に迷惑な事だと学んだ。
まさに『郷に入れば郷に従え……』それなりに腹を括るしかなさそうだ。
「あの………」
「はい………」
「ちょっと真面目に行きますね」
「どうぞ」
「では、ラス将軍は至急この町の地図を用意してください。 井戸、水路、下水、公園、大きな木なども詳細に載っている物をお願いします。 期日は1ヵ月です」
「はっ!」
「あと、ラローズ副隊長。 このたびポート・ルビー嬢が精霊と契約しました。 喜ばしい事ですが、教育を受けていない彼女は今、非常に危険な状況です! 彼女の精霊使いとしての訓練は急務です。 この後すぐ彼女の教育に取り掛かってください。 ラモットさんも居ますし任せても良いですか?」
「はっ! お任せください」
「それと、近日中にまだ私が会ったことのない、精霊使いの能力持ちの方たちを紹介ください。 私の契約している精霊が3柱になったことや、我が家の神木と結界内のマナも相まって、王都のマナが活性化しています。 その為、此度のような突発での精霊との契約が、無いとは言えない可能性が出てきました…… みなの教育が急務です!」
「はっ! かしこまりました!」
俺の指示を聞き、二人は敬礼をして走って行った。




