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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章27 神木と木の精霊ドライアド

 翌日早朝、ソーテルヌ邸に集合、馬車に乗って出発だ。


 フィノとリグーリアは馬車に初めて乗るらしく緊張している。

 王都を抜け、街道を走り、魔の森に入ったところで馬車は終わりだ。

 従者にここでの待機を命じて、4人で魔の森に入っていく。


 森をしばらく進んだ人気が無い場所で、俺は神珠のスティックを取り出す。

 作ってからまだ1度も使っていないので、今日がお披露目だ。

 スティックを前に突き出し、水竜を召喚する。


 体長10m程の水竜、風属性ではないので飛ぶのは遅いけど……

 魔の森は上空から行かないと、迷ってしまい何日もかかってしまう。

 それに、遅いと言っても徒歩とは比べるまでもない。


 ララはアルザス戦の時に水竜を1度見ているが、乗るとなると話は別らしい。

 フィノとリグーリアは驚いて呆然としている。


「こらフィノ! こんな事で驚いてたら、とてもこの先に行けないぞ!」


「い、いや……ディケム 水竜はティンカーベルより怖いって!」


 そうか…… 自分で召喚してるから、感覚が狂ってるのかもしれない。

 水竜、とっても便利でキレイでかわいいのに。


 皆をむりやり水竜に乗せ、魔の森を飛ぶ。

 リグーリアとフィノが涙目でしがみついているのは見なかったことにする。


 神木まではかなり遠い。

「フィノ、おまえどうやって神木まで行くつもりだったんだよ? 1人だと確実死亡な距離だぞこれ」


「だから、ディケム君が必要だと……」


 3時間ほど飛んで、やっと神木の近くまで来た。

 俺は近くに水竜を降ろし、マナの感知で周囲を警戒しながら隠れながら神木に近づく。


 神木は確かに朽ちかけていた。

 マナを探ると、供給されているマナが殆どない……… これは?


 俺がマナに集中して情報を集めていると……

 神木の存在に感動したのかフィノが不用意に神木に近づく


 30匹ぐらいいるだろうか…… 

 神木に住むティンカーベルが一斉にこちらを見て、戦闘態勢に入った!


 『おい!』とフィノに言おうとした瞬間、フィノとリグーリアが俺の後ろに隠れる!


「おい、フィノ。 ここからはお前の仕事場じゃないのかよ?!」


 フィノが涙目でフルフル首を振っている。

 ララは俺の横で身構えている。⦅さすがです⦆


 俺は威嚇してくるティンカーベルを無視して、さらにもっと深くマナを探る……


 神木に何かいる(・・・・)のが分かる。

 あとは、なぜ神木にマナの供給が止まったのか……

 地中に、何か大きな魔物が居るな。 今は休眠しているが。

 魔物が回復の為にマナを横取りして休眠に入っているのか?

 神木が枯れるほどとは、かなり強力な魔物のようだな……


 この強大な魔物を起こすのはまずい。

 しかも、魔物も生態系の一部、人の分際で無暗に討伐など考えないほうが良い。

 状況は把握した。



 『はじめるか』俺はつぶやき神木に向かって問いかける――


ドライアド(・・・・・)! そこに居るのだろう?」


 俺の問いかけに返答はない………。

 だが妖精ティンカーベルは動きを止める。


 返事がないので、俺はウンディーネを顕現させた。

 『出てくるのじゃ!』

 ウンディーネの呼びかけに、神木がざわり と揺れる。


「まぁ、ウンディーネ様?! これはお初にお目にかかります……」


 少し慌てるように出てきた全身薄緑色に輝く女性。彼女がドライアドだろう。

 ドライアドは、神木などに宿る木の上位精霊だ。

 ウンディーネと同格の上位精霊だが、4大元素を司る精霊のウンディーネより少しだけ格がさがる。

 特にドライアドは、水が無ければ生きていけない、ウンディーネの系譜に近い精霊になる。

 そのため、ドライアドはウンディーネに敬意を払っているようだ。



「ドライアド! 私はディケムという。 ウンディーネの主だ!」


 今回は尊大なイメージで言ってみることにする。


「っ人族如きが、ウンディーネ様の主だと?!」


 ⦅うっ…… 失敗したかもしれない。 ドライアド……コワイ⦆


「ドライアド 妾の主にその物言い、許さぬぞ!」


「いゃっ…… ウ、ウンディーネ様! これは失礼致しました!」


 ⦅ナイスフォローだウンディーネ!⦆


 ここが畳みかけるチャンスだ、俺はさらにイフリートを出す。


「我が主、お呼びですかな?」


 イフリートを見て、ドライアドがおびえる。

 木の精霊ドライアドにとって、火の精霊は天敵。

 ついでに、フィノとリグーリアも腰を抜かしている……


 ⦅もう~何をしに来たんだ、この2人は!⦆


 ララは何とも()()()()に俺の横に並んでいる。



「ドライアド あまり俺を怒らせるなよ!」


「ウンディーネ様とイフリート様、水と油のようなお二人を従属しているだと…… あり得ない!」


「現実は今見たとおりだ! そしてお前はマナの供給が途切れ、その神木共々朽ちる寸前ではないか!」


 ドライアドの端正な顔が歪む。


「…………。 っ人族よ、お前の言ったとおりだ。 私はもう長くない! 我らドライアドは、宿った神木が枯れれば一緒に朽ちる。 そしてこのティンカーベル達も家をなくし、森をさまよい死に絶えるだろう………」


「………………」


「しかし人の子よ! どうか朽ち果てるその時まで、私達をそっとしておいてくれ。 残り少ないささやかな幸せの時間を、静かに過ごさせてはくれないだろうか?」


 ドライアドが懇願してくる…… だが!


「ドライアドよ、俺と一緒に来い! ティンカーベルも一緒に面倒を見てやるぞ!」


 俺は強い口調でドライアドに命令する。


「しかし…… 私は宿った神木からは離れる事は出来ないのです」


 おれは、地下深くのマナの大河からマナを吸い上げ、神珠のスティックに膨大なマナを集める。


「こ、これは………」


 神珠のスティックから膨大なマナを神木へ流し込む。

 神木はみるみる活性化して息を吹き返し、葉が生い茂り、そして大きな実がなった。


「神木に実が!?」


 神木は悠久を生きるもの、基本的に次に子孫を残すための物である実を付けることなど無い。


「ドライアドよ、一時的にマナを集めて神木に力を与えた。 しかし神木のマナの供給が途切れたのは地下に眠る強大な魔物のせいだ。 またすぐに神木は弱ってしまうだろう。神木はそれを理解し、いままで尽くしてくれたお前たちに恩を返すため、この実をつけたのだろう」


 ドライアドが神木に寄り添い泣きだした……

 神木に宿るドライアドにとって、神木は母であり父なのだろう。



「あぁ、人の子よ………いやディケム様。 私の子供達ティンカーベルも一緒に導いてくれますか?」


「先ほども言ったはずだ、俺について来いと。 お前たちに次の安住の地を与えてやる!」


「分かりました。 あなたのお供をいたしましょう。 さぁ契約を!」


 ドライアドは涙を拭いながらも、深々と俺に頭を下げて言った。


 俺は契約魔術の詠唱を行う


 “ドライアドに告げる!

 我に従え、汝の身は我の下に、汝の魂は我が魂に。 マナの寄る辺に従い、我の意、我の理に従うのならこの誓い、汝が魂に預けよう――”


 ≪——συμβόλαιο(シンヴォレオ)(契約)——≫


 一時的にマナに満たされた神木から、勢い良く緑が溢れ出す

 俺の周りの草花も感化されるように生い茂り、活性化する


『ディケム様、あなたとの契約を受け入れます!』


 ドライアドの声が聞こえた。すると身体じゅうに力強い生命力を秘めた枝が張り巡らされ、それが一斉に芽吹くのを感じた。

 精霊ドライアドと俺のマナが繋がり、契約が成立する。


 しかし変化はそれだけではなかった。

 決して実を付ける事のない神木(イグドラシルの幼生)の『実』。

 その『実』と俺のマナが繋がる……


 ――突如、俺の意識はマナの大河の上に放り出された!


 マナの大河からマナのラインが俺に繋がっているのが見える。

 そしてそのラインは、俺からウンディーネ、イフリート、ドライアドへとさらに繋がっていた。

 その俺と繋がる精霊たちとの繋がりの間に、光り輝く『小さな芽』が芽吹く。

 本当に小さな芽、だがその『芽』は何よりもマナに溢れていた。



 またもや俺の意識が放り出される……

 どうやら現実へと戻されたようだ。(あの『小さな芽』は……)



 神木が促すようにドライアドを見たような気がした。

 それに導かれるようにドライアドが『神木の実』へと近づく。

 彼女がその実へと触れると、彼女の輪郭がぼやけ、彼女のマナが緩やかに実へと吸い込まれていった。

 そしてドライアドが宿った『神木の実』が、俺の手の中へと落ちてきた!


 ――『()()()()を頼みます……』そんな優しい声が俺の心に響いた気がした。


 帰る間際、神木が最後に大きく揺れて枝を沢山落としてくれた。

 すっかりと忘れていたのだが、俺はフィノの杖の材料を取りに来たのだった。

 神木はそれを察してくれていたようで、落ちた枝を拾い上げながら、優しい神木に感謝した。


 今日、神木にマナを大量に送り込んだが、100年は持たないだろう。

 人族には十分な寿命だが、神木にとっては瞬き一つぐらいの時間なのかもしれない。



「よし! 終わったな」


 振り返ると、ララ、リグーリア、フィノ 3人とも号泣していた。

 ⦅ん? 3人ともどうした 何があった?⦆


「ディケム…… ほんといいやつだよね! ……グスッ……グスッ」

 ⦅な、なぜおまえらが泣く?⦆




 どうしてこうなった……


 今の俺はティンカーベルが全員にしがみつかれいている。

 もう羽虫にたかられているようにしか見えない。



「全員居るか? 残っているティンカーベルいないな?!」

「は~~~い」


 もう幼稚園児の引率のようだ。


 俺達は水竜に乗って、街道まで戻る。

 ティンカーベルにたかられている俺を見て、馬車の従者がドン引きしていたが気にしない。

 馬車にティンカーベル全員は乗らないのでそのまま帰ってもらい、俺達は水竜でソーテルヌ邸へ向かう事にした。


 眼下で人々が騒めいているのが見える。

 王都上空に水竜来たら大騒ぎになるよね………

 でもドライアドとティンカーベルのほうが大事。

 あとでラス・カーズ将軍に謝っておこう。


 俺たちはそのまま水竜で屋敷に直接乗り付けた。

 召使いたちも大騒ぎ、武器をもって大勢で囲んできたが…… 俺の姿を見て、皆安堵して持ち場に戻って行った。

 うちの召使い優秀です!


 そして帰ってくるのを待っていたディック、ギーズ、マディラ達、マルケ、プーリアが駆け付けてくる。

 水竜騒ぎで駆け付けた、ラスさんとラローズ先生も来た。


 水竜から降りると、ティンカーベルにたかられている俺の姿が見えて、みんな驚いている。

 シュールな光景だな……… でも気にしない。

 俺はみんなについてくるように言い、薬草園の方へ歩いて行った。



 おれは、神木を植える場所を決めていた。

 野草園の近く、お茶をするテラスの横だ。


 皆が固唾をのんで遠目で見ている。ティンカーベル達にも離れているように言った。

 『は~~~い』と幼稚園児のように従ってくれたのは、なんとも微笑ましく見えた。


 いつもの手順で、精霊結晶を作り設置して、魔法陣も設置。

 そしてドライアドが宿る神木の実をそこに植える。

 俺は神珠のスティックを使い、マナを集め精霊結晶に流し込む。

 精霊結晶から魔法陣に大量のマナが流れ込み、魔法陣が光る!


 どんどんマナを流し込むと、地面から神木の芽が生えすくすく伸びる。

 そして、どんどん大きくなり大樹に成長、生き生きと葉を生い茂らすまでになった。


 『わぁ~~~~~~』と皆が歓声を上げて喜んだ。


 ティンカーベル達も神木に駆け寄り、登っていく、大はしゃぎだ!

 そして、神木よりドライアドが現れた。


「ディケム様! ここが我々の楽園なのですね! まぁ! なんてマナに満ちた場所なのでしょう!」


「ドライアド。 申し訳ないが、ここは人族の町の中に作った楽園、人と共存してもらわなければならない」


「問題ございません。 魔の森では魔獣に常日頃襲われる日々でした……しかし、ここでは襲われる心配は無さそうですからね」


「あぁドライアド。 これからよろしくな!」


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