第二章24 魔法のスティック作り2
俺が神珠杉の木の枝をゴソゴソと出していると、リグーリアから質問される。
「ディケム君の杖って凄かったけど、どうやって手に入れたの? どこかのダンジョンの宝とか?」
『ザワッ』と一斉に皆が聞き耳を立てているのがわかる…… 評判良いみたいあの杖。
「あれ、自作だよ」
「え、うそ。 もう自分で作れるの?」
「組み込む魔法式とか分かれば、すぐだよ」
「そうなんだ……」
⦅なぜだ…… 納得行っていない顔だ。 ゲセヌ⦆
「先生から素材と魔法陣の了承もらえたら、今日中に作ろうと思っているんだ、作るときに見せようか?」
「え、うん! おねがい」
「ソーテルヌ卿、私も見せてくれないか?!」
「私もお願いしたい!」
なぜか、マルケとプーリアまで乗ってきた。
「マルケとプーリアは、貴族だから素材集めとか、魔法陣とか苦労しないだろ?」
「正直、苦労しないが…… 君のあの杖は金では買えない代物だった。 私も同じ物が欲しいと思っていたところに、それを自作していたと聞けば、放っては置けないだろう」
⦅マルケとプーリアは、見たいところはリグーリアとは違いそうだな だが…… どうせ真似できないだろうから、良いか⦆
俺は皆が見守る中、神珠の杖を作ったときの魔法陣を参考に、それの縮小版をイメージして魔法陣を書いていく。
小型化と言うものはなかなか難しいが……
出力、パワーを抑えて、その分をマナ効率に回す。
大方できたところで、再度微調整、落した出力とパワーを出来るだけ引き上げる。
「よし、これで完成~」
リグーリア、マルケ、プーリアが真剣におれの魔法陣作成を見て、質問してくる。
「ねぇ、ディケム君はこの魔法陣どこで勉強したの?」
「昔から本が大好きでね、時間があれば本を読んでいたんだ。 だから、今まで蓄えてきた蓄積ってところかな~」
「書くところを見ていたが、何を書いているのかもわからなかった。 でも授業で教わった魔法陣と同じところが無いように思うのだが、大丈夫なの?」
「ほら、ここが授業で習った魔法陣の簡略化したものだよ。 習ったまま使ってしまうと、その分無駄が多くて、組み込みたい術式にリソースを回せなくなってしまうんだ。 ただでさえ杖より小さいから、色々妥協しなければいけないから、工夫が大事なんだよ」
「説明されても分からない……」
「君たちは作るの初めてだから当たり前だよ、最初から無理すると失敗するからおすすめしない。 魔法陣って、ここを改良すれば違うところに歪が出て、そこを直すとさらに違うところに歪が出る。 全てを整えるのはパズルを組み立てるみたいに複雑なんだ」
「うん……」
「それにね。 これだけの魔法陣が出来ても、それを組み込むには、それなりの素材が必要なんだよ」
皆が俺が持っている木の枝を、いぶかし気に覗き込む。
「その……、ただの木の枝にしか見えない素材が、凄い素材なの?」
「あぁ、この素材のマナの内包量は半端ないぞ!」
「そ、そなんだ……」
⦅マナの内包量なんか、みな分からないのか……⦆
「先生! 魔法陣出来ました。 素材と魔法陣の確認をお願いします!」
俺は先ほど書き上げた魔法陣と素材を先生の所に持っていく。
【神珠杉の枝】 【精霊珠】 【魔法陣】
これらを机の上に並べる。
一通り素材を見たラローズ先生が、最後に魔法陣のチェックのために羊皮紙に目を落とす……
⦅ん? ずっと睨んで動かない⦆
「せ、先生…… 何か不備でもありましたか?」
「………。 うん、ディケム君。 魔法陣と素材持ってちょっと裏に来て」
「う、裏ですか……?」
俺は先生に、教室裏の準備室に連れていかれる。
「ディケム君。 魔法陣の説明をお願い………」
『え? は、はい……』俺は魔法陣を説明した。
なぜだろう…… なにかダメな要素が有るのだろうか?
「ディケム君、この魔法陣を理解できる人は、この学校に居ないと思うわ!」
「ま、まさか! そんな……」
俺はうなだれながら、1つずつ魔法陣の仕組み説明して、なぜそうしたか、改良点などを説明していく。
「ここの回路でマナとつないで―――」
色々説明したが、結局途中で止められた…… 解って貰えなかったようだ。
「要はあの杖と同じ感じなのね?」
「はい、だけどスティックは小さいので、少しパワーを落として、細かい動きが出来るようにしています」
「……もういいわ、作ってみて」
「え…… あ、はい」
「あの先生…… リグーリアさんとマルケとプーリアさんの3人が、作るところを見たいそうなんですが…… 一緒に居ても良いですか?」
「まぁ…… いいでしょう」
⦅ラローズ先生はリグーリアさんにあまい⦆
先生にリグーリアさん達を呼んでもらうと…… クラスメイト全員が見たいと言い出したらしい。
俺は『魔法陣の刻み込みまでなら』と言う約束で了承した
⦅ナゼコウナッタ……⦆
「では、魔法のスティック作成に入ります」
きれいに磨き上げた木の棒に羊皮紙を使い魔法陣を刻み込む。
この小さなスティックにこの膨大な情報量の魔法陣を刻み込むには、杖に転写した魔法陣が弾きとびそうなところを抑え込む! 力まかせに行えば枝がはじけ飛ぶ、繊細に繊細にマナで抑え込み圧縮していく。
常日頃、精霊珠を圧縮している俺にはお手の物だ。
『ゴクリ』とラローズ先生をはじめ皆緊張で唾を飲み込む音が聞こえる。
集中、集中……… そして最後にスティックが一瞬光り、魔法陣が刻まれた。
「おぉ~! あれだけの情報量を刻み込めるものなのか! 俺もやってみよう!」
⦅皆さん無理しないようにね。 無理するとスティック砕けちゃいますよ⦆
「さて、これからは精霊使いだけの企業秘密です!」
俺がそう言うと、先生とリグーリアさんを残し、みな素直に裏部屋から出て行ってくれた。
「では最後の仕上げ、触媒を取り付けます!」
ポケットにしまっている、精霊珠を取だし、周りに飛ばす。
精霊珠を起点に6角柱の結界を俺の回りに張る。
結界内をマナで満たし、ウンディーネとイフリートの珠を作り出し融合させて1つの珠にする。
その作り出した精霊珠に、マナをどんどんを注ぎ込み圧縮していく!
そしてスティックの後ろに付けられる大きさにまで調節し、結晶化させる。
だがまだ固定はしない。
そうして出来上がった、青と赤が螺旋にまじわるとても神秘的な精霊結晶を、スティックに近づけると――。
すると…… 精霊結晶から火と水の蔓が伸び、スティックに絡まっていく!
蔓がスティックの全体に絡まり、精霊結晶がスティックに固定されていく…… それはまるで元は1つの物だったかのように。
そして1度大きく輝いて―― スティックが完成した!
「な、何なのよ、これ………」
ラローズ先生が目を見開いて驚いている。
リグーリアさんは固まったまま動かない。
俺は出来上がったスティックに、【神珠のスティック】と名付けた。
名付けると…… 杖の時と同じ、スティックはまた強く光り、ディケムの手の中に飛んできた。
「完了です! どうでしたか? 先生! リグーリアさん! ……リグーリアさん?」
リグーリアさんがやっとフリーズから溶けつぶやく。
「あ…… とても勉強になったのですが…… 見ないほうが良かったかもしれません」
『その気持ちわかります……』ラローズ先生もあきれているようだ……
⦅ヒドイ、見せろと言ったのは、あなた達じゃないか⦆
「杖もそうだけど、このスティックも名づけが必要なほどの物になっているのね! 神器アーティファクトに近いのかもしれない………」
『なんですかそれ?』リグーリアさんが尋ねると……
「ディケム君の持っている、魔神族の皇帝陛下から貰った【鬼丸国綱】という刀がそう。 妖刀と言われていますが、刀が自分の主を選ぶ自分意思があるの。 伝説の武器や道具もたいていそうよ。 そのような武器や道具を、神器アーティファクトと言うの。 大抵、神器アーティファクトはただの道具としては説明できない、強大な力を持っているわ」
「ディ、ディケム君! そんなおっかない刀もってるの?!」
リグーリアさんだけが、少し深刻さの温度が違う気がする……
なるほど…… 俺が杖を作ったときに、精霊結晶に膨大なマナを圧縮して注ぎ込んだ。
マナとは力、意思、記憶―――
杖が自分意思を持つようになるのもわかる気がする。
俺が考え込んでいると……
『今は考えても仕方ないから、早く出ていって シッシ』と先生に追いだされた。
教室に戻り、皆に完成品を見せる。
「このきれいな青と赤が螺旋にまじわるとても神秘的な宝石はなに?」
「スティックに絡みつく蔦のようなもの…… 作り方教えて!」
などと尋ねられたが…… 精霊使いの秘術で作った水晶と蔦という事にしておいた。
今回のスティック作り、とても満足のいくものが出来た。
これで、杖が持ち込めない校内でも所持可能な、ある程度戦えるスティックを先生公認で作ることが出来た。
ウンディーネも満足そうだ。




