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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章21 精霊使いが目指す道

リグーリア視点になります。

 私はリグーリア。

 オーメドックという港町の宿屋の娘として育った。

 いつまでたっても能力的な技能はなく、自分が将来何になるのか分からなかった。

 ただ、霊感と言うか、寝ている時に誰かの笑い声が聞こえたりする事が度々あった。

 両親はいつも、夢でしょと言って、話を聞いてくれることは無かった。


 そして鑑定の義の日になった。

 鑑定してもらっても鑑定師が最初は分からず、本国に問い合わせとなり、私が精霊使いの能力持ちだと判明した。

 両親は何とも言えない表情になった。


 精霊使い…… きわめてレアな能力だけど、ほとんどの人が精霊様との契約が出来ず、魔法もうまく使えないので、結局は宝の持ち腐れになるらしい。


「リーグリアは16歳で戦争に行くまでは、能力なしと思って宿屋のお手伝いを頑張りなさい」

 両親は私にそう言った。


「ほら、戦争でも能力なければ後方支援で安全でしょ?」


 慰められているらしいが…… むしろ能力なしは使い捨ての駒として最前線に放り込まれると皆知っている。


 そんなある日。

 英雄ラス・カーズ様のパーティーメンバー、精霊使いのラローズ様がこの町にいらしたと町中の噂になった。

 そしてその人は何故かうちの宿屋に来た。


「私はラローズと言います。この宿屋にリーグリアと言う精霊使いの才能持ちの子が居ると聞いてきたのだけれど。 知りませんか?」


 私は歓喜した!

 精霊使いで有名なラローズ様が私の所に来たのだ! わたしを導いてくれるのかもしれない。


「私です!」


「まぁ、あなたがリーグリア。 リーグリアは精霊様が見える? 精霊様の声を聞いたことが有る?」


「いえ、私は今まで、精霊様が見えた事はありません。 声も無いと思うのですが…… たまに霊的な笑い声を聞いたことが有ります」


「霊的な笑い声……」

 ラローズ様は少し考えたあと


「リーグリア、貴女は貴重な精霊使いです。 4年後、王都の魔法学校にいらっしゃい。今は何をしたらいいかも解らないでしょうが、学校に来れば目指す目標が見つかるでしょう。 またいつか会える事を楽しみにしています」


 そう言ってラローズ様は去って行った……

 結局私は何も変わらない。

 魔法も何もできない私が魔法学校に行けるはずもない。



 2年後、魔族軍との戦争が再開され、英雄ラス・カーズ将軍様率いる部隊は善戦していると聞いた。

 しかしその数日後、状況は一転ひどい戦況報告が届いた。

 みな絶望の中『最後まで人族は戦い抜くぞ!』と大人たちは毎晩決起集会をしている。

 いよいよ、最後かなと覚悟を決めていると……


 『新たな英雄現る!』の報が飛び交った。

 私と同じ年の精霊使いの少年が、魔族軍の将軍を打ち取った! と………

 さすがにそれは噂が大きくなっているなと思ったが、希望の光が現れてくれたことは感謝だ。

 それからしばらくは、町はお祭り騒ぎだった。


 でも…… 私の日常は変わらない。

 16歳になれば、やはり戦争に行き死ぬのだろう。


 12歳を迎える半年ほど前、進路を決めなければならない。

 私は魔法学校を諦めた。

 ラローズ様がいらっしゃってから4年たつ。

 私はあれから何も変わらない、魔法なんて何も使えない。

 変わったことと言えば、あの時折聞こえる『誰かの笑い声』だけが頻繁に聞こえるようになっただけ。



 さらにそれから3カ月後、ふいにラローズ様が宿屋にいらっしゃった。


「リグーリア。 なぜ魔法学校に入学申し込みをしないのですか?」


「私にはなんの才能もありません、 エリートが集まる魔法学校なんてとても……」


「あなたには素晴らしい素質があるじゃない!」


「………………。」


「そぅ…… あなたも一杯苦労しているのね。 確かにあなたの才能を開花させるのは非常に難しい。 そう、私には出来ない」


「はい……」


「でも、 あなたも 【アルザスの奇跡】の話を聞いているでしょ?」


「もちろんです。 町はお祭り騒ぎでしたから……」


「彼は私達と同じ精霊使い。 そして彼が今年魔法学校に入学します」


「噂は本当だったんですね!」


「そう、彼ならばあなたを導いてくれるわ」


「でも、全く知らない人ですし……」


「大丈夫! 私も今度から教師として魔法学校に行くことになっているの。 あなたが学校に来てくれたら、必ず紹介するわ」


「あの…… ラローズ様は、なぜそこまで私を気にかけてくれるのですか?」


「……あなたは希少な精霊使いの才能を持っているのですもの。 それにどうせ、いままで役に立たない才能だと卑下されてきたのでしょう?」


「………………。」


「私も…… おなじ苦労を味わってきたから、放っておけないのよ」


 ラローズ様は両親とも話してくれた。

 魔法学校は国の教育機関、入学が認められれば学費はかからない。

 そして、ラローズ様が先生の推薦枠を使い、私を推薦してくれるという。


 こうして魔法もろくに使えない私が、エリートとして名高い魔法学校に行けることになった。




 魔法学校の始業式、彼は同じクラスに居た。

 角があるだの牙が生えているだの、色々聞いていたけど…… 凄く普通の人だった。

 噂は尾ひれを引いて、大きくなっていたようだ。


 彼が同じ精霊使いだという事で、話しかけてくれた、とても穏やかな人だった。

 ⦅彼から話しかけられると、クラスの女子の視線が怖い。 そんなつもりは無いのだけれど……⦆


 アルザスの奇跡を知らない人はこの学校、いやこの国には居ない。

 だから、委員長決めも全員一致でディケム君に決まってしまた。

 とても困っていた。

 せめて私だけでも同じ精霊使いとして、フォローしようと副委員長に立候補した。



 放課後、噂に聞いていた入学式恒例の力比べが始まっていた。

 黒魔法のクラスと青魔法のクラスが中心に、戦っている。

 なぜかラローズ先生が嬉しそうだ………


「そうそう、やっぱり入学式はこうじゃなくちゃ! 私も学生時代は、結構有名だったんだから~!」


 そりゃラローズ先生でしたらそうでしょう……


「何やってるのみんな、実戦が出来るいいチャンスなんだから、みんな早く行ってきなさい」


 いや、ちょっと! あんな中に入って行ったら死んじゃう!

 ろくに攻撃魔法も使えない私達F組じゃ、とても太刀打ち出来ない。


 私だけでなくF組全員が、『無理』と下を向いていると……

 先生がディケム君に、『行ってきなさい』と言っている。

 ちょっと先生、あんな中に入って行ったら、いくらディケム君でも怪我しちゃうから!

 ディケム君は、嫌々ながら杖をとってきますと行ってしまった。


 そして先生が信じられないことを叫びだした……


「お前たち、今、うちの組のディケムが、杖を取に行っているぞ! アルザスの奇跡のディケムだ! みんなせっかくのチャンス逃すなよ! そして経験しろ!」


 ⦅せ、先生が全員を焚きつけた! ウソ……… 先生バカナノ?⦆


 黒魔法科A組のマルサネ王国のコート王子が全員に号令をかける!

 先ほどまで争っていた全員が、コート王子の命令通り一列に並び、ディケム君を待ち構える。


 ⦅すごい…… これが王族のカリスマだ⦆


 『あら? こうなっちゃうのね…… これはヤバそうね』ラローズ先生のつぶやきが聞こえる……。


 ⦅えっ! せ、先生! バカナノ! いやバカデショ!⦆


 全学年の先生が一斉に校庭に向かって降りてくる、危険と判断したからよね?

 でも、ディケム君は帰ってきてきしまった!


 ディケム君が死んじゃう―――!


「全員放て!!!」


 コート王子の無慈悲な号令で、全員が一斉にディケム君に攻撃魔法を打ちだす。

 私にはなにも出来ない、ディケム君を助けられない!


 『だ、だめ先生早く止めて―――!』私は叫ぶ!


 魔法の一斉射撃を見て、ディケム君は少し驚いた顔をして、杖を前に突き出す。

 見ただけですごい杖だと分かるけど、杖からは何も出ない……


「え、不発?」


 でもディケム君に放たれた攻撃魔法がすべて、一斉に爆散して消えていった!


「ッ――なっ! なに? 今の!」


 校庭を見ている全員が、驚きの声を上げた。

 隣で見ているラローズ先生も、目を見開いている。


 『ッ――先生! 今のは何ですか?!』私は叫びながら尋ねた。


「私にも分からないわ! さすがねディケム君!」


 でもさすが王族、コート王子はすぐに立てなおし、すぐに一斉に攻撃魔法を発射させた!


「ダメ‼ そんなすぐに何回も防げるはずが!」


 私の心配をよそに、放たれた魔法はまた爆散して消えた。

 コート王子が、次は魔法を連射しろと叫んだが、結果は変わらなかった。

 凄まじい爆音が、校内いや王都まで響いている。


「きりがない……」


 ディケム君はそうつぶやいて、杖を地面に突き立てる。

 杖を中心に2m四方の地面が光り、地面から光の粒子が立ち上がる。


 ディケム君が『来い!』と言うと、一気に100匹ほどのウォーターエレメントがワラワラと召喚された。


 『うそ………』ラローズ先生のつぶやく声が聞こえる。


 学校中の全員、生徒はおろか先生までもがその光景を凝視している!

 ディケム君がウォーターエレメントに命じる!


「ウォーター!」


 100匹のウォーターエレメントから放たれる水が水龍となり、大洪水が校庭の生徒全員を押し流していった。


「うそでしょ………」


 その圧倒的光景に、皆、目を見開いたまま呆然としていた。


「かなり弱めに打ったから、これならケガはしないでしょ? ラローズ先生! これでよろしでしょうか?」


 『え? あ…… うん。 良いと思います。 今年は血が流れず残念ね………』ラローズ先生が呆然としながらそう言った。




 『彼ならば貴女を導いてくれるわ』……昔、先生は絶望していた私にこう言ってくれた。


 私は、自然にディケム君の所に駆け寄っていた、いや私だけじゃない、F組のみんなが駆け寄ってきていた。


 私は生まれて初めて、自分の能力を誇らしいと思った。

 鑑定から4年、私はこの才能に絶望し、自分は不幸な可哀相な人なのだと、自分で自分を蔑んできた。

 でもこの才能の進む先に、ディケム君が居た。


 私はこの日、自分が目指す道を見つけた。

 先生、私を連れてきてくれてありがとう。



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