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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章72 ドワーフ王国の王7

 

「イザベル―――ッ!!」

 ベルハルトは馬を降り地べたに転がるイザベルに駆け寄る。


 致命傷を負ったイザベルは既に虫の息だった。

 しかも現状では敵が殺到して来ないものの、敵に囲まれたこの状況ではイザベルを助けられる術は無い。


「………すまぬ…ベルハルト………。 奴を倒すどころか傷一つ与える事叶わなかった……… 陛下をお守りせねばならぬこの大事に………不甲斐ない」


「十分だイザベル。 君とドルアヒムのお陰でダードラーとの戦い方を学べた。 もし君たちが居なければ、我々はあの強大な敵に足掻く術なく瞬殺されていただろう」


 ベルハルトの言葉にイザベルは微笑む。

 その微笑みはベルハルトの優しさに対してだ。

 イザベルも分かっている、彼の言葉が死にゆく者への気遣いであることを。

 現状ではあのダードラーを倒す術はまだ見つからない。


 もぅ…目すら見えなくなったイザベルは手探りでベルハルトの手を探り、最後の力を振り絞り自分の手に持つ伝説級(レジェンド)武器『裁きの槍斧(ハルバード)』を手渡す。

 ベルハルトが手渡された槍斧(ハルバード)を力強く握ると、彼女は微かに口を動かし永き眠りについた。


 イザベルの最後をみとったベルハルトは『裁きの槍斧(ハルバード)』をさらに強く握りしめる。

 『裁きの槍斧(ハルバード)』は、通常伝説級(レジェンド)以上の武器を手にするとき行われる、武器による新たな主の選定を飛び越え、長きに渡る相棒の様にベルハルトに力を貸していた。

 それは有り得ない事。

 ………しかしもしかすると『裁きの槍斧(ハルバード)』も前の主イザベルの弔いを望んでいるのかもしれない。




「イザベルよ、そしてドルアヒムも今までの忠義ご苦労だった」

 その言葉にベルハルトが振り向くと、いつの間にかバーデン王がすぐ後ろに立っていた。


「ベルハルト、グスタフも今まで良く尽くしてくれた。 感謝する」

 次にバーデン王が口にした言葉で、ベルハルトは王の覚悟を悟る。


「「「「陛下………最後までお供いたします」」」」

 ベルハルトに続き、いつの間にか側に来ていたグスタフ、そして王を守る近衛騎士達も頭を垂れた。


 ドワーフ族が誇る十二将軍の二人を相手に、圧倒的力の差を見せつけたダードラー将軍に対し、バーデン王は一騎では誰も勝てないと判断し総力戦を決意した。

 それはこの『ダードラー将軍さえ倒せば何とかなるかもしれない』というチャンスとも言える状況の破綻を意味する。

 バーデン王の部隊が総がかりでダードラー将軍に挑めば、流石に傍観している敵兵達も黙ってはいないからだ。


 総力戦を決意したバーデン王部隊の動きを理解した鬼神兵が動き出す。

 ベルハルトは鬼神軍総がかりで攻めてくると思っていたが………

 ダードラー将軍の回りに黒い鎧を着た異様な騎士が十騎程並んだだけだった。


 ……どうやら『お前ら如きこれで十分だ』と言っているようだ。



「皆、もう一度言う―――これまでの忠義大義であった!」

「「「「「はッ!!」」」」」


「皆に最後の勅命を言い渡す! この戦いの第一は自分の命とする。 我の為に死ぬことを禁ずる。 屈辱であろうと泥をすすってでも皆生き延びよ―――!!!」


「「「「「ッ―――!?」」」」」


 バーデン王の言葉に戸惑いを見せた騎士達に『異論は認めない』とばかりにバーデン王の号令がかかる。


「皆の者、かかれ―――ッ!!」


 号令と共に、バーデン王近衛部隊の最後の戦いが始まった。


 戦いは………

 ダードラー将軍は言わずもがな、取り巻きの黒鎧の鬼神騎士一〇騎も尋常ではない強さを見せつけた。 

 その一人一人がドワーフ軍の将軍に匹敵する強さと言っても良い。

 決戦に突入したドワーフ近衛騎士が次々とたおされてゆく………



 ベルハルトは決死の戦いのさなか、次々と倒れ逝く仲間達の姿を横目に見た。

 皆、長い年月をかけ鍛え上げた肉体、よく戦場の野外キャンプの夜には『誰が一番良い筋肉か?』とか下らない話に盛り上がっていた。

 そうした彼らのふざけ合う姿を肴にレギーナと酒を飲むのがベルハルトの一番幸せな一時だった。

 だが今、彼らの芸術とも言える鍛え抜かれた肉体が紙屑の様に切り裂かれゴミの様に踏みつぶされてゆく。

 ベルハルトの脳裏には死んでゆく一人一人の笑顔が浮かんでいた。


 そしてまた一人、

 近衛兵がベルハルトの目の前でダードラー将軍に斬られようとしている………


 “あ”あ“ぁ…あああぁぁぁぁ……………… もぅやめてくれ!!”


 だがその直前―――ッ!

 人影がダードラー将軍と近衛兵の間に割り込む。


 人影をよく見ればそれは………

 バーデン王が近衛兵を庇い、ダードラー将軍の斬撃を神話級(アーティファクト)武器、宝剣オルクリストで受け止めていた。


「ッ―――なっ!  陛下!?」

 自分が守らなければならない主に助けられた近衛兵が目を見張る中、バーデン王とダードラー将軍の一騎打ちが始まってしまった。



 『絶好の好機!』とダードラー将軍はバーデン王へと斬りかかる。

 いく度かの打ち合いで、今度はダードラー将軍が目を見張り驚く事になる。

 あの絶対領域とも言えるダードラー将軍の二メートル圏内でもバーデン王が打ち負けた様子が無いからだ。

 その強さにダードラー将軍は『好敵手を見つけた』とばかりに唇の端に笑みを浮かべた。



 二人の戦いは二〇合、三〇合と打ち合うが勝負はつかない。

 壮絶な打ち合いは他の誰もこの戦いに踏み込めないほどの激しい戦いだった。


 武将としての技量ではダードラー将軍にやや分が有った、だがバーデン王はその足りない技量分を手に持つ“宝剣オルクリスト”が補っていた。

 所持する武器の差もその武将の力とするのが常識、だから誰しもがより強大な装備を求めている。

 もちろんダードラーもバーデン王との武器の差に不満を抱く事など無かった。


 永遠に続くと思われた稀に見る好勝負。

 しかし、ベルハルトの額には冷たい汗が流れていた………


 バーデン王の息が乱れた!


 勝敗を分けたのは年齢による衰え、体力回復の差。

 バーデン王は長年の経験と積み重ねて来たテクニックでその差を埋めていたが、戦いが長引けばごまかしは聞かなくなり自力の差が決定打となる。

 そして年齢の差も身体的差や装備と同じくその武人の力とするところが常識だ。

『もし若かったのなら………』とぼやいたところで結果は変わらない。

 戦いに置ける勝敗とは――全てを含め最後に立っていた者が強者で勝者なのだ。


 無情にも“宝剣オルクリスト”で受け止めたダードラー将軍の大太刀がバーデン王の肩に深く食い込んだ!


『陛下―――ッ!!!』 ベルハルトが悲鳴を上げる。


 しかし大太刀は無情にもさらにバーデン王の肩に深く食い込みバーデン王は吐血する。

 既に大太刀は肺にまで達し致命傷だ。



「皆……、ここまでの忠義大義であったッ! 我の誇りは皆の王であったことだ……礼を言う。  皆、我からすぐに離れろ―――!!」

 バーデン王が近衛兵たちに叫ぶ!


 異変を感じ取ったダードラー将軍だったが、大太刀を引き抜こうとしてもバーデン王の体に深く食い込んだ太刀が引き抜けない。


「なっ―――ッ!?」

 困惑するダードラー将軍にバーデン王が笑みを浮かべる。

「武人としてオヌシには申し訳なく思うが、我の道連れになって貰う。 バーデン王家に代々伝わる『神をも殺す』と云われるこの宝剣『オルクリスト(ガイア)』の力。 長年我の(マナ)を注いで溜めてきたその力を今ここで使わせてもらう!」


 バーデン王が最期に何か大技を使う事は確実。

 しかしダードラー将軍はバーデン王に食い込んだまま抜けない大太刀を手放す事を躊躇した。

 それは今まで生死を共にしてきた愛刀を手放す事への迷いなのか?

 それとも自分の力と装備を過信しての愚行だったのか?

 如何あれダードラー将軍は致命的なミスを犯した。



 バーデン王はベルハルト将軍、グスタフ将軍を含め近衛兵達が自分より離れた事を確認し、まだ逃げずに側に居るダードラー将軍を見て笑った。


 ダードラー将軍は大太刀を引き抜く事を諦め、バーデン王を両断する事でこの窮地を抜け出そうと思考を変えていた。

 既に大太刀はバーデン王の片肺を潰し腹上まで達している。


 バーデン王は意識が暗転する前、自分の全ての力を使い最後の大技を繰り出した――!


 ≪――母なる大地の祝福(ブレス・オブ・ガイア)――≫


 地が振動し空気を震わせ波動がバーデン王を中心に広がった。

 何か大きな力が発動したことは敵味方皆感覚で感じていた。

 しかし、劇的な爆発などが起こった訳では無い。

 身構えていた皆が『何が起こったのだ?』と疑問に思う中………

 唯一バーデン王の一番側に居たダードラー将軍だけは額に冷たい汗を流していた。


 それまでバーデン王の体を斬り進めていたダードラー将軍の腕が止まっている………

 そして三尺を超える大剣と不気味な赤黒い鎧から漏れ出でていたオーラも消えている。


「ベルハルトォオオオオ――――――ッ!!!」


 音が消えた戦場で、潰れた肺から絞り出したバーデン王の最後の叫びがこだました。


「ッ―――!!?」

 いつの間にかバーデン王の側まで戻っていたベルハルトが“裁きの槍斧(ハルバード)”でダードラー将軍に渾身の突きの一撃を放つ!

 

 大太刀を引き抜けないダードラー将軍はとっさに左腕の籠手で受け止める。

 これまでの戦いではダードラー将軍の鎧は“裁きの槍斧(ハルバード)”の力を上回り攻撃を弾き返してきた。

 しかし、ベルハルトが放った一撃は籠手を容易く貫通しダードラー将軍の左腕を吹き飛ばした。


 ………だが、ベルハルトの顔が濁る。

 槍斧(ハルバード)が籠手を貫通した刹那の時間、ダードラー将軍は咄嗟に貫かれた腕で押し上げる事で左胸を狙った突きの軌道をずらし、大きなダメージは負ったものの致命傷を回避する神業を成していたのだ。


「クッツ―――ッ! まだだぁああああ“あ”あ“あ”――――――ッ!!」

 ベルハルトが叫ぶ!

「“大地の断罪―――!!!”』


 “裁きの槍斧(ハルバード)”の槍斧固有技『大地の断罪』が発動する。

 ベルハルトを中心に放射状に地が割れ広がって行く――!

 その規模は鬼神族本陣に迫る程の規模。


 ダードラー将軍の口から血がこぼれる………

 そして二~三〇メートル四方に居た鬼神兵達も次々と血を吐き倒れ、さらにそれより広範囲の鬼神兵達すら深いダメージを負い片膝を付いた。


 バーデン王の最後の言動から、『母なる大地の祝福(ブレス・オブ・ガイア)』の範囲は二~三〇メートル四方だと推測される。

 さらに範囲内全ての者に弱体化の影響を与えるものだと考えられていた筈だ。

 しかしベルハルトが放った『大地の断罪』はさらに遠く離れた鬼神兵にも大きなダメージを与えていた。

 その事から“母なる大地の祝福(ブレス・オブ・ガイア)”が与えた影響範囲はバーデン王の想定をはるかに超えていたようだ。

 そしてその範囲以内に入っていた筈の味方ドワーフ騎士には弱体の影響などなかった。

 いやむしろ、味方のドワーフ騎士達は弱体どころか力が沸き上がり武器の性能が数段上がった様に思える。


 これを機に、これまで劣勢だったドワーフ近衛騎士達はグスタフ将軍を中心に連携を取り、ダードラー将軍取り巻きの黒鎧の鬼神騎士達を次々と撃破していった。




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