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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章54 至る者

 

 俺の回りを輝くマナが渦を巻く。

 そんな俺を『主天使(ドミニオン)ハシュマル』が目を見開き信じられないと言った表情で固まって見ている。

 あきらかに俺への警戒を数段階上げ今は情報を集める為観察しているようだ。



 俺は目下最大の脅威ハシュマルが動かない事を良い事に……

『何か変化は無いか?』と確認する為自分の体を色々見ている。

 今のところ光っていること以外は別に変った所は無い。

 離れたところに居る、ララ達から光り輝くマナが吹き荒れているのも気になる……


 俺が両の掌を開いたり閉じたりして見ているとウンディーネが顕現した――

 ……のだが!?


「…………はぁ?」


 いつもの様に俺の肩の上に顕現したウンディーネは、いつもの少女の姿では無かった………

 例えるなら女神様?

 少し幼さは残るものの、いつもの幼女ではなく成人に近い少女の姿だった。


「ウ…ウンディーネだよな?」


「当り前じゃろこの(たわ)け! この期に及んでお前はまだマナではなく目に頼った見方しか出来ぬのか」


「す、すみません」


「…………ディケムよ。 四大精霊が全て揃いお前の格は今大きく上がった。 そして今までの行いが実を結び、遂に神木が『イグドラシル』へと至ったようじゃ。 普通なら悠久の時を経てしか育たぬ神木が、よもやこの短期間でイグドラシルへと至るとはのぉ………」


「…………え? ………と言う事は?」

「そう言う事じゃ! お前のマナはとうとう『神格化』を果たしたのじゃ!」


「―――ッ!!!!」


「まぁまだ辛うじて至った程度じゃがな」

「えっ!? 辛うじて?」

「あぁ辛うじてじゃ。 じゃがその辛うじてと言っても至ると至らぬのでは雲泥の差、いや普通では決して超えられぬ決定的な差が有る! お前はこの世で初めてそれを自力で超えたのじゃ。 誇るがいい」


「誇るが良いと言われても………」

「フフ。 ほぉ~ら あの高飛車で今まで我らを見下し続けていた主天使(ドミニオン)の顔を見るがいい。 あの顔を見られただけで妾は満足じゃ」


「ウンディーネお前……… ちょっと歪んでるぞ」

「それほど神にしろ、その御使い(てんし)にしろ、圧倒的存在だったと言う事じゃ。 それが格下と見下してきた者にいつの間にか追い抜かれていた時のあの顔…… ハハハァ―――これだけで何杯も飯が食えるわ!」


「………ウンディーネ。 お前成長して性格変わって無いか? それにお前は飯食う必要も無いだろ」


「必要なくても美味いものは美味いのじゃ、それが嗜好というものじゃろ。  まぁ良い冗談はそれ位にして、それ程我ら精霊は天使や神に苦汁を飲まされ続けてきたと言う事じゃ。 それは我らだけではなく人間だって……いや今の(いびつ)なマナの循環の中に縛られた全ての者が同じ筈じゃ。 たとえ現世に居る時は忘れてしまっていたとしても、その宿意はマナに深く刻み込まれている筈じゃ」


(いびつ)なマナの循環の中に縛られた………?」


「そうじゃディケム。 お前も少ししたら思い出すじゃろう、神が勝手に押し付けた身勝手な歪んだ輪廻(じゅんかん)の事を……そしてその理由を。 お前こそがこの歪んだ循環、輪廻を断ち切る為に立ち向かった只一人の人間なのだから」


「輪廻を断ち切る為に立ち上がった人間………」


「今は無理に思い出さなくても良い、全て時が解決してくれるはずじゃ。 それよりも目の前のあの羽虫を何とかせねばならぬ。 格上となったとてお前はまだその神格化したマナに順応していない。 それにマナの格と戦闘力とは必ずしも比例するモノではないと教えたはずじゃ。 今のお前でもあの羽虫と戦うのは容易いことでは無いぞ」


「あぁ分かってる。 それでも神格化する前は勝てる気がしなかったから、今は幾分マシになった気がする」


「分かっているなら良い。 さぁ羽虫が動き出したぞ!」

「あぁ!」





 主天使(ドミニオン)ハシュマルが動き出す。


 ハシュマルは試しとばかりに指に光を集め、その小さな光の球を俺へと飛ばした。

 俺は感覚で『これは大丈夫!』と避けずにその光の球に当たってみる事にした。

 光の球が俺に接触すると、膨大なエネルギーの開放が破壊現象を巻き起こす。


 ドッゴォオオオオオオオオオオオオ――――――!


 破壊の力は、もし地に落とされればドワーフ族がこの地より消えて無くなる程の威力を秘めていた。


 今までの俺ならこの攻撃は精霊結界を何重にも張らなければ大ダメージを負っていただろう。

 しかし今は……

 ハシュマルの攻撃は俺から自然に漏れている神気と言えるオーラのようなものに阻まれ、ダメージが届いていない。


「ほぉ、これは凄い。 結界を張らなくてもこの防御力とは……」

「………ディケム。 ちと無理が過ぎるぞ! 少しヒヤッとしたではないか!」


 肩の上でウンディーネがプンスカ怒っているが、あの程度のハシュマルのお試し攻撃など俺には通らない事が直ぐに直感で来た。

 この防御力も目を見張るものが有るがこの直観力、力の把握認識力も大きな武器だと言える。



 おぉおおおおおおおお――――――!!!

 わぁああああああああ――――――!!!



「ッ―――!!? な、なんだ?」

 戦闘に集中していた俺の耳に、突如大きな歓声と声援が聞こえてくる。


「いまやここに居るドワーフ族も鬼神族も皆お前を神と崇めている事を忘れたのか?」

「………………」


 正直そんな恥ずかしい事は止めて欲しいと思ってしまうが………

 なぜか人々の声援や祈りが聞こえて来ると俺が纏う神気の力が増す気がする。


 ⦅なんだコレ………⦆

 すると今まで会話していたウンディーネから念話で話しかけてくる。


『フフ、そろそろ気づいたじゃろ。 神々は信仰を力とする。 神と悪魔の戦いにおいてこの力が大きな差といっても良い。 悪魔にも同じような性質を持つ者も居ない事も無いが、悪魔と神とでは信者の数が圧倒的に違う事は自明の理じゃ』


『ウンディーネ、なぜこの会話だけ念話なんだ?』

『今の話が恐らく【禁忌】じゃからじゃよ』


『禁忌!?』

『うむ。 神はこの信仰の力を隠している。 史実上なぜ信仰を力とする神が力の源となる大切な人の国を幾つも滅ぼしてきたかと言えば、これが大きな原因だと妾は睨んでいる。 絶大な力の誇示なのか、もしくは滅ぼされた国では信仰を妨げる何かが有ったのじゃろう。 もちろん他にも神を殺す技術キアス文字などの例も有るが、信仰の力の重要性はその比ではないからな。 じゃから安易に口に出して話しては何が起こるかもわからぬのじゃ』


『なるほど………』

『おいっディケム! 分かっているのか? 今の話は本当に重要な事なのじゃぞ! もし間違えればお前は多くの大切な仲間を失う事態にもなりかねぬのじゃぞ!』


『す、すまないウンディーネ。 神格化して少し気が緩んでしまったようだ。 信仰の話は他言しないと誓うよ』


『うむ。 まぁお前の浮つく気持ちも分かるがな』



 俺は正直神格化して、どぅにも湧き上がる興奮を抑えきれないでいた。

 それはまだ全ての記憶を取り戻せていないこの体、ディケムには理解出来ない事なのだろう。

 だが多分ラフィット将軍を始め、俺の魂が幾代(いくよ)にも渡って進めてきた計画が

 今一つの大きな転換期を迎えた―――その喜びに魂が震えているのだと思う。


 しかし、これが終着点ではない。

 神格化はこの魂が成さねばならぬ事の手段の一つでしか無いのだから。



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