八章49 主天使降臨
ドォォォオオオオオオオオッ――――――ン!!!!
戦場に大きな光の柱が立つ!
その光の柱は鬼神族もドワーフ族も関係なく吞み込んで行く。
慈悲無き光に飲み込まれた兵士達の消滅は免れない。
光は少しずつ広がり逃げ惑う者達を次々と飲み込み……
そして光りが徐々に弱まると、そこには翼を持った巨大な人影が浮かび上がる。
「天使様だ―――!!!」
「天使様が降臨なさったぞ―――! ゲレオルク王弟殿下の策は成功だ!」
「ゲレオルク王弟殿下万歳! ゲレオルク王弟殿下バンザーーーーイ!!!」
「あぁ天使様、我らドワーフ族を野蛮な鬼神族からお救い下さい!」
光の中に浮かび上がった天使の影は徐々に輪郭を現し、今はもうはっきりとその姿を見て取れる。
姿を現した天使を見てドワーフ軍に歓喜の声が上がる。
兵士達はおのおの両手を握り、天を仰ぎ涙を流し祈っている。
『これでドワーフ族は救われた』――と、
みな天使が自分達の願いを叶えてくれると疑わない。
先程、光の柱に巻き込まれ多くの同胞が消滅した事など忘れて………
「ディケム…… あれヤバくないか?」
「………あぁディック。 あれは今まで降臨した天使の比じゃないマナを内包している…… あれはヤバイ」
ゲレオルク王弟殿下が召喚した天使はその膨大なマナから推測するとアザゼルと同じ中位の天使と推測される。
だがアレは……
その中位の中でもより上位の主天使、ドミニオンクラスだろう。
炎を纏うその姿は昔文献で読んだ事が有る………
史実上一度だけ降臨が観測され、召喚した国を一瞬で燃やし尽くしたとされる最悪の天使。
「あれはたぶん………主天使ハシュマル!?」
「「「ッ―――主天使ハシュマル!?」」」
「主天……使? ちょっ――ディケム大丈夫なの? あんなの上位の天使召喚しちゃって本当に大丈夫なの!!? ゲレオルク王弟殿下の命令なんて本当に聞いてくれるの!?」
マナの鍛錬をし、マナに敏感になったディック、ララ、ギーズは完全に降臨し姿を現した主天使のマナ量の膨大さに当てられ呑まれてしまっている……
ララは泣きそうな顔で癇癪を起こして喚いている。
「わ、わからない。 でももしアレをコントロール出来なければ……」
「出来なければ?」
「鬼神族どころじゃない。ドワーフ族も滅亡するだろう」
「そんな………」
降臨した主天使ハシュマルは、まだ動かない。
確かに現状は魔法陣に組み込まれた、召喚時に付与される従属の契約によってハシュマルは縛られている様にも見える。
戦場のドワーフ族軍も鬼神族軍もみな戦いを止め突如降臨した天使だけを見ている。
まだ動かない天使に多くのドワーフ兵も歓喜の声を止め今は天使の動きを注視している。
そんな静まり返った戦場に一カ所だけ騒いでいる部隊が有る。
天使を召喚した張本人ゲレオルク殿下の陣営だ。
天使召喚を成功させ、歓喜の渦に包まれている筈のゲレオルク王弟殿下陣営の様子が少しおかしい……
「ね、ねぇディケム…… なんかゲレオルク殿下の陣営が揉めてない?」
揉めていると言うよりパニックに陥っていると言った方が良いかもしれない。
言霊を使いゲレオルク殿下陣営の声を拾うと――
『な、なんなのだあの上位の天使は―――! 話が違う!!!』
『そ…そんな筈はない………アルキーラ殿の話では………』
そんな声が聞こえてくる………
あの混乱ぶりはもしかして想定以上の天使が降臨してしまったのではないのか?
確かにあの浮かび上がっている魔法陣を見ると、俺達がガレド坑道で戦った下位天使程度なら縛れそうに見える。
でもあの程度の従属魔法で今降臨した格の天使、しかも主天使クラスの天使が縛れるとはとても思えない。
この期に及んで事故が起きたのか?
………いや、俺にはアルキーラ・メンデスの楽しそうな笑う顔が想像できる。
そして思ったとおり――
主天使ハシュマルはゲレオルク王弟殿下の従属の鎖を容易く引きちぎった。
分不相応の存在を召喚してしまった術者には大きな代償が襲いかかる。
従属の鎖を引きちぎられた術者、ゲレオルク王弟殿下がノックバックを起し全身から血が噴き出す!
近くに居たドワーフ軍の癒し手のお陰で、辛うじてゲレオルク王弟殿下の全身が砕け散る事は避けられ、一命は取り留めたようだが…… あの状態では瀕死だろ。
ゲレオルク王弟殿下の容体を確認しに行きたいが……
正直それどころではない。
主天使が自由の身になった今、鬼神族はもちろんドワーフ族も全滅する可能性が高い。
最悪にも、ここには殆どのドワーフ族の生き残りが集まり、最終決戦に向けた鬼神族の本陣も集まっている。
この両種族の大半が集まった現状に主天使が降臨すれば……
そこには膨大な命が失われる大虐殺が待っている。
……ん? 本当にこの状況は偶然が重なり起こった事なのか?
ま、まさか……
本当はアルキーラ・メンデスがこの大量の命が失われる状況を意図的に作り出したのでは無いのか?
アルキーラ・メンデスが何を考えているかは分からないが、この大虐殺だけはどうにか阻止しなければならない。
もし阻止できなければ………
ここで起きる大虐殺はさらなる大事への切っ掛けでしか無い気がしてならない。
そしてさらには、もしここでドワーフ族が壊滅し、鬼神族も軍の大半を失えば……
弱り切った二種族の領土は他種族に狙われ、この西方の地で種族間のバランスが崩れる程の壊滅的な領土争いが起こる。
そうなればこの地に隣接する人族も他人事では居られ無いだろう。
自由を得た主天使ハシュマルが鬼神族軍に向け右の掌を突き出す!
ドォゴォォオオオオオオオオッ――――――ン!!!!
ハシュマルの掌が向けられた先に衝撃波が巻き起こり、そのすぐ後に炎の柱が立つ!
炎の柱は一瞬にして大隊規模の鬼神族兵団を飲み込んでしまった。
「オォオオオオオ―――!!!!」
「ワァアアアアア―――!!!!」
「オォオオオオオ―――!!!!」
敵軍の大隊を一瞬にして葬った天使を見て、ドワーフ軍の歓喜の声が戦場に響き渡る。
………だが彼らはまだ分かっていない。
今放たれた攻撃は、ただ偶然鬼神族に向けられただけだと言う事に。
そしてこの後、鬼神族と同じ悲劇がドワーフ族にも降りかかると言う事を。




