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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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八章48 精霊魔法師の卵たち10

 

 ―――アンドレア視点―――


「ア“がががががが―――ア”ァア“ア”あ“あ”ぁ“――――――!!!!」


 奇声を上げるアーロンの目が赤く充血してゆく。

 あ…あれは―― 狂戦士(バーサーカー)化の特徴だ……

 あの充血がさらに血で真っ赤に染まった時、アーロンは 狂戦士(バーサーカー)として後戻り出来ない状態となり、……そして最後は破滅する。


 私達がアーロンの様子に驚き少し後ずさりして息を呑んでいると……

 イグナーツが突然駆け寄り、見る見る狂戦士(バーサーカー)化していくアーロンの胸ぐらを掴みました!

 私達が『危ない!』と止めるよりも先に――

 『しっかりしろ!』 『怒りに飲み込まれるな!』

 イグナーツはそう怒鳴りアーロンの狂戦士(バーサーカー)化を食い止めようとしました!


 私はイグナーツがアーロンの事を嫌っていると思っていたから、この行動は意外でした。


「アーロン! アンタの兄エイベルさんはこんな怒りの感情に負けるような弱い人では無かった! アンタはあのエイベルさんの弟だろが―――!!!」


 ……エイベル?

 それはたしか昔亡くなったアーロンのお兄様の名前だったはず?

 前に一度アーロンが私に話してくれた事が有ります。

 驚く事にあのイグナーツが亡くなったアーロンのお兄様の事を知っている様です。


 すると――! エイベルさんの名を聞いたアーロンに変化が起こりました。

 今やアーロンの目は血がこぼれ落ちるほど赤く染まり、筋肉は肥大し、体中の血管が浮かび上がり、既に狂戦士(バーサーカー)化は成され直ぐにでも暴れ出しそうな様相でした。

 そんなアーロンの目に少し光が戻ってきた様に見えたのです。

 目は赤く染まったまま……でも瞳孔が黒く光りを宿したのです。


「アーロン!」 「アーロン!!!」 「アーロン先輩!」


「あ“ぁ”あぁあああ“あぁぁ―――……… み”…みみ…みんな………」


 皆で声をかけると、

 奇声を上げる事しか出来なかったアーロンの口から言葉が出て来ました。

 こ、これは―――!

 驚く事にアーロンは狂戦士(バーサーカー)化したままで意識を取り戻し始めたのかもしれません。


 でもアーロンの体はまだ筋肉が肥大し、体中の血管が浮かび上がたまま。

 私が恐る恐るイ・シダール先生を視線だけで追うと……

 先生はゾッとする笑みを浮かべ呟きました。


「ほほぉ~~ぅ面白い。 アーロン君、貴方の闇は深い様ですが少し特別の様ですね。 さぁその先を私に見せ貴方の力を示すのです。 怒りに吞み込まれるのではなく流されるでもない。 逆に貴方が怒りを支配するのです!」


 怒りを支配?

 怒りをコントロールするって事?

 もしそれが出来れば……

 狂戦士(バーサーカー)化したとしても、肉体と魂を限界まで消耗して死ぬことは無くなるって事なの?


 アーロンは拳を握り震えながら暴走しないように耐えている。

 でもイ・シダール先生が見せるシャボンに映し出された戦場には、すでに狂戦士(バーサーカー)化したルプシーさんが戦場で暴れ回る姿が映し出されている。

 あぁなってしまった狂戦士(バーサーカー)はもう……

 肉体と魂を消耗しきり死ぬまで止まれない。

 その映像を見て、

 アーロンは怒りに震え涙を流しながらも、怒りに流されないよう必死に耐えている。


「うぁがががぁああ“――……  ふぅ……ふぅ……」

「がぁああ”あ“あ”ぁ―――……ふぅ……ふぅ」 

「――――ル…ルプシーさ……ふぅ……ふぅ」


 必至にアーロンは耐えている。

 でもイ・シダール先生はアーロンの怒りを焚きつける様に戦場の映像を流し続ける。

 もし一瞬でも怒りの感情に身をまかせてしまえば――もう取り返しの付かない破滅へと天秤は傾く。


 私は苦しそうに必死に耐えるアーロンとそれを観察するイ・シダール先生を交互に見る。

 その時、シャボンにルプシーさんがついに力尽きる姿が映し出されました。

 そのルプシーさんの口元が微かに動いたのを私は見ました。


 ⦅あれは……⦆


 そしてその口元をアーロンも確かに見ました。

 ルプシーさんの最後を見たアーロンは涙を流し震えながら怒りを内に閉じ込めようとしています。

 その姿を見ていたイ・シダール先生の顔が徐々に歓喜の表情に変わった時――

 アーロンは怒りを支配し狂戦士(バーサーカー)化をコントロールして見せたのです。



「お見事ですアーロン君! まぁまだまだ不安定ですが取り敢えずは合格です。 フューリーの誘惑に支配されずその力をコントロールできたのは近年ではトリーノだけでした。 これで貴方も私の貴重なサンプルに成れたと言う事です、これからも私に必要とされるよう精進を怠ってはなりませんよ」


 ⦅トリーノ?  アーロンの他にも狂戦士(バーサーカー)化をコントロール出来た人が居るって事?⦆

 ⦅貴重なサンプルって…… イ・シダール先生は何をしようとしているの?⦆



 イ・シダール先生の言葉は気になりましたが……

 今、私達はアーロンが狂戦士(バーサーカー)化をコントロール出来た事にホット一息つきました。

 でもそんな時―――戦場に大きな変化が起こりました!


 ドォォォオオオオオオオオッ――――――ン!!!!


 戦場に大きな光の柱が立ったのです!!!

 その光の柱は鬼神族兵もドワーフ族兵も関係なく吞み込んで行きました!

 そして私達はなぜか理解しているのです。

 あの光に吞み込まれた多くの命は……もう助からないと。



「ッ――っな! あの光は何なんだ―――!?」

「もぉ~う! 今度は一体なんなのよ!?」

「光の柱が広がって皆を飲み込んでいく……」


 私の脳裏に一つの言葉『天罰』……その言葉が浮かびました。

 あの光は神聖だけど、そこに慈悲は無い。

 一度降臨してしまえば、あの光の中心に居る者の前ではみな平等な死が与えられる。


 徐々に光の柱の光りが収束してくると、その中心に人影が見えてきます。


「あ……あれは天使―――!!!!」

「う、嘘だろ!? また天使降臨とかどうなってる? 天使なんてそう簡単に降臨する存在じゃ無かった筈だろ?」


 そう………

 『天使なんてそう簡単に降臨する存在じゃ無かった筈だろ?』

 そう叫んだイグナーツの言葉が私の中で繰り返し響いた。


 数世紀に一度起こるかどうかと云われていた天使降臨が立て続けに起きている。

 あぁ……やっぱり………

 私達が今後戦わなければならないのは私達が信仰している存在なのですか?

 私達が救いを求める存在……

 そんな存在と、私達は自分達の生存を賭けた戦いを行わなければならないのですか?


 ッ―――あっ!

 ……も、もしかしてディケム先輩はその事を知っている?

 ディケム先輩は魔神族ラフィット将軍の生まれ変わりだと云う。

 そしてディケム先輩の下に魔神族五将のラトゥール様がカステル皇帝の許しを得て人族領に来た。

 普通ならそんな自国の貴重な最大戦力、五将の一人を他国に送る事など有り得ない。

 でも、もし全てが計画的に行われている事だとしたら……?


 あぁ………魔神族はこれから何を始めようとしているの?



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