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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章41 ルーンの盾

 

 俺達はブルーノを連れて、ガレドの街に引き返す。


 その途中――

『おぉそうだ! ここまで来てくれたお礼と言ってなんだが――』

 とブルーノが俺達を連れて、ここに来る途中にあった小屋へと向かう。


 ⦅たしかここの装備はどれも実用に足るものでは無かったと思うが……⦆


 そんな事を思っていた俺の顔を見て、『まぁ見てくれ』とブルーノは部屋の隅に積み上げられた箱をかき分け、一つの箱を取り出した。


「これは……もちろんまだ試作品なのだが。 だが俺が作った中では最高傑作だ。 よかったら見てくれ」


 そう言いブルーノが開けた箱の中には、見事な細工が施された『ミスリルの盾』が入っていた。

 正直、なぜ試作品にこれ程見事な細工を施す意味が有るのか……?

 と思わず思ってしまうが、それがドワーフ族の矜持なのだろう。


 ブルーノはドワーフ族の鍛冶師の現状について説明を始めた。

 鍛冶を生業とするドワーフ族でも、ミスリルを加工できる者は両手で数えられるほどしかいない。

 もちろんブルーノはその中の一人だそうだ。

 その者達をドワーフ族は敬称して『名匠』と呼んでいるが、既にこの戦争で幾人かが命を落としているのだと言う。

 鬼神族の狙いの一つもこの『名匠鍛冶師』を手に入れる事らしく、それを知った鬼神族の手に落ちた名匠達は自ら命を絶ったのだそうだ。


 人族では俺の知る限りミスリルを打てる職人はレジーナだけだ。

 レジーナは己の今まで培った鍛造技術に、青魔法のスキルを使いティンカーベルの固有スキル『クリエイト』をラーニングする事で、ドワーフ族の云う所のミスリルを扱える力『名匠』以上の力を手に入れた。

 今はさらにオリハルコンの研究に着手していて頼もしい限りなのだが……

 正直、軍装研究部隊ではレジーナの技術が突出しすぎて他の鍛冶師がついて行けていない現状が有る。

 ここは是非とも生き残っている他の名匠鍛冶師もソーテルヌ総隊に勧誘し、軍装研究部隊の強化を図りたいところだ。



 ブルーノが差し出したミスリルの盾を見ると。

 それは見事な業物で細部にまで細かな装飾細工が施されている。

 そしてその細工に隠すようにルーン文字も刻まれていた。

 だが、残念ながら盾から属性を感じる事は無い。

 しかし……


「この盾は会心の作だったんだ。 だが今までどうしても属性を付与させることが出来なかった俺は視点を変えて、地味だが属性付与ではなくマナを吸い上げ、マナの保有量を上げるルーン文字を試しに刻んでみたんだ。 結果、とても面白い物が出来たと思ったのだが…… 盾のマナ量が上がった所で俺には使い方が分からなかった。 だがさっきの話ではアンタは俺の力を使って装備のマナ量を上げたいと思っているのだろ? ならこれを使ってみてくれ」


 ブルーノから渡された盾には付与された属性は無いものの……

 ミスリルには有り得ないマナの保有量だった。

 さらには『マナを吸い上げる』ルーン文字も刻まれているお陰で、装備者からだけでなく周囲からもマナを集め、一時的に爆発的量のマナを保有させることも出来そうだ。


「だが初めに言っておく。 俺の力を過分に買ってくれるのはありがたいが…… その盾を見ても分かるだろ? 俺のルーン文字、いやキアス文字の研究はマダマダだ。 その盾も失敗作に過ぎない。多分アンタが全力で使ったら一回耐えられるかどうかだと思うぞ」


 先程の天使との戦いを見て、ブルーノはそう判断したのだろう。


「あぁ分かっています。 うちの部隊にも今オリハルコンの研究に着手した者が居ます。 あなたには是が非でも生き残ってもらい、そこで一緒に研究してもらいたいと思います」


 オリハルコンの研究に着手と聞いて、ブルーノは目の色を変える。

 同じ鍛冶師としてミスリルよりさらに上の金属を扱っている者が別の場所に既に居る。

 それはブルーノの鍛冶師魂に火を付けるのに十分な言葉だった様だ。

 鍛冶師の矜持とライバル心が刺激され、底なしの探求心が種族の垣根を超える。


 これならブルーノも戦場で変な正義感から無駄に命を粗末にすることも無いだろう。

 俺もこの盾を見て、ブルーノの保護を何よりも優先させる最重要事項へと格上げした。



 俺は背にグラムドリング、そしてグラムドリングが見えるようにその上にブルーノが作ったルーンの盾を重ねて装備した。

 ブルーノが嬉しそうな顔をしている。

 ドワーフ族の宝剣に自分の作った盾が共にある事がとても嬉しいのだという。

 ブルーノが満足ならそれでいい。


「さて出発しよう」


「旦那、もちろん生き残れたら……だが。これからアンタが俺のボスになる事は決まりだ。 今後は敬語なんざ止めて気軽な言葉でブルーノと呼び捨ててくれ」


「わかったブルーノ。 必ずアンタを人族領に連れて行き、我が隊に入隊してもらう。 よろしく頼む」

「あぁ」




 ガレドの街へ戻る為俺達はブルーノを先頭に坑道を進む。

 一度通った道だが来た時と逆方向。

 しかも坑道は同じような道が続き網の目の様に掘られている。

 ドワーフ族は本道を真っすぐ進めばいいと言うが……

 俺達には分岐した道のどちらが本道か見分けがつかない。

 冒険者でもマッピングして地図をじっくり見ながら戻らなければ迷子になる事は必須だろう。

 だが流石はブルーノ、その坑道を地図も見ずに小走りで駆けて行く。


 途中、弱小のモンスターに幾度か襲われたが、先頭を行くブルーノが片手斧で振り払うように滅していた。

 流石鍛冶師として腕っぷしを鍛えてきたブルーノ、戦士としてもそれなりの力を持っているようだ。


 しかし……

 問題はこの坑道があの天使を滅した後もダンジョン化されたままだと言う事だろう。

 ダンジョン化されたままと言う事は、ダンジョンコアがまだこの坑道のどこかにある。

 そしてこの坑道をダンジョン化させた誰かもまだ居るかもしれないと言う事だ。

 もしかするとこの先で、また天使のような強力なモンスターを配置してくる可能性もある。


 ………いや、何故かソレは無い気がする。

 ダンジョンマスターがアルキーラ・メンデスと決まった訳では無いが、奴と近い趣向を持った者ならば、もうここでは俺達に構う事は無いだろう。


 そして今が平常時なら、このドワーフ族領の心臓とでもいうべき鉱山都市ガレドの鉱山坑道がダンジョンと化した一大事。

 何が何でもダンジョンコアを破壊する為このダンジョンを探索する必要があっただろう。

 しかしドワーフ族はこの後、このガレドの街を捨ててバーデンへと向かう。

 ガレドが鬼神族の手に落ちる事が時間の問題となった今、むしろ鉱山坑道がダンジョン化されたままの方が都合はいい。

 もちろん坑道から溢れ出てきたモンスターから背後を襲われる危険性も有るが、今のダンジョン化進行のスピードを見ると、モンスターが溢れ出る可能性は低い。

 ドワーフ族もこの後そんなにゆっくりとはガレドに居続けはしないだろう。


 このダンジョンは、ドワーフ族の鉱山を手に入れたと嬉々として入って来る鬼神族に良い意趣返しとなり、多少の足止めにもなるかもしれない。




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