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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章39 プリンシパリティ戦4

 

 顕現した大天使(アークエンジェル)はこれまで素手だった一介天使(エンジェル)と違い光り輝く剣と盾を持っていた。

 その二体の大天使(アークエンジェル)に守られる様に、杖を持った権天使(プリンシパリティ)が後ろに居る。

 まるで三人冒険者パーティーの編成の様だ。

 明らかに今まで無秩序に攻めてきた一介天使(エンジェル)とは格が違う事を示している




 前衛二体の大天使(アークエンジェル)が動き出す。

 アークエンジェルとディック、二対一の接近戦が始まる。

 俺はすぐさまディックを守る精霊珠で作った精霊結界の盾をもう一つ追加し、攻撃用の精霊珠で大天使(アークエンジェル)の後ろにいる権天使(プリンシパリティ)を牽制する。


 苛烈な大天使(アークエンジェル)の猛攻。

 精霊珠の盾二つに守られディックは辛うじて攻撃を捌いている。


 『くっ……』とディックの顔が悔しそうに歪む。


 今は辛うじて持ちこたえているがこのままではいつか詰んでしまう。

 ディックの剣技は正直まだ二流……いや三流だろう。

 ディックは高濃度のマナの中でラトゥールのもと騎士団の訓練に混ざり、誰よりも一生懸命剣技を磨いてきた。

 さらにはペデスクローにもたまに教えを乞うているとも聞いている。

 その甲斐あってディックが反則的な急成長を遂げているのも確かだ。

 ……だがそれでも天使を相手にするとなれば経験が圧倒的に足りない。

 この戦いはそう言うレベルの戦いだ。

 前世のラフィット将軍の経験を手に入れつつある俺がディック以上に反則なだけだ。

 天使と戦うには剣技においてラトゥールやペデスクローの域に達する必要がある。


 今のような盾と剣を使った純然たる勝負ではどうしても地力の差が出てしまう。

 しかも二対一で相手が天使ともなれば押されて当然の結果だと言える。

 正直いまのディックの戦い方は不正解だ。

 ディックの強みは相手と同じ土俵で戦うのではなく、イフリートの力を使って圧倒的火力で押し切る事が好ましい。

 もちろんそんな事はディックも分かっている筈……

 それでもディックが剣の勝負をしているのは、今の自分の剣技がどれだけ天使に通用するのか試してみたかったと言う所だろう。

 今後も起こるであろう天使との戦いを見据えての力試し――

 その意気は頼もしい。


 だが、そろそろ天使を俺達の土俵に引きずり出したいところだが――

 この状況がそれを許さないのも確か。

 今は顕現したばかりで、士気が高い天使のターンと言う所だろう。



 ――しばらく受け身に徹する厳しい状況が続いていた。

 俺達は一気に攻め切ろうとしていた天使たちの猛攻を何とか凌いでいた。

 永遠とも思える防戦一方の時間……

 だがその厳しい時間に突然終わりが訪れる。


 苛烈なアークエンジェルの猛攻が『フッ…』とほんの一瞬だけ途切れた。

 短期で決めるため力んでいた天使が一瞬息切れしたようだ。

 ほんの刹那の緩み……

 だがそのチャンスをディック見逃さなかった。


 俺達が戦っている鉱山坑道の広間、その岩肌に囲まれた薄暗い場所が一瞬にしてマグマの大地へと変わる!


『固有結界!?』


 ディックは防戦一方の様に見えて、少しずつ準備していたようだ。

 天使が息切れするのを待ち、天使の隙が生まれたその瞬間ディックは八柱のイフリートを瞬時に展開し、この広間を強制的にイフリートの固有スキル『固有結界』に閉じ込めた。


 正直ディックがそこまでイフリートの力を使いこなしたのに驚いた。

 だが……


 この固有結界は言わば幻想の世界。

 今この幻想の世界では創作者のディックが神だと言っても良い。

 しかし、ここで起こった事象はただの夢の中の出来事だ。

 夢は覚めてしまえば現実世界は元のまま。

 だが、もしここに取り込まれた敵が固有結界を発動させた術者より力が低かった場合……

 この幻想の世界で起こった出来事は、現実を上書きされ定着する。



 天使達は赤く焼けたマグマの大地に立っている。

 天使たちは一〇〇〇度を超えるその熱を抵抗(レジスト)しているようだ。

 この温度では天使達には通用しない。

 ディックはこれ以上の超超超高熱の炎を顕現させられるのか?

 それともディックがモンラッシュ事変で使った『原初の炎』を……

 いやアレはまだ力不足で危険すぎるとディックは封印している筈だ。

 この夢の世界ならば使うことは出来るだろうが――

 ここで術者が致命的なダメージを負った場合、それも現実世界に上書きされる危険がある。


 この『固有結界』は結界内に限定して術者の都合のいい環境を作りだし、敵に理不尽な状況を押し付けることが出来る。

 だが……結局のところ幻想世界だとしても術者の力を大きく逸脱することは出来ない。

 もし逸脱する力を使ったときは――

 その反動が術者に来るか、その結果を現実に上書きすることが出来なくなる。



 次の瞬間―― マグマの大地から漆黒の炎が溢れ出す!

 ディックが選んだのは『ゲヘナの炎』のようだ。


 今までイフリートや剣に付与する形で使っていたゲヘナの炎が地を覆う。

 そしてゲヘナの炎が天使達の防御壁を破り、マグマがダメージを与えている。

 まさにこの固有結界の中は天使にとって逃げ場のない地獄と化した。

 それまで余裕の笑みを浮かべていた天使の顔が歪んでいる。


 一瞬にして有利だった状況が一転し、理不尽な状況に陥った天使達。

 大天使(アークエンジェル)がゲヘナの炎を嫌がり腕を交差し顔を伏せた時、そのチャンスを見逃さずディックはすかさず前へ出る!


 ディックが無防備な大天使(アークエンジェル)に斬りかかろうとした時――


 バリリリッッッ――――――ン!!!


 イフリートの『固有結界が』はじけ飛ぶ――!


『なっ…… ディック!?』

『!? ……グッハ………』


 大天使(アークエンジェル)が顕現してからは、戦いを観察する様に動かなかった権天使(プリンシパリティ)が動いた!

 権天使(プリンシパリティ)により強引に固有結界が破られたのだ。

 そしてその反動が全て術者であるディックに集約する―――


 ⦅ヤバイ!⦆


 俺は懐からゴーレムコアを取り出しディックに向けて投げる。

 俺が投げたゴーレムコアが魔神族ブランの形を形成し、倒れるディックの前に滑り込み大天使(アークエンジェル)の追撃を受けとめる。


『ネロ! ディックを頼む!』


 頷いたオネイロスが刀『千鳥雷切』を振るいアークエンジェル二体の攻撃を受け止めつつ、エリクサーをディックに投げつける。


 その間俺は前に飛び出し、ハスターの指輪を使い武器を『神珠の杖』から『グラムドリング』に瞬時に入れ替える。

 そして『ゲヘナの炎』をグラムドリングに纏わせ権天使(プリンシパリティ)へと駆ける!


 緊迫した瞬間。

 時が止まったようにゆっくりと時間が流れてみえる。

 皆の意識がディックに向かっているこの瞬間、俺は権天使(プリンシパリティ)の隙を突き一気に勝負を掛けに行く――


 だが、ディックの方へ体を向けていた権天使(プリンシパリティ)の目だけが俺の方を向く……

 そして権天使(プリンシパリティ)が『ニヤリ』と笑い杖をそのまま掲げる――


 ―――すると!

 それまで何度か杖から放たれた光線が、今度は無数に全方向へと放たれた!

 権天使(プリンシパリティ)は取って置きの切り札を持っていた。

 一本でも破壊的な威力だった光線が、無数に全方向へと放たれたのだ。


 俺はゆっくりと時間が流れる感覚の中。

 全身に鳥肌が立つ……

 横目に権天使(プリンシパリティ)の光線に巻き込まれた大天使(アークエンジェル)に無数の風穴が開き滅しされてゆく光景が見える。

 その光線が次に俺、ネロ、そしてネロの後ろで膝をつくディックに襲いかかろうとしている。


 この緊迫した時間……

 俺は笑みをこぼしていた。

 この一つ間違えれば命を失う死合いのやり取り。

 俺の中のラフィットの記憶・感情がそのスリルを楽しんでいる。


 権天使(プリンシパリティ)の無数の光線が俺を貫こうとした時――

 広間を埋め尽くす程の無数の精霊珠の盾が顕現しそれを防ぐ!

 俺は刹那の瞬間にマナラインを全開し、ありったけの精霊珠を顕現させていた。

 それを鏡状のステルス状態にしてこっそりと仕掛けて置いていた。

 今その精霊珠を一気に反転させ盾用に展開したのだ。


 俺とディック、ブランに向かう全ての光線を精霊珠の盾が防ぐ。


 全ての光線を防がれ、味方の大天使(アークエンジェル)だけを滅してしまう形になった権天使(プリンシパリティ)は怒りに震え、今はディックに目もむけず俺だけを見ている。

 そして今度は、今も射出され続ける光線を集約し一本の強力な光線にして俺へと向けた。


 権天使(プリンシパリティ)へと走る俺は精霊珠の盾を幾重にも重ねその超破壊力の光線を防ぐ。

 光線は精霊珠の盾一層目二層目三層目と砕くが四層目で少しだけ止まる。

 俺は体半分ほどずらし光線の直撃をいなし、さらに体を沈み込ませ横に移動し半円を描く様に光線の下をくぐり直撃を避ける。

 重複展開された精霊珠の盾は破壊されると同時に最後尾に新しい盾が構築されている。

 権天使(プリンシパリティ)の攻撃なら十分再構築に余裕が有り、直撃したままの最短距離での突撃も有り得ただろうが……

 近づくほど破壊速度も早まる状況で、そのまま突っ込むのはゴリ押し感が否めない。


 俺は光線を大きく避けず、光線に添うように紙一重で避ける事によって最短でプリンシパリティの元へと駆け抜けた。



 間近へ迫った俺を見て権天使(プリンシパリティ)の顔が怒りに歪む。


 そして―――

「異端なる者よ! いくら抗おうとお前達に未来など―――………」


 叫び続けている権天使(プリンシパリティ)を俺は容赦なく一刀のもと斬り捨てた。

 グラムドリングにより両断された権天使(プリンシパリティ)は粉々に砕け散り、呆気なく光の粒子となり消滅した。



「フン! 虫けらは虫けららしく抗わず死ねとでも言いたいのか? 虫けらにだって命は有る。 理不尽な死など受け入れるはずが無いだろう……」





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