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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章14 閑話 ギーズの想い

ギーズ視点になります。

 僕はサンソー村にある普通の道具屋の息子ギーズ。

 能力(スキル)は青魔法…… 鑑定の儀では魔法使いと鑑定され喜んだ。

 でも…… 青魔法って難しくない?


 魔物の攻撃を受けてそれを覚えて(ラーニング)、使えるようにする。

 攻撃一回受けないとダメだし、受けたら死んじゃうかもしれない。

 魔物の特技をコピーするって魔法なの?

 などなど不満はいっぱいある………


 だけど青魔法は結構レア能力(スキル)、黒と白魔法は魔法使いの中では結構メジャーだ。

 だから普通の冒険パーティーは戦士 タンク 黒魔法 白魔法 シーフが基本。

 ちなみにディケムの精霊魔法は青魔法よりレアだ。

 しかも精霊との契約がかなりリスクあり使いこなすのは難しい。


 そんな精霊魔法をディケムは使いこなし英雄とまで言われている。

 せっかく僕もレアな青魔術師の才能を得たのだから、腐らないで頑張らないといけない。


 魔力の使い方はウンディーネ様に叩き込まれた。

 今から僕に必要なのは、やっぱり魔物からラーニングした技の数々だろう。


「ウンディーネ様!」

「なんじゃ?」

「ウンディーネ様の魔法を、僕が受けてラーニングは出来るのでしょうか?」

「出来るわけがあるまい…… 妾は精霊じゃ 魔物と一緒にするでないわ――!!!」

「すみませんでした」


 ウンディーネ様から ガスッ ガスッ 蹴られた…… 痛い。


 やっぱり町の外に出てラーニングだな……

 サンソー村に居るときに皆に手伝ってもらい『麻痺』と『毒』、あと『咆哮』は覚えることが出来た。

 これらは魔物から技を受けたあと動けなくなるから、一人で覚えに行くのは非常に難しいから助かった。


「いま覚えているこの三種類は強力だけど補助的魔法だよな~ やっぱりシンプルな攻撃魔法ほしいよな~ ディックの火炎球(ファイア・ボール)威力あっていいよな~ あれ……」


 などとブツブツ言いながら町を出て森を行く。


 僕も黒魔法の火炎球(ファイア・ボール)は覚えている……

 でも能力(スキル)が青魔法だから威力が全然無い。

 やはり青魔法師は魔物の技を使うしかないのだ。


 目的の魔物は【ファイア・ウルフ】!

 こいつの吐く炎の息を受ければ『火炎の吐息(ファイア・ブレス)』を覚えられるはず。



 屋敷を出る前に騎士団の方々にファイア・ウルフがいる場所を聞いておいた。

 この季節ファイア・ウルフは繁殖のためコロニーを形成して、人里近くまで下りてくる。

 王都では行商人に被害が出る事が多いため、自警団と騎士団が協力してある程度の数を減らするらしい。

 だからファイア・ウルフの肉は、この時期の風物詩なのだそうだ。


 今回は僕は一人で『火炎の吐息(ファイア・ブレス)』のラーニングに挑まなければならない。

 だから入念に準備をした。

 ダメージで動けなくならないように回復ポーションは多めに準備した。

 回復ポーションは買うと高いけど……… ディケムが『どんどん使え』と作ってくれた物だ。


 ディケムがこの前屋敷の一角に畑を作っていた。

 『野菜でも作るの?』と聞いたら後ろからウンディーネ様に蹴られた。

 痛い…… ヒドイ……


「薬草を育てるんだよ、ここはマナが豊富だから薬草がすぐ育つ! さらに…… この畑に魔法陣を組み込み…… 今回も畑の四隅に精霊結晶を置いて…… これで出来上がり――!」


「なんで、魔法陣と精霊結晶置いたの?」


「まぁ見てなって! 普通に放置しててもこの敷地内はマナが多くてすぐに薬草育つけど、さらにこうやって工夫すれば…… えいっ!」


 ディケムが設置した精霊結晶に手をかざしマナを流し込む―― すると魔法陣が光りだす。


「ッ――! な、なんだこれ?」


 刈り取った薬草がみるみる育ち、すぐに刈り取り出来る大きさまで育った!


「ポーションの研究をしたいんだ。 自然に育つの待ってたら効率悪いから、欲しいときはこうやって強制的に育てます。 フフッ――ン 凄くない?」


「ウンウン。 凄い!」


 ディケムはメイド達を数人集め薬草を刈り取ってもらい……

 また育てて……と刈り取を三回くらい行い『今回はこれで十分だな』と言い、これからも畑の薬草が育ってきたら、刈り取って畑の横の調合小屋に運ぶように指示していた。

 メイド達はその様子に目を見張っていたが、ディケムの非常識さに少し慣れてきたみたいだ。


 いつの間にあんな調合小屋を………


「ギーズ! 調合小屋に各種のポーションを作ってあるから自由に使ってくれ」


「えっ! いいの?  ポーションって買うと結構高額だよ」


「いや、お金よりパーティーメンバーの命だろ? それに今見てもらったように元手は無料(ただ)だから」


「う、うん……そうかありがとう。 ありがたく使わせてもらうよ」


「ギーズ。 お前は遠慮しがちな性格だ。 それなのにお前の能力は強化するのに負傷前提だ。 だから絶対遠慮するなよ! 俺たちパーティーは皆対等だから命令できないけど、本当は命令してでも持たせたいんだ!」


「ありがとうディケム。 でもこのパーティーはお前がリーダーだよ、みなそう思ってる。 冒険者はそんな甘くない、必要な時は遠慮せず命令してくれ! では……このポーションは遠慮無く使わせてもらうよ」


「ありがとう。 ちなみにこのマナをいっぱい吸った薬草で作ったポーションは凄い効き目だから試してくれ。 そして感想を聞かせてくれると嬉しい。 もっと色々改良して効果を上げようと思うんだ。」


「分かった、必ず報告するよ」




 僕は万全の準備を整え王都近郊の狩猟場へ急ぐ。

 この狩猟場の森の奥に崖があり、その崖に大きな洞窟がある。

 おれは洞窟前で()()()ファイア・ウルフを見つけた。


 ファイア・ウルフは通常この時期、繁殖のためコロニーを形成して群れで行動している。

 だがまれに繁殖期に若いオスが独立して単独行動するときがある。

 僕はそれを探していた。


 僕はそのファイア・ウルフと対峙し戦う。

 期待通り五度ほど火炎の吐息(ファイア・ブレス)を浴びる事が出来たが…… まだラーニング出来ていない。


 ⦅くそっ! ポーションが尽きる⦆


 今回持ってきたポーションは五本。

 火炎の吐息(ファイア・ブレス)を浴びるごとに、一本飲んでしまった。

 最後の一本になったとき、焦った僕はポーションを半分飲んで半分残した。

 それでも全回復出来た!


「ちくしょ……半分でも大丈夫だったのか! これなら一〇回はブレス受けられたのに」


 そう言えばディケムがこのポーション凄い効き目があるって言ってたな。

 悔やんでも仕方がない、今は戦闘に集中だ!

 今この機会を逃したら今年はもうはぐれファイア・ウルフに出合えないかもしれない。


 それに……もし一〇回回復できたとしても……

 一〇回も火炎の吐息(ファイア・ブレス)を食らいたくない!

 回復できたとしても死ぬほど痛い! 痛いものは痛いんだ。

 

「も〜ッ 青魔法って何なんだよっ! こんなマゾプレイ嫌だよ―――!」


 これで最後と火炎の吐息(ファイア・ブレス)に自分から突っ込む。

 だがこれは判断ミスだった。

 僕はポーションを使い切り回復手段を失ってしまう事になる。

 冷静になれば普段の自分はこんな危険な賭けはしない。

 だけど僕はこの時はぐれファイア・ウルフというレアを前に、逃したくなくて焦っていたんだ。


 ブレスを受けラーニングに成功した事が感覚で分かる。


 ⦅やったっ! やっと覚えられた⦆


 僕はやっとの思い出ラーニング出来た嬉しさで、その場の状況を冷静に判断出来ていなかった。

 僕はすぐにポーションを飲み干しダメージを回復し、ラーニングしたばかりの『火炎の吐息(ファイア・ブレス)』でファイア・ウルフを焼き払う――!


 はずだった……


 考えれば当たり前じゃないか、ファイア・ウルフは炎に強い。

 自分が吐く炎が弱点のはずがない。

 多少のダメージを与えられたが決め手にはならない。

 さらにもう回復手段が無い事が僕をさらに焦らせた。


 ファイア・ウルフとの死闘は一時間程にも及んだ。

 それは命を懸けたぎりぎりの戦い、訓練と考えればとても濃密な時間だった。

 でもそれは生き残れた場合の話。

 僕はかろうじて勝つ事が出来たけど…… 瀕死の状態だった。

 体は全身大火傷…… 牙と爪で受けた深い傷もある。

 もう動ける状態じゃなかった。


⦅ラーニング出来ても、死んじゃったら意味無いよな……⦆ 


 この時僕は死を身近に感じていた。

 ヤバイ、意識が遠のいていく………………………





『あっ……お父様っ! あそこに人が倒れています』

『どこだ? これはひどい! マディラ、おまえ教会でミドルヒールを習っていたな』

『で、ですが…… まだミドルヒールは自信が無いのです」

『バカっ! いいから早く使え、彼が死んでしまうっ! 魔法を今使わなくていつ使うのだ』



 僕は………

 薄れゆく意識の中、()()()()という()()の少女が一生懸命ミドルヒールを僕にかけてくれている姿を見た。



 そして次に僕が意識を取り戻したのは教会の医療ベッドの上だった。


「あ、あの…… 僕は?」

「あぁ……意識が戻ったのね、本当によかった。 あなたは北の崖の洞窟前で大やけどを負って倒れていたそうよ」


「この時期、貴族連盟の皆様が行きかう商人の安全のために、危険なはぐれウルフなどの魔物を討伐に行くの。 そこで異常に大きなファイア・ウルフの死体と、そこに倒れているあなたを発見したそうよ」


「どなたが助けてくれたかわかりますか?」

「いいえ…… 魔物狩りは大人数で行うから誰って事は分からないわ」


「まぁ、あなたみたいな子供は、そのような事を気にしないで、もう少しゆっくり休みなさい」


 貴族の誰かが助けてくれたのか……

 たぶん、ディケムの所にはそのような依頼は無かったから、ウルフ狩りは下級貴族の仕事なのかもしれない。


 ⦅たしか…… マディラって言ってたよな⦆


 ミドルヒールのおかげで傷は全回復していた僕は、少し休んでソーテルヌ邸に帰ることが出来た。


「ただいま~」

「ギーズ遅かったじゃないか、少し心配したぞ」


 ⦅うっ! 死にかけたなんて……とても言えない⦆

 ⦅あぁ……… ウンディーネ様がにらんでる…… 精霊様には言わなくてもわかってしまうのかな…… 怖い⦆


「ディ、ディケム…… ポーション使ってみたよ。 ファイア・ウルフの火炎の吐息(ファイア・ブレス)のダメージ程度ならポーション半分ぐらいで回復できたよ」


「おっ! と言うことは?」


火炎の吐息(ファイア・ブレス)覚えたよ」


「おぉおおおお――――!!! おめでと〜やったじゃないかギーズ」


 僕が照れていると…… 聞き捨てならない言葉が聞こえてくる。


「そうか…… ポーションは半分で回復か…… 火炎の吐息(ファイア・ブレス)のダメージなら四分の一くらいで行けると思ってたんだけど………」


 ⦅なっ! 四分の一って……今回持って行った回復薬は五本⦆

 ⦅と言う事は二〇回分も回復できたのか? 十分安全マージン有ったんじゃないか!⦆


「あ……ディ、ディケム。 半分で全回復しただけだから、四分の一は試して無い。 あとはぐれファイア・ウルフだったから個体も強かったと思う」


「そうか…… まぁ良い。 ギーズが無事に帰って来てくれたのだから。 続けて検証を頼むよ」




 それから数日後。

 すっかり傷も回復した僕は、ラーニングした火炎の吐息(ファイア・ブレス)の練習を始めていた。


 今日はララが新しく出来た友達を連れてくると言っていた。

 僕とディックはディケムが作った、なんか凄い事になっている特別訓練場で訓練していると……


「みんな~。  昨日話したお友達連れてきたよ~」

 ララが友達三人連れてきた。


「ソーテルヌ伯爵様、今日は訪問許可を頂きありがとうございます。 わたくしはボアル准男爵の娘()()()()と申します」


 ⦅えっ! マディラ?⦆


 僕は聞こえて来たララの友達の名前に驚き。

 『マディラ』と名乗った少女を見ると…… そこには赤毛の少女が立っていた。

 


 ララと回復系の魔法を『ミドルヒール』を勉強中。

 下級貴族の娘で赤毛。

 そして名が『マディラ』。



 ま……間違いない、この子だっ!

 あの時瀕死の僕を助けてくれたのは。


 マディラはとても利発でとてもきれいな娘だった。

 僕は一目で釘付けになってしまった。

 しかし彼女は貴族の娘、僕とは身分が違い過ぎる。


 マディラはずっとディケムを目で追っている。

 僕の事は覚えていないようだった………


 でもそれでいい……

 僕はマディラにもらった()()()を、いつかマディラの為に使うと決めた。


お立ち寄り頂きありがとうございます。


今回は幼馴染のギーズのお話です。

物語を彩る彼らのお話も楽しんで頂けたら幸いです。



初めて書く小説ですので、忌憚ないご意見をお聞かせいただければ幸いです



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