第一章4 マナ操作
今日は父の仕事が休みだ。
今日の俺の予定は朝食前に訓練をし、朝食後は午前中に本屋に行き、午後は幼なじみ達と森に遊びに行く約束をしている。
いつも通り朝食前に鍛錬をするため、朝早く起きて森の練習場まで走り込み、そしてマナと魔法の練習をする。
最近は、魔法は水魔法を使うことにしている。威力を最小限まで調節した水魔法は、炎魔法と違い失敗しても被害が少ないからだ。
あと見た目がキレイって事もあるし、飲み水や、手を洗ったり、掃除に使ったりと、とても実用的な魔法なのだ。
訓練に使う水魔法は、攻撃魔法のウォーターではなく、マナを意識して手のひらの上に水の玉を作り出し操作する。
俺はいつも通り右手を前に出し、手のひらを空に向ける。イメージが大切だ!
そして手の上にマナを集めて、水の玉のイメージを膨らましていく。
手の上に集めたマナが水にどんどん変換されていく――
少しずつ、少しずつ、小さく、小さくとイメージするが………。
しかし水の玉はすぐに大きくなって、五mほどの玉になってしまった。
これをコントロールしてコップ一杯の水の玉まで抑え込み、家の中でも、どこに行っても練習できるようにしたい。
今はまだ、たまにしか成功しないからこのままでは家の中が大洪水になってしまう。
マナのコントロールとイメージが大切だ!
しばらく練習していると、なんとか手のひらサイズの水の玉を作り出すことに成功した。常日頃のマナの訓練成果が徐々に発揮されてきたのだ!
小さな水球を作ることに成功したら今度はこの水球を手のひらではなく、自分の体の近くで浮いているように移動させたい。
マナの集中を手のひらから、右肩へ移動させていく。
マナの移動はいつも練習しているが、そこに水という物質が加わってくるとそう簡単な話ではなくなってくる。
手の平から肘へ移動したところで水球はコントロールを失い、腕を水浸しにして地面に落下した。
これを何度も何度も繰り返し、全身ずぶ濡れになる頃にやっと肩までの移動に成功した。
とりあえずの目標は常日頃から意識せずとも、体の回りに小さな水球が回っている状態を作り出すことだ!
それくらい自然にマナの移動をスムーズにしていきたい。
――だが今は、肩の上に水球を固定して歩き出すだけでマナへの集中がぶれて、水球が落下してしまう。
これはもう、地道な訓練しかないな。
今日は晴天なのにずぶ濡れで家に帰ると………
母に叱られ、弟はキャッキャと喜び、父には大笑いされた。
でも、俺の肩の上に浮いている水球を見たとき、両親は目を見張っていた。
宙に浮く水球はとても美しく、光の加減でその表情を変える幻想的な水の玉だ。
俺の両親はとにかく子供のやりたいことを否定しない、そんな良い親だ。
今まで彼らに魔法の事は一切話したことが無かったが、俺が陰で一生懸命に何かを練習していることには薄々気づいていたらしい。
だからこの水球を見た瞬間は驚いていたが、すぐに受け止めてくれた。
俺はこの水球を家の中でも作っておきたいと両親にお願いした。
しかし何事にも寛容な母さんでも、さすがに家の中で魔法を使う事には難色を示した。
だが、ここで諦めているようではマナの扱いなど到底上手くはならない。
根気よくお願いを続ける俺を見て、父さんが母さんの説得に協力してくれた。
結局、水球の維持に失敗して濡らしてしまった場合は、必ず自分で始末することを条件に母は了承してくれた。
俺の肩に水球が浮かんでいる。
そんな異様な光景の中で俺たちは朝食をとった。
いつもは賑やかな食卓も、当然だが皆の意識は水球へと集まってしまう。
いつ落ちるのかと心配しすぎてまったく食事に集中できず、せっかく母さんが作ってくれた豆のスープも大して味を感じることなくのどを通り過ぎてしまった。
唯一、一歳のダルシュだけは美しい水球に手を伸ばしてキャッキャとはしゃいでいた。
今日は午前中の父の手伝いが無いので、朝食後にいつもは午後に行く本屋に向かう。
通いなれた村の中心道路を歩くが、今日は肩の上に水球を浮かべている。
すれ違う村人たちは皆、驚いて俺の肩を二度見して見ている‥‥‥
だが気にしてはいけない。集中を切らせば水球はコントロールを失う。
たとえ誰かに変人と思われようと、この訓練はきっと俺にとって、とても大切なことだと確信している。
だが………。
「馬鹿者! 本が濡れてしまったらどうする!」
本屋のオーゾンヌに怒られた。
さすがに本屋の中で水球はダメか!
本が売れたところを殆ど見たことないが………
俺も本はなによりも大事だ。本屋での水球は無しとしよう。
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