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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章33 四大元素 土の上位精霊ノーム

 

 一通り陳列してある装備品を見たが、残念だが実用に足る完成度の装備品は無かった。

 まだ箱の中とかにも装備品が入っているようだが、今はブルーノを探す方が先だろう。


 俺は装備品を見るのを止め、暖炉を覗き込み火の消えている灰を調べる。

 すると先ほどまでまだ火がくすぶっていたのか、まだ少しだけ熱を持っていた。


「火を消して一時間程度って所かな」

「ならブルーノはもうそう遠くじゃ無さそうだな」

「あぁ急ごう!」



 俺達がブルーノを追う為家を後にしようとした時―――!

 俺は今まで味わった事のない感覚に襲われる。


 俺達の居る家が、いや坑道そのものがひっくり返った様な感覚。


「何だこれは!!?」

「あぁ俺も感じた…… 坑道が何か別のモノに入れ替わった気がする」


 俺達はすぐさま家を飛び出し、警戒しながら坑道を見回す。

 しかし一見しても坑道に何か変わった所は見当たらない……


 だが次の瞬間!

 俺達の後ろの岩壁が爆ぜ、後ろからワームが襲いかかって来る――


 その刹那(せつな)、ディックは即反応して一刀のもと剣でワームを斬り捨てた。

 炎の魔法剣で両断されたワームは同時に燃え消滅した。

 初級程度の弱小モンスターだ。 ……だが?


「これはどう言う事だ?」

「あぁ、浅場の採掘中に冬眠中の魔物に出くわした話は聞いた事有るが…… これだけ深く掘り進んだ坑道に魔物が飛び出してくるとか聞いた事が無い」

「ここまで通ってきた坑道に魔物なんて出なかったしな……」


 やはりさっきの坑道が何か別のモノに入れ替わった感覚……

 あの時何かが起きたと考えた方が妥当だろう。



 するとまた突然――!

 今度は坑道広間の中心にマナが集まり輝きだす。


 ⦅このマナの感じは……⦆


 そして光の中から ポンッ! っといった感じで小人の少女が飛び出てくる……


 ⦅はぁ!? 少女?⦆


 その小人少女は赤茶のトンガリ帽をかぶった、一見すると小人族の様にも見えるが……

 そのマナの量はウンディーネ達上位精霊に匹敵している。


 たぶん彼女が四大元素、土の上位精霊ノームだと思うのだが……

 俺の本で読んだ勝手なイメージではノームと言えばトンガリ帽をかぶった爺さんだと思っていた。


「あ…あの―― 土の精霊ノーム様ですか?」

「……そうじゃ」


 ⦅なんか…… キャラもウンディーネっぽい⦆


「なんじゃ…… その顔は『爺さんじゃ無いのかよ!?』って顔だのぉ~」


 ⦅うっ…… 心を見透かす所もウンディーネっぽい⦆


「言っておくが、基本我々精霊に年齢も性別も関係ない。 お前ら二人に我が少女に見えると言う事は…… お前ら二人の好みがそうだと言う事じゃろ」


「なっ!?」 「!?」


 ディックと俺は顔を見合い苦笑いする。

 ディックも俺と同じ初恋はララだ。

 なんとなく理想をララに重ねて思い描くのは否めない……


「まぁそんな事はどうでも良い。 (じじい)の姿が良いのならそう変えて――……」

「……――い、いやそのままで!!!」 「変わらなくていいです!!!」


「………………」

 心なしかノームに白い目で見られているような気がする。

 俺達二人はまた苦笑しながらも名を名乗り挨拶をした。


「それでノーム様はなぜ今顕現なさったのですか?」

「そ、そうじゃ! 遊んでいる場合ではない!」


 そう言い、ノームは先程の違和感、突然襲いかかってきた魔物について語り出す。


「先程、どこの誰だか知らぬが…… 突然この鉱石坑道をダンジョンに変えた大バカ者が居る!」


「なっ!?」 「!?」


 大バカ者と簡単に言うが、あの一瞬でこの広大な鉱石坑道をダンジョンに変えるにはとんでもないマナ量が必要な筈だ。

 もしそんな存在がここに居るとしたら……

 こんな狭い場所で、この簡易装備で挑みたくない。


「安心するのじゃ。 そ奴はこの坑道をダンジョン化させた後、これから演劇でも楽しむかのような笑みを浮かべ、直ぐに去って行った。 そ奴とこれから戦う事は無い」


 『『ふぅ~』』と俺とディックは少しだけ緊張が解け息を吐いた……


 しかし俺は『演劇でも楽しむかのような笑み』と聞き、頭にはあの楽しむように理不尽を押し付けてくる『アルキーラ・メンデス』の姿を思い浮かべていた。

 遊びでダンジョンを作れる者など普通は居ない。

 ダンジョンとは、最上位竜などの寿命を超越した存在の住家に瘴気が溜まり、さらに悠久の時を経て自然にダンジョン化してしまうか………

 最上位の魔術師がアンデット化し長い年月をかけ作り上げるものだ。


 しかしノームはこの坑道が一瞬でダンジョン化したと言う。

 だとしたら………

 俺に関わった者の中でそんなとんでもない事を可能にする人物。

 ボーヌ王国で中位天使を拘束し、ネフリムを降臨させ、神竜月龍にも干渉したあいつなら………

 推測に過ぎないが、あれだけの力を持っている奴ならばダンジョンをすぐ作る事も出来るのかもしれない。



「ウンディーネの主人ディケムよ。 この坑道の奥に我の敬虔な子が居る。そ奴を助けて坑道から連れ出してほしい。 そ奴は今突然沸いた魔物に囲まれ、坑道の奥で身動きが取れ無くなっている」


 この先で身動き取れなくなっている敬虔なノーム信仰のドワーフとはブルーノの事だろう。

 どちらにしろ俺はブルーノを見つける為にここに来たのだ。

 『分かりました』とノームにブルーノの救出を了承した。


 ………そして試しにダメ元でノームに契約を持ちかけてみた。


「あの…… もしその願いを叶えたら――私と契約して頂けますか!?」


「……それはまだ難しい」


「難しいとは?」


「命を天秤にかける事は良くないが…… いくら敬虔な子とは言え、ドワーフ一人の命でこの土の上位精霊ノームと契約は釣り合わぬ」


 ⦅そりゃそうだよね⦆

 ⦅やっぱりそんな簡単には契約してくれないか……⦆


 基本精霊と契約するには、精霊に自分の命を託しても良いと納得させる為、力を示さなければならない。

 だがノームも上位精霊、俺が九柱もの上位精霊と契約している事は分かっているはずだ。

 格としては俺を納得してくれている筈。

 あとはどうすれば俺に傾倒してくれるかだが……


 ⦅ノームの顔に焦りが見える⦆


 あまり問答している猶予は無いようだ。

 だが俺もここで諦める訳には行かない。

 ここはドワーフ族領と言う他国、しかも今の種族滅亡寸前の現状下では、次の機会がいつ来るかなんて分からない。

 限られたチャンスを生かさなきゃ、後できっと後悔する。


 ⦅このどさくさに紛れて契約に至る『条件』を引き出す!⦆


「では、どうすれば契約して頂けるか教えて頂けますか? それを聞けたら直ぐにブルーノを助けに行きます!」


「!? ……………。」


 ノームが……

『条件をゆっくりと考えたいが、時間が無い!』とオロオロしている。

 ここで条件を提示させ約束させてしまえば、精霊と言う存在はその条件を達成した時約束を不履行できない。


『あ“ぁ”ぁ“ぁ~ どうしよう!? どうしよう……!? どうしよう……!?』

 ……とオロオロするノームが少しカワイイ。

 押し迫った状況を利用する俺は『我ながら鬼畜だな……』と少し後ろめたくなる。


「!? あっ! なら――沢山沢山の敬虔な子、ドワーフの命を救ってくれたら契約してやろう。 それで決まりじゃ!」


「…………へ!?」


 ――ちょっ!?

 『沢山沢山のドワーフの命』って!

 もしかしてこのドワーフ族の亡命移民計画の事をノームは知っているのか!?

 あの難しい計画が成功したらと言っているのか!?

 ……成功出来なかったら契約できないって事?


 しまった……

 脅迫まがいの条件引き出しが裏目に出たかもしれない。

 現状を鑑みると、これからドワーフ族は首都バーデンから脱出する為、鬼神族に消耗戦を仕掛ける。

 下手をすれば全滅する……

 下手をしなくても多くのドワーフが犠牲となるだろう。


 ⦅沢山沢山って…… どれくらいを言っているのだろう……⦆

 ⦅す…数百人じゃダメなのかな……?⦆


 俺が顔を引きつらせて考え込んでいると……

 ≪―――Υπόσχεση(プロミス)(約束)―――≫

 そうノームは呪文を唱え、光り出した指先を俺の胸に押し当てた。


「ッ――えっ!? ちょっ、ちょっと待って! まだ――……」

 俺は条件変更を訴えたかったが……

 無情にもノームの魔法は俺の胸へと溶け込んでいった。


「よし!これで『約束』は完了じゃ。 さぁ早く妾の敬虔な子を助けてくるのじゃ!」


「は…はい………」



『言われた通り条件を提示したぞ!』

『ちゃんと呪文でも縛ったぞ! これで文句は無いじゃろ?』

『――ではな!』

 とノームは笑って消えて行った……




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― 新着の感想 ―
[良い点] ノームとの出会いでディケムは今後どの様な活躍をするのか楽しみにしています! 書籍化目指してお互い頑張りましょう!
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