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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章27 精霊魔法師の卵たち7

 

 イ・シダールはバーデン王都戦場で合流すると約束し、しばらく情報収集の名目を使いハワーマハル第二王子の部隊から別れて行動していた。


 そんな訳で、イ・シダール預かりの捕虜アーロン達もトロルリギエナ砦の戦いからずっとイ・シダールの元でディケム達を見ていた。




「君達も自分の力を誇示したいと躍起になっていないで彼を見習うと言い。 戦場では自分の力は出来るだけ隠しなさい、力を見せつければ敵に狙われ対策も立てられてしまう。 戦いとは生死をかけた一回限りの勝負である事が多い、出来るだけ敵の知らない手札を多く持っている方が生き残る確率も上がるのです。 それが例え……味方の犠牲があったとしても」


 イ・シダールはこの状況下でも何故か驚くほど学校の先生だった。

 朝は決まった時間にアーロン達を起こし、食事を一緒に作り一緒に食べる。

 そして事ある毎にアーロン達に教えを与え、旅はまるで魔法学校の修学旅行の様だった。


「イ・シダール先生は…… 本当に鬼神族の軍師なのですか? 本当はスパイとして潜り込んでいる私達の味方とかじゃ無いのですか?」


 アンドレアの質問にイ・シダールが笑顔で答える。


「フフ~ なかなか面白い考えですね。 ですが残念です。 私は人族の味方では無いです。  …………―――そして鬼神族の味方でもない」


「えっ……?」 「なっ!?」 「ッ――!」 「!!!」


 アンドレア、アーロン、イグナーツ、プリシラの背中に冷たいものが走る。

 何時もの様にひょうひょうとした笑顔を浮かべるイ・シダールだったが、その声は魔力でも込められているかのように、アーロン達に恐怖を与えた。


 イ・シダールは絶対的強者、彼の気まぐれでアーロン達の命は簡単に失われてしまう。

 そう確信したアーロン達はイ・シダールの機嫌を損ねないよう、もうこの話題を口にする事は止めにした。




 アーロン達はイ・シダールの魔法により、離れた場所から毎日ディケム達の様子を見ていた。

 今も大きなシャボンの様に張られた膜にディケム達の姿が映し出されている。

 その魔法が何なのかはアーロン達には分からなかった。

 人族シャンポール王国で使うような通信魔法ならば発信側と受け側に魔術師が必要となる。

 発信側の魔術師が居たとすれば、こんな近くにディケム達が映し出されているのに気づかれないのはおかしい。

 また、ディケムが使うような精霊を使った通信手段ならば、尚更精霊に精通しているディケムに気付かれない無い筈が無い。

 イ・シダールが何気なく使っている魔法はディケムすら知らない、気づくことも出来ない別の形態の何かなのかもしれない。




 今映し出されている映像は、焚火を囲むディケム達とドワーフ族戦士達の語らいだ。

 ドワーフ族は酒を飲み、ディケム達は酒に見せかけた葡萄ジュースを飲んでいる。

 映し出されている映像の近さはまるで、あたかもアーロン達も一緒に宴に参加しているような……

 もしくは虫になってその宴に迷い込んだ錯覚に近いだろう。


 アーロン達は毎日ディケム達の戦いを間近で見て、夜の宴を間近に聞き、ディケム達と一緒に旅をしている感覚になっていた。

 それはまるで絵本の物語を読み、自分達もその物語の旅に参加しているような錯覚。


『ディケム先輩達のあんな顔、初めて見た……』

『ディック先輩もあんなに笑うんだな……』

『ララ先輩とディケム先輩ってあんな感じの付き合いなんだ……』

『へ~ 何気にギーズ先輩ってしっかりしてるのね』


 アーロン達四人にとって、毎日映し出される先輩たちの姿は新鮮だった。

 『アルザスの奇跡』『四門守護者』などと謳われる雲の上の存在と感じていた彼らも、素の姿は自分達と同じ魔法学校の生徒と変わらない。

 勝手に偶像化し先輩達を別物と見ていたのは自分達だったのだと。


 そしてアーロン達は、本当は一度も会った事もないベルハルトやレギーナ、そしてドワーフの騎士達とも友人になった錯覚を抱いていた。

 彼らと毎日酒を飲み、家族や恋人の話を聞き、誰が誰を好いているとか……部隊内の裏話も聞いた。

 毎日の様に酔っぱらうと公然とイチャつくベルハルトとレギーナ。

 それをディケム達と一緒に『見ていられない……』と目を覆いつつも、皆横目で二人をしっかり追っていた。

 そんな陽気なドワーフ族の毎日を見ていたら、アーロン達もいつの間にかドワーフ族を大好きになっていた。




 そんな毎日ディケム達を見ながら旅をしていたアーロン達も、王都バーデン前の戦場までたどり着いていた。


 目の前に広がる圧倒的な鬼神族の布陣。

『こ、これが本当の戦場――……』

 アーロン達は完全にその迫力に呑まれていた。

 もし鬼神族の敵として、あの軍勢の前に立っていたとしたら、自分達など一瞬で殺されていた事を四人は理解する。


「アーロン君、勇気がある事と無謀な事は別物です。 これからあなた達が目にする事が本当の戦争と言うモノです。 戦争とは世に語り継がれているほど格好の良いモノではありません。 あなた達が知る有名な英雄譚も、本当は殆どが悲劇の物語なのです。 ですが人は弱い生き物、悲劇を美化しなければ現実を受け入れる事が出来ないのですよ」


 イ・シダールの言葉に四人は言葉を失う。

 少し前までのアーロン達ならば『そんな筈は無い………』とイ・シダールの言葉も響かなかっただろう。

 しかし今の彼らにはイ・シダールの言葉を素直に聞ける土壌が育っている。


「君たちはディケム君がまだ自分達と一線引いている様に感じているのでしょう? それは本当の戦争の悲惨さをまだ知らない君たちでは、いくら彼と仲良くなったとしても、彼の本当の身内になれる事は無いからです」



 イ・シダールの話が終わるのを見測った様に、戦場の火ぶたが切って落とされる。


 戦況は散々イ・シダールに脅された割にはドワーフ族軍の一方的な展開で進んでいた。

『よかった……』とアーロン達はホッと胸を撫でおろしながらも祈る様に戦場を見ていた。

 籠城戦に徹するドワーフ族軍の戦い方は、アーロン達が今まで習ってきた戦い方の常識とは違っていた。

 そして一騎当千の力を持つ鬼神族の戦い方も、人族の戦いの常識とはかけ離れた別物だった。

 アーロン達は種族戦争の本当の難しさと言うモノを見せつけられていた。


 そして…… 戦いが進むにつれ戦場を俯瞰(ふかん)して見ているアーロン達はその惨さを目の当たりにしていた。

 各所で繰り広げられる凄惨な光景……

 そこには騎士道や正々堂々など、きれい事を言っている場合では無かった。

 鬼神族の圧倒的力で潰されるドワーフ、多勢で踏みつぶされる鬼神族。

 皆、生きる為に死に物狂いで戦い、そして必死に逃げていた。


 アーロンは『戦場で功を上げるんだ!』と意気込んでいた自分が恥ずかしくなっていた。

 そしてこの凄惨な光景こそ、戦場の現実の姿だと思い知らされていた。



 青ざめ言葉を失っていくアーロン達にイ・シダールは声をかける。

「これが本当の戦場です。 実際に戦場に出れば生きる事に必死でこのように冷静に戦場を見る事も出来なくなります。 だからあなた達は今見た事を忘れないでくださいね」


「は、はい先生」 「わかりました」 「はい……」 「…………」



『さて…… そろそろですかね』とアーロン達への教示が終わるとイ・シダールは呟き、先ほどまでの敬虔(けいけん)な教師としての雰囲気が一転し、狂人のそれへと変わる笑みを浮かべた。

 アーロン達は知っている、あの笑みはイ・シダール先生がディケム先輩に試練を与える時に零れる笑み……


 『せ、先生――……』アンドレアが『止めて下さい!』と言葉を発するより前にイ・シダールはパチンと指を鳴らしてしまった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] イ・シダール……彼がもしかするとラスボスの可能性もあり得ますね。要注意としか言えないと感じます。 [一言] こちらも完結目指して頑張ります!お互い頑張りましょう!
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