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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章22 小を捨てて大に就く

 

 トロルリギエナ砦を攻略した俺達は翌日、この巨大な大岩を割る様に続く街道を通って先に進む。


 ここからはレジスタンス部隊からも一〇名ほど選び俺達と行動を共にする事になった。

 その一〇人の中にはレジスタンス部隊を率いていたベルハルトの副官にして妻のレギーナも居る。

 元々はバーデン王国随一の騎士団だったこのレジスタンス部隊は猛者揃い、レギーナ以外にも部隊を預けられる優秀な人材が居るようだ。



 五人の冒険者パーティーの人数から十五人の分隊規模となった俺達の旅は効率化された。

 この分隊規模は程よい少数と言う事も有り意思疎通が取りやすく、また仕事の分担もしやすい。

 この様な隠密に、しかも迅速に旅をするには最も効率的な編成だとも言える。


 魔物との遭遇時でも七~八人の二部隊編成にし、編制ごとにスイッチをする事で無駄な人を作らず、疲弊も抑えられ安定的に戦いをすることが出来る。



 だが……この分隊規模となった事で二つだけ俺達を悩ませた事が有る。

 それは夜な夜な行われるドワーフ達の宴会と、酔ったベルハルトとレギーナのノロケだ。

 確かにいつ死ぬとも分からぬ軍属はその時々を大切にする。

 軍では一日の終わりには疲れをリセットしなければならない事も有り、各々好きな事をする。それはどの種族でも同じらしい。


 だが……だからと言って……

 まだ学生の俺達の前で見せつけるようにイチャツクのは止めて欲しい!

 隠れてやってくれ…… 隠れて!



 そんな些細な悩み?もありつつ、俺達の旅は順調に進んでいた。

 トロルリギエナの大岩の割れ目を抜けると、その先には砂漠とは一転剥き出しの岩肌が削られた荒涼としたキャニオンが広がっていた。

 そしてここで道は二つに分かれている。

 このまま真直ぐ北へ続く道を選べば、北東には鉱山都市ガレドが有ると言う。

 そしてもう一つの道、東へと続く道を選びこの広大なキャニオンを抜けると、ドワーフ族の首都バーデンが有ると言う。俺達の最初の目的地だ。



 トロルリギエナより前の砂漠地帯では、鬼神族との遭遇を避ける為、俺達の旅は街道を外れ隠れながら砂漠を進む行軍だった。

 だがこの先のキャニオン地帯では大岩と渓谷の起伏が激しく、街道を外れて進む事が難しくなってくる。

 必然的にトロルリギエナ砦が有ったような要所となる場所も増え、一本道の街道での鬼神族との遭遇戦が増える事となった。

 だがこの地に詳しいドワーフ族だからこそ、そんな事は織り込み済み。

 レギーナ達一〇名の強者がパーティーに加わったのはその為だろう。



 この日も俺達はキャニオン地帯を続く一本道の街道を警戒しながら歩く。

 道から離れれば、岩山が有り渓谷が有りとても先へ進める環境じゃない。


 しばらく歩いていると、少し開けた場所に出た。

 そこにはキャニオン地帯を蛇行して流れる川があり、その川のほとりに村がある。

 そして……

 その村からは煙が上がっているのが見える、現在大規模な戦闘が行われているようだ。


 トロルリギエナを抜けてから俺達が遭遇した鬼神族は、言わば五人程度の分隊・偵察部隊のようなものだった。

 だからベルハルト達も戦う事を選んできたが……

 村から上がっている煙や音を聞く限り、かなり大きな戦闘が行われているようだった。

 小隊規模の鬼神族軍が居ると思った方が良い。


「ベルハルト…… ドワーフ族の民は『首都バーデン』か『鉱山都市ガレド』に避難させたんじゃないのか?」


『…………』奥歯を噛み締め悔しそうな顔でベルハルトが言う。


「この我らドワーフ族の領土マグリブは、人族とドワーフ族が友好を築いていた神代から、ドワーフ族の故郷であり聖地だった。 人族と決別してからも我々はこの地と共に暮らしてきた。 だから……『この地を捨てることは出来ない!』と命令に従わぬ者は多い。 ここを離れるくらいなら死を選ぶと言う民も多いのだ」


 これは敗戦国では必ず起きる事だ……

 自分や家族の『命』よりも、代々守ってきた『土地』や『財』を選ぶ人々。

 『どうせ死ぬのなら、住み慣れたこの地でご先祖様と共に死にたい……』と。

 この思想は年老いた人々や権力者に多い傾向がある。

 そしてこの思想の犠牲になるのはいつも女・子供などの弱い立場の者達だ。


 その観点からすると、この国の最たる権力者バーデン陛下が人族に民の保護を求めたのは英断だろう。

 土地や領土では無く『民こそ国だ!』と、民を守る事を優先したのだから。

 例え人族領で不遇な待遇が待っていようとも、命を失うよりは良いと決断したのだ。




 今、目の前の村では鬼神族による村人の一方的な搾取虐殺が行われている。

 しかし我々は十五人程度のパーティー。

 そして様子を窺う限り鬼神族の部隊は三十人程の兵士がいる様に見える。

 俺達がトロルリギエナ砦で見た戦闘では、鬼神族一人の強さはゴーレム一体と三人のドワーフ兵に匹敵していた。

 勿論あの時と今では戦う環境も兵士の質も違うだろう。

 あの時の鬼神族は砦内に敵兵が雪崩込み、死を目前に死に物狂いで戦っていた。

 しかしこの村には逃げ道がいくらでも有る。

 鬼神族もあれほど鬼気迫る戦いは出来ないだろう。


 だが…… それを見越したとしても鬼神族は強い。

 その上数でも負けている現状で、正面から戦えばベルハルトの部隊に勝てる見込みは無いだろう。

 しかしそれはベルハルトの部隊だけで戦った場合だ。

 俺と四門守護者の精霊使い三人が戦いに加われば、この戦いは容易に勝てる。


 俺はベルハルトの顔を見る、この部隊のリーダーは彼だ。

 しかしやはりベルハルトは首を横に振った。

 その顔は口惜しそうに歪んでいる……

 彼が部隊に下した命令は『戦闘が終わり鬼神族の部隊が居なくなるまで隠れて待て』と言う事だった。


 ここまで聞こえてくる悲鳴や助けを求める声に……

 部隊全員が顔を歪め、歯を食い縛り我慢する。

 俺達も耳を塞ぎ目伏せる。

 とても平静では見ていられない……



 そんな隠れている俺達の前に―――

『お母さん! お母さん!』と泣き叫ぶ子供が逃げ出してくる。

 だが、その子供を見つけた鬼神が『口に笑みを浮かべ』襲いかかって来る!


 飛び出そうとする俺達をベルハルトが『堪えろ!』と手で押さえる。


 ⦅クッ……! 俺は――全力で戦えば、あの子供を助けられる!⦆


 だが『ここで事を荒立てれば今後の作戦に支障をきたす可能性がある!』とベルハルトはさらに強く俺を押さえつける。

 『今後大勢の命を助ける為に、今は目の前の小さな命を見捨てなければならない!』と……。


「お母さん! 何処にいるの? お母さん! 怖いよ……助けてよ―――」


 逃げながら泣く子供の声が響く……

 俺は拳を握りしめ目をつぶり自分の体にグッと力を込め耐える。


「キャ――!!! お母さん!お母さん!お母さ―――ん!」


 すると……

 と俺を押さえつけていたベルハルトの力がフッ無くなる。

 俺が『えっ?』と目を上げると!


『あ”ぁあああ―――!!!!』

 ――と叫びながらベルハルトが岩陰から飛び出し、その子供の元へ走り込み、子供を抱え鬼神に背を向け守ろうとした。


 突然のベルハルトの登場に、鬼神は驚き咄嗟に狙いを子供からベルハルトに変え、その背中に斬りかかった!


 『ダメだ―――斬られる!!!』 ……と俺達が思った瞬間!

 鬼神はレギーナによって斬り殺されていた。




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