第八章20 精霊魔法師の卵たち5
少し時間が戻ります。
アーロン達精霊魔法師の卵四人達は、ボーヌ王国の兵士に頼んでポートブレアへ運ぶ支援物資の大きな積み荷の箱に忍び込んでいた。
そして運が良かったのか悪かったのか……
その積み荷の箱はそのままポートブレアからさらに王都バーデンへ向けて運ばれていた。
しかしアーロン達に悲劇が襲う。
輸送部隊が鬼神族の襲撃を受けたのだ。
『な、なに? なんか外が騒がしくない?』
『外でなんか戦闘になってるみたい……』
『うそ!? やばくない?』
『こ、怖い』
『大丈夫……だろ。 支援物資の積荷だぞ! 護衛兵もしっかりついているし……』
アーロン達はソーテルヌ邸で数か月間騎士団と一緒に訓練して来て、それなりに自信を付けていたが実際は実戦経験もまだ無い素人だ。
戦場と言う理不尽な場では、実戦をどれだけ経験したかで大きな差が生まれる。
彼らは口では一端の事を言っていたが…… 現実に戦場に放り出されれば、自分達の無力を知る。
今、自分達が隠れている積み荷の外で戦闘が始まっている事に気づき、彼らは恐怖で震えていた。
しばらくすると外の戦闘する音は止み、積み荷がまた動き出す。
アーロン達はホッとして、また今までの様に息を殺して静かにしていた。
そして数時間が経過すると積み荷は止まった。
『積み荷止まったみたいね』
『今日はここでキャンプするんだろう』
『ならそろそろあの兵士さんが食事持ってきてくれる頃かしら。私お腹すいちゃったわ』
アーロン達はいつも食事を運んでくれる、積み荷に密航させてくれた兵士を待っていると……
積荷の箱の扉を開ける音が聞こえて来る。
そして扉が開いた時―― そこに立っていた兵士の頭には鬼の角が生えていた!
「き…鬼神族―――!」
「ッ―――!!!」
積み荷の扉を開けた鬼神族も、まさか中から人族が出て来るとも思わず固まっている。
その隙を付き、剣を抜こうとしたアーロンをイグナーツが即座に止める!
「なっ――イグナーツ! なぜ?」
この場の判断はイグナーツが正しかった。
目の前で驚き固まっている鬼神族は、運が良ければアーロンが倒せたかもしれない。
しかしその後ろにはまだ何人もの鬼神族が居る。
イグナーツが即座に武器を捨て、手を上げ投降の意を示めした事で、鬼神族兵はアーロン達を即座に切り捨てる事はしなかった。
そして……アーロン達一行は鬼神族の捕虜として捕まる事となった。
後ろ手に縛られたアーロン達四人は、鬼神族の砦の中を兵士に連れられて歩いていた。
そして大きなテントに入るよう命じられ、中に入ると――
そこには見事な鎧を着た明らかに上位の鬼神が数人机を囲んでいた。
「ダードラー将軍、押収した積み荷を調べていたら中からこいつらが出て来ました」
兵士の報告を聞き、上位鬼神の一人がアーロン達を見る。
「ほぉ 人族ではないか……しかもまだ学生か? なぜ鬼神族とドワーフ族の戦場に人族が居るのだ?」
『…………』 『…………』 『…………』 『…………』
ダードラー将軍と呼ばれた上位鬼神の質問にアーロン達は口を開かない。
即座に斬首される可能性は有るが、流石に彼らにも意地がある。
命令違反で密入国し、捕虜となり、あまつさえ情報までベラベラ喋ったのではシャンポール貴族の名折れだ。
すると別の上位鬼神がさらにもう一人の上位鬼神に口を開く。
「ハワーマハル殿下、この様な人族の子供どうでも良い。どうせ大した情報も持っていないだろ。 直ぐ殺してしまわれるが良い」
すると『バラバック殿、少し待たれよ』……と
ハワーマハル殿下と呼ばれた上位鬼神の側に居た、黒いフードを目深に被った別の人物が口を開いた。
その黒いフードの人物だけは鬼神族では無いように思える。
「ここに人族の学生が居ると言う事は、ドワーフ族に人族が付いたと言う事です。 この排水の陣で臨んだドワーフ族国進行は鬼神族も多大な犠牲を払っています。 ここで強国となった人族と正面から事を構えれば……簡単に漁夫の利を取られ流石の鬼神族も危ないでしょう。 その学生らを殺すのは得策では御座いません」
「な…ならどうするのだ? 軍師殿」
「表立っての人族からの布告も無いですから……たぶん勝てぬと判断したドワーフ族が人族に保護でも求めたのでしょう。 人族もコソコソ動いている事を見れば、引き受けたが鬼神族と正面から戦争をするつもりは無い。……と言ったところでしょか。 我々もドワーフ族の地を手に入れられればそれで良い。 欲しかった捕虜も十分確保出来た事ですし、ドワーフ族を亡ぼす事が目的では有りません。 これ以上欲を出せば足元をすくわれますよ」
「………だからどうするのだ!? もっと具体的に話せ!」
「人族は放って置いて、ドワーフ族と今まで通り戦えば宜しいのです。 多少人族との戦闘は有るかもしれませんが深追いせず、ドワーフ族がこの地から去ってくれれば我はそれで良いのですから」
「だが軍師殿、ならこの子供達はどうする? 殺さぬのは良いが人族と事を構えないのならドワーフ族の捕虜の様に本国に送る訳にもいくまい。 だからといって今解き放てば敵に情報を与える事にもなる」
「ハワーマハル殿下、その子供達は私が預かりましょう。 そして機を見て解放致します」
「良いのか軍師殿? その様な面倒事」
「私から見ればこの面倒な子達も駒の一つになりますから」
「フン。 勝手にするがいい」
鬼神族に軍師殿と呼ばれる黒フードの男が、アーロン達に『制約の魔法』をかける。
「君たちは素直に『制約』を受け入れなさい。 安心しなさい解放するまで逃げ出さないように制限をかけるだけだ。 君たちがバカな事を考え死なれても困るのだよ。 どうせ君たちは『人族の英雄』の命令に背いてバカな行動を取ったのだろうからな」
『ぐっ……』 『…………』 『…………』 『…………』
『制約』を掛けられたアーロン達の縄が解かれる。
「これからは自由に動いて良いが、私の側からは決して離れるな、そして良からぬ事は頭に思い浮かべるな。 もし戒めを違えればお前達の自我は無くなると思え。 どこまで私から離れても大丈夫かは、『制約』を受けたお前達の体が分かるはずだ」
縄が解かれた瞬間イグナーツが『逃げ出そう』と頭に思い浮かべた。
そのとたん――耐えがたい頭痛がイグナーツを襲う。
頭を抱えもがき苦しむイグナーツの姿を見てアーロン達は、今はおとなしく黒フードの男の言う事を聞く事にした。




