表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
481/553

第八章17 ドワーフ族領 潜入

 

 マリアーネ王女からグラムドリングを受け取った俺は出立の準備に戻る。


 俺を含めララ、ディック、ギーズの装備は、基本俺が作った九属性のミスリル軽鎧にドワーフ族が作った布服を組み合わせた格好だ。

 俺はさらに背中にグラムドリングを背負う。

 腰に佩剣(はいけん)(腰に剣を下げる)するよりも背中に背負ったのは、粗野で格式張らず冒険者っぽく見えそうだからだ。


 ちなみに俺達の軽鎧を見たベルハルト将軍が興味を示していたが、今は時間が無いと軽くあしらっておいた。



「ベルハルト将軍――……」

「ベルハルトで良い! これから長い旅を共にするのだ」

「ではベルハルト、俺の事もディケムでお願いします。 卿などと呼んでいては敵にバレてしまいますので」

「分かった。 これからはお互い敬称無く冒険者仲間として行動するとしよう」

「はい」


 これからの段取りをベルハルトと打ち合わせていると、幾つかの支援物資の箱が騎士団に守られて町から運ばれていくのが見えた。


「あぁアレか。 アレは人族から頂いた支援物資や我々が確保した物資をいくつかの部隊に分けて王都バーデンへ送っているんだ。 鬼神族によって壊滅的な侵略を受けている我々は、難民を王都バーデンに避難させているが…… 既に王都の食料や薬などが危機的状況なんだ」


 いくつかの部隊に分けているのは襲われる事が前提、あの中の幾つかの部隊がたどり着ければいいと言う事なのだろう。

 折角の支援物資を奪われる事を前提で送り出すのは、それほど王都バーデンが危機的状況だと言う事だ。


 俺達はその支援物資運搬の部隊とは別に行動する。

 物資運搬部隊は目立つ上に荷が重いため足が遅い。

 狙われる可能性も高いので、一日でも早く首都バーデンへ入りたい俺達は、身軽な格好で別行動と言う事らしい。



 首都バーデンはドワーフ領の東に位置し、南の玄関口ポートブレアからは北に広がる砂漠地帯を抜け、東に広がる剥き出しの地表が削られた荒涼としたキャニオンを抜けた先に有ると言う。

 街道は整備されているらしいのだが、鬼神族の侵略により要所で閉鎖されている可能性が高い。

 難民を引き連れ避難する時にはこの街道を確保しなければならないのだが……

 まず俺達が首都バーデンに入るまでの道のりでは、極力街道を避け出来るだけ戦闘を回避する計画らしい。




 出立の準備が整った俺達の所にマリアーネ王女が来て、ドワーフ族が信仰する『地の精霊ノーム』へ祈を捧げ祝福してくれた。


 ノームが酒好きだからノームを信仰するドワーフ族も酒好きになったと聞いた事がある。

 俺はオネイロスの空間魔法を使い一本のワインボトルを取り出す。

 このワインはマナに満たされた神木の領域で、ドライアドの加護をふんだんに与えられ育ったブドウから作った物だ。

 その味には自信がある。

 麦から作られたエールも有るが…… 酒場では女性のドワーフ族の多くがワインを好んでいた。


『ドワーフ族に、地の精霊ノームのご加護が有らんことを!』

 俺はそう言い、ワインボトルをマリアーネ王女に手渡した。

 ノームと一緒にワインでも飲んでドワーフ族の安寧を祈っていて欲しいと言うつもりだったのだが……

 ワインボトルを見たマリアーネ王女は、既に他の事など目に入らない様子だった。





 ベルハルト、俺、ララ、ディック、ギーズ。

 この五人のパーティーでドワーフ族領に旅立つ。


 少し拗ねたラトゥールとワインボトルを抱えたマリアーネ王女に見送られ、俺達は城塞港湾都市ポートブレアの北門を出、ドワーフ族領に足を踏み入れた。


 ポートブレアを挟んで南側、人族領側は草原が広がり緑豊かな土地だった。

 しかし北側は一面の砂漠地帯。

 壁一枚挟んでこの違いは、明らかに精霊か何かの力を感じさせられる。

 『土』属性は『水』に強く『風』と『木』に弱い事が原因なのか……?

 不毛な土地に見えるが、案外ドワーフ族にはこの方が住みやすいかもしれない。


 俺達は延々と続く砂漠地帯を歩く。

 砂漠の真ん中には整備された大きな街道が有るが、いつ鬼神族の奇襲を受けるかもしれないと言う事で、俺達は街道から離れ、砂丘に身を隠しながら進んだ。


「ちょっとこれ…… 足を取られて歩くの大変ね」

「ララ気を付けないと、ここはたまに流砂も発生する。 流砂に嵌ればもう抜け出す事は出来ないぞ」


 ララのボヤキにベルハルトが答える。

 その言葉に『ひぃっ!』と引きつるララの顔を見て、またベルハルトが笑う。


「大丈夫、ここは我々ドワーフ族の地。砂を読む事など息をするように容易だ」


 そう。ここは正にドワーフ族の土俵。

 この砂漠地帯でドワーフと戦えば、俺だって苦戦は免れない。

 それなのに何故ドワーフ族は鬼神族に負けたのか?


 確かに俺の記憶の中の鬼神族も強かった。

 しかしドワーフ族を二年で滅亡へ追い込めるほど……とも思えない。


 その日は丸一日、砂漠を進む事で終わった。

 魔物と出くわす事も鬼神族に襲われる事も無かったが……

 ただ東西南北見渡す限り続く砂丘に、ベルハルト以外はどれ程歩いたのか、方向も正しいのかも分からない恐怖が有った。


 恐怖に駆られ、シルフィードの『フライ』やワイバーンを使い一気に飛ぼうか?

 とか少し思ったが……

 他種族戦争の真っただ中で異種族の人族が目立たない方が良いだろう。

 それこそ目立たぬよう行動している意味が無い。


 ⦅まぁ、遅かれ早かれ戦闘は避けられそうもないが……⦆

 ⦅こちらから率先して戦闘を仕掛けてはいけない。 あくまで自衛のための戦闘だ⦆


 この砂漠地帯のど真ん中では、普通の人族の冒険者なら水が一切補充出来ない危険を感じただろう。

 だがそこに関して俺達は恵まれていた。

 俺とララ、ウンディーネと契約している精霊使いが二人も居れば水に困る事もない。

 そして野営地にもウンディーネとドライアドを組み合わせ、草を生やして寝心地を良くする事もできた。



 俺達は砂丘の谷間に野営地を設営し、火を灯し、干し肉と水だけの質素な食事を取り。

 翌日に備えて早く寝た。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ