第八章16 宝剣グラムドリング
ポートブレアに来たドワーフ族の使者は二人。
その一人マリアーネ王女はこのままポートブレアに残り今後押し寄せる難民受け入れの為の準備と人族との橋渡しをする事とした。
もちろん言葉は悪いが『人質』としての意味合いもある。
流石にこの優勝劣敗の世で、昨日今日締結したばかりの友好条約で全てを信じられるほど皆お人好しでは無い、それはお互いが分かっている事なのでマリアーネ王女も自らここに一人残ると決めたのだろう。
そして使者のもう一人、ベルハルト・レーンバッハ将軍は我々と行動を共にし、ドワーフ国へと戻る事になる。
ドワーフ族は既に滅亡の淵に立たされている。
鬼神族との戦線は領土深くまで進み、既に小都市は殆ど占領されている様だった。
酷い話だが、既に鬼神族に捕らわれたドワーフ族の兵士も民も諦めるしかない。
我々人族も鬼神族と決定的な戦争の火種は避けなければならない。
現在は生き残った民の殆どは『首都バーデン』と『鉱山都市ガレド』この二大都市に避難させ、壊滅的損害を受けた軍は占領された各都市でゲリラ戦を行い、戦場を点在させる事で辛うじて抵抗しているのだと言う。
我々はその点在するゲリラ部隊に合流しながら『首都バーデン』を目指す事となった。
基本俺達は傭兵としてドワーフ族に交じり行動するが、戦闘は極力避けなければならない。
翌朝。
俺たちがポートブレアを立ちドワーフ族領首都バーデンへ出立する準備をしていると、マリアーネ王女と古びた木箱を携えた従者がやってきた。
『ディケム様』と言い、マリアーネ王女がその古びた木箱の蓋を開けると――
中には見事な一振りの剣が入っていた。
「ディケム様、これはドワーフ族と人族の話し合いが合意に至った証。どうぞお受け取り下さい」
「これは…… アーティファクト武器……ですか!?」
「はい。 【グラムドリング】と云うドワーフ族に伝わる宝剣です。 これをお持ちになり我が父バーデンにお会いください」
ドワーフ族のアーティファクト武器にはいくつか他種族にも伝わる有名なものが有る。
最も有名なのがドワーフ王の証と謳われる【オルクリスト】。
ドワーフ族の王になる者はこの宝剣に認められなければならないと聞く。
そしてもう一つがその『オルクリスト』と対になると云われる剣『グラムドリング』だ。
マリアーネ王女はそのドワーフ族の誇り『グラムドリング』を人族の俺が持つ事に意味が有ると言う。
昨日の会談の場でこの剣を見せなかったのは、交渉が決裂した場合にこのドワーフ族の宝までも奪われないようにする為だろう。
そして今、マリアーネ王女ご自身を含め『グラムドリング』を人族に差し出すと言う事は、改めてドワーフ族が人族に従属する証と言いたいのだろう。
本来ならばこの重要な意味を持つ『グラムドリング』はシャンポール陛下に献上されるべき物だろう。
だが…… たぶんシャンポール陛下ではこの剣に所有者と認められない。
そしてこの剣はこのドワーフ族の撤退戦の最中に使われてこそ意味を成す。
箱に大事にしまわれて宝物庫に送られてしまっては、ドワーフ族が差し出した意味が無い。
だが……だからと言って………
そう簡単に武器自身が主を決めるアーティファクトを持って行けと言われても……
⦅あのマリアーネ王女の笑顔は俺が『グラムドリング』に選ばれる事を信じ切っている顔だ⦆
⦅このまま、箱に入れたまま持っていくなど許してくれないだろうな……⦆
⦅もしかして……この後に及んで俺の力を試そうと言うのか?⦆
いや、マリアーネ王女の目は純粋に俺を信じ切っている目だ。
純粋な信頼ほどたちが悪いものは無い…… プレッシャーだ。
マリアーネ王女の隣に控えるベルハルト将軍を見ると、明らかに王女とは対照的な挑発的な笑みを浮かべている。
あれは『ドワーフ族の宝、人族のお前が手にできるモノならやってみるがいい!!!』と言いたいに違いない。
あの顔はどうせ過去に自分が試してダメだった経緯でも有るのだろう。
非常に面倒臭い状況なのだが……
これから信頼関係を築いて行かなければならない人族とドワーフ族。
そのドワーフ族の代表マリアーネ王女の不安を煽るのも得策ではない。
それに滅多にお目にかかれないアーティファクト武器をくれると言うなら、そんなチャンス逃すのも勿体無い。
『ふぅ~』と俺は息を吐いてグラムドリングの前に立つ。
俺は『グラムドリング』の正当な所有者に相応しくないかもしれない。
アーティファクトとは強さだけでは自分の主を決めないからだ。
だがダメだった場合でも、俺には『マナの大河』と繋がり膨大なマナとマナの記憶を使い強引なやり方でアーティファクトに主と認めさせることが出来る。
そのやり方はすでにフュエ王女の『ヒュプノスクリス』で実証済みだ。
あの時はオネイロスに手伝ってもらったが、今なら一人でも出来る気がする。
少しやり方は汚いが……人族とドワーフ族の絆の為だ……致し方無い。
⦅悪いがこの勝負はどちらに転んでも俺に負けは無い⦆……と
俺はベルハルト将軍に『ニッ』 と子供じみた笑みを向ける。
それを見たベルハルト将軍が『はぁ!?』と口を曲げた。
そして俺は躊躇いも無くグラムドリングの柄に手をかけた――!
強烈な抵抗を予想していたがグラムドリングは呆気ないほどに俺に従い、俺の手の中に収まってしまった。
『…………』 『…………』 『…………』 『…………』 『…………』
『なっ……!』ベルハルト将軍の驚きの声が場に響く。
「あ、有り得ない! あの宝剣グラムドリングが人族を主と認めるなど……… だ、だがまだだ! 人族が本当にグラムドリングの力を引き出せるとは――………」
現実をまだ受け入れないベルハルト将軍に、俺は見せつけるようにグラムドリングにマナを流し込む!
マナを流し込んだグラムドリングは、刀身に掘られたルーン文字が銀色に輝きだす。
『ᚳᚱᚢᛋᚺ ᛏᚺᛖ ᛖᚾᛖᛗᚤ』
そして刀身が青白い炎のように燃え光る!
「ディック、適当なナイフを投げてくれ!」
俺の言葉に、ディックが使い捨ての投げナイフを一本俺に投げつける。
しかしそのナイフはグラムドリングに弾かれた瞬間砕け散った。
「ッ――なっ! グ、グラムドリングの『敵砕き』と云われる力――ッ!」
⦅フン! 見たか!?⦆と大人気なくベルハルト将軍を見た俺だったが……
『あはっ♪』と純粋に喜ぶマリアーネ王女の笑顔を見て、自分の心の小ささに居たたまれない気持ちになってしまった。
『流石ですディケム様。 どうぞこの鞘もお使いください』とマリアーネ王女が真白な象牙の様な……何かの牙で作られた鞘を俺に差し出した。
その鞘にはマリアーネ王女の服にも刺繍されている紋章、バーデン王家の紋章が刻まれていた。
覚醒したままの剣を鞘に納めたら、あのナイフの様に鞘が砕け散るのでは?
……と心配したが、その懸念は無用だった。
グラムドリングは眠りにつく様に真白の鞘に収まった。




