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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章13 ベルハルト・レーンバッハ

 

 どうしてこんな事になってしまったのか……。

 栄えある我々ドワーフ族が滅亡などあり得ない!


 我々ドワーフ族は四大元素の一つ、地の精霊ノーム様を信仰する種族。

 大地に愛され、大地と共に生き、大地の恵みで生きているのが我々ドワーフ族だ。

 ノーム様の加護により、神々の呪いすらも我々には影響が薄い。

 我々は争いを好まない、我々は只平穏に生きていたいだけなのだ……


 しかし戦いを好まない我々を、世界は放って置いてくれはしない。

 我々の領土は山と海と魔の森に囲まれた天然の要害だというのに……

 侵略者はわざわざ海を越えてやって来る。


 十数年前、最強種族と名高い魔神族が攻めて来た。

 その名を聞けば誰でも震え上がるラフィット将軍が率いる部隊。

 しかもその麾下には、同じくその武勇で名を馳せる魔神族五将の一人ラトゥール将軍までいた。


 俺達は最強と自負するゴーレム兵を使い、あの魔神族と互角に戦った。

 最終的にはゴーレム兵は殲滅させられたが……

 侵攻に時間を費やした魔神族は兵糧でも潰えたのだろう。

 我々はあの最強と名高い魔神族、

 しかもあのラフィット将軍の部隊を退けたのだ。


 この戦いはドワーフ族の強さを世に知らしめた!

 これで他の種族も我らが領土を侵そうなど、そう簡単には誰も思わなくなるだろう。


 しかし過去の栄光、その自信が我々の油断を招いてしまった。

 魔神族と互角に戦ったという美酒が、我々の心を腐らせた。

 その油断が『昔親交が有った鬼神族が本気で攻めては来ないだろう』と思い込む怠慢に繋がった。


 『俺達はあの魔神族と互角に戦ったんだ――!』

 そう叫びながらドワーフ軍は鬼神軍との戦いに敗れていった。


 ⦅何かおかしい!? 鬼神の力は魔神と同等と聞く……⦆

 ⦅ならなぜ我々ドワーフの部隊はこうも簡単に鬼神に一蹴されてしまう?⦆


 今の俺には『ラフィット将軍を退けた』この言葉こそ呪いに聞こえてならない。


 ⦅ま、まさか…… 魔神族の侵略は、鬼神族侵攻の為の布石だったと言う事なのか?⦆


 

 俺の疑心が魔神族への怒りへと変って行った。






 王都バーデン王城の王の間に、今後の指針を決める為重鎮が集められ会合が開かれた。


「皆の者。 残念だがここまで大敗しては…… もうドワーフ族領の死守は難しい。 自分達の故郷を追われる事は口惜しいが……民こそ国! 私は強種族となった隣人『人族』に民の保護を求めようと思っている……皆の意見を聞かせて欲しい?」


「陛下! 他種族に保護を求めるなど…… この優勝劣敗の世でそのような事出来るはずが有りません!」


「いや…… 人族なら可能性はある。 人族はエルフ族を傘下に収め保護をした。 あのエルフ族の抑止力メガメテオが消滅した時、あのままならエルフ族は勢力拡大を試みる他種族によって滅ぼされていた事だろう。 しかしあの三種族同盟によりエルフ族は守られた」


「で、ですが陛下…… 我々が領土を失えば、エルフ族の時とは話が変わって来るのではないですか? 人族としても我々を保護するメリットが無いのでは?」


「………確かにそうかもしれない。 だが我々は道を違えたが王祖の時代には親交を深めた歴史も有る。もし金の精霊アウラ様が仲を取り持って下されば…… 可能性は十分あると思うのだ。 もちろんこれは非常に難しい交渉になる事は分かっている―――だからマリアーネ! お前にこの大任を任せたいと思うがやってくれるか?」


「父上! 拝命承りました。 この大任このマリアーネにお任せくださいませ」


 陛下の命をマリアーネ王女が拝命した時……

 それまで沈黙を通していたゲレオルク王弟殿下が口を開く。


「兄者! 我々にはまだあの()()()があります。 まだドワーフ族は負けてはいません! 何故まだ手があるうちに敗北を受け入れようとなさるのですか!? どうか人族に頼るなどと言う前に――私に()()()()()を使う許可をお与えください!!!」


「ゲレオルク。 ()()は人が手を出してはいけない力だった。 ()()を使えばもっと恐ろしい事が起こる」


「兄者…… 俺はドワーフ族の敗北など認めない! 我ら栄えあるドワーフ族が鬼神族や人族に屈するなどあり得ない!!!」


 ゲレオルク王弟殿下は『陛下は臆病風に吹かれてしまった!』と叫び謁見の間を出て行ってしまった。


 平常時ならばゲレオルク王弟殿下の態度は許されないものだ。

 しかし今はそれを咎める者は誰も居ない。

 敗戦濃厚のこの状況では、皆が一丸となって同じ方を向くのは難しい。

 陛下も『皆すまんな……』と力ない言葉を発するのみだった。



 続いて陛下は俺に命を下す。

「ベルハルト将軍。 その方にはマリアーネに随行し『人族』との交渉を任せたい。 やってくれるか?」


 陛下より命じられた人族との交渉。

 この交渉は人族領ボーヌ王国のアルバリサ王女に話しを持ちかける事になるが――

 交渉相手の本命は人族同盟盟主シャンポール王国。

 そしてそのシャンポール王国の守護者ディケム・ソーテルヌ卿が交渉相手となるだろう。


 そのディケム・ソーテルヌ卿の噂には、にわかに信じられないものが有る。

 あの魔神族五将のラトゥール将軍が付き従っていると……


 ラトゥール将軍は故ラフィット将軍の許嫁。

 そして魔神族五将の一人だが、ラフィット将軍にのみ仕えていたと聞く。

 ラフィット将軍が亡くなってからは、つい最近まで表舞台に出て来なくなっていた。

 そのラトゥール将軍が今人族のディケム・ソーテルヌ卿の側についていると云う……


 ラフィット将軍は人族に討たれたと聞く――

 ならば、やはりそう言う事なのだろうか……?


 あのラフィット将軍が人族に討たれたなど、それ自体胡散臭い。

 一度は矛を交えた相手、知らぬ仲でもない。

 我がドワーフ族の油断を誘ったあの魔神族との戦い、その真意も自分で確かめたい。

 我がドワーフ族の運命を託すに足る人物か自分の目で見定めたい!



「――陛下! その勅命謹んで承ります」



 こうして俺はマリアーネ王女に随行し人族への使者として、城塞港湾都市ポートブレアを訪れた。




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