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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章11 バングルに刻まれた文字

 

 ポートブレアの街を幼馴染四人で散策する。

 周りに他の知り合いも居ない、この四人でだけで行動するなんて久し振りで新鮮だった。


 シャンポール王都に初めて来た時はこんな感じだった。

 それから次第にしがらみが増え、仲間が増え、恋人が増え、いつしか四人だけで行動できる時間も無くなってしまった。


 ……そんな事を思いながらニヤニヤしていたら『仕事中だよ!』とララに叱られた。



 事前情報では――

 この街は貴重な交易都市だから鬼神族も手を出して来ない……と聞いていた。

 しかしだからと言って本当に攻めて来ない保証は無い。

 街の様子を見ても、ドワーフ族と人族以外の種族は少ない様に思える。

 商人たちは、今は様子見と言う感じで来るのを控えているのだろう。




 あらためて街中を歩くドワーフ族を観察して見る。

 俺は人族としては初めてドワーフ族を見る事になるのだが……

 しかし魔神族だった頃の記憶に、何度も戦った思い出がある。


 ドワーフ族の外見は人族と近い。

 イメージ的には……

 少し背が低くく筋肉質、肌の色が浅黒い拳闘士といった感じだ。

 武器を使う場合は斧やウォーハンマーなど、やはり力強い武器を好む。

 土魔法を得意とし、ドワーフ族のゴーレム部隊はかなり強力だった。


 ドワーフ族と言えば無類の酒好きで有名だ。

 そして生業は鉱石の発掘とその鉱石を使った鍛冶。

 ドワーフ族が作った装備は一級品とされ、市場に出れば直ぐに買われて無くなってしまう。

 このポートブレアの名産交易品はその鍛冶で作られた物なのだが……

 今街を見る限り、売られているのは主に包丁やハサミなどの生活雑貨が多く、武器防具などの手間のかかる物は中々お目にかかれない。

 もし有ったとしても値段が張り過ぎて実用的では無く、金持ちが観賞用に置く美術品の様だ。




 ぶらぶらと街を見て歩いていると――

 ポートブレアは海に面した大きな港を擁し、大きな商船がいくつも停泊しているのが見える。

 今は戦争中で船も少ないと聞いたが、平常時は入港する為外洋にはいくつもの商用帆船が入港順番待ちで停泊しているのだとか。

 街の陸路には鉄壁と言えるほどの大きな堅牢な城壁がそびえ立ち街を囲っている。

 まさにポートブレアは城塞港湾都市だ。


 城壁内の街並みはぎっしりと家が立ち並び、この街が交易都市として非常に栄えている事を物語っている。

 その街の南北に一際高い建物が二棟建っている。

 北棟がドワーフ族大使館の建物で、南棟が人族大使館だ。

 今日のドワーフ族使者との会談は、北棟のドワーフ族大使館で行われる。

 普通なら使者が相手方に出向くのが普通だが、今後の作戦を立てる為ドワーフ族大使館を知っておきたいと言う意向で、会談場所が決まった。





 街を散策していた俺達は、街の最も栄えている西の港エリアから逆の東側、特にドワーフ族が比較的多い南東の鍛冶職人エリアに移動していた。


「ねぇディケム。 お昼ご飯は折角だから『港湾都市と言えば!』って言う名物お魚料理が食べたかったんだけど…… なんでお肉料理ばかりのこのエリアに来たのよ~? しかもお酒飲むところばかりじゃない?」


「おいおい…… さっきララが『今は仕事中!』って俺に言ったばかりだろ?」


「…………。ここも酒場だらけでとても仕事中に来るところとは思えないのだけれど?」


 ララの質問にギーズが答える。

「ララ。 僕たちがこれから会談するドワーフ族は酒飲好きで有名なんだ。 ここに来ればドワーフ族の趣向が見られる。 ほら酒場を見ればドワーフ族がエール(麦酒)と肉の組み合わせを好んでいる事が良くわかる」


「なるほど…… ドワーフ族はお魚よりお肉好きなのね。 確かに男の人はエール酒を好んでる人が多いけど、女性はワイン(葡萄酒)とパンを好んでいる人も多いみたいね」


「俺達は今夜使者と会談したあと、出来ればそのまま使者に随行してドワーフ領に入りたい。 今後しばらく行動を共にするかもしれないドワーフの暮らしぶりは知っておいた方が良い」


「そうね…… なら装備も今のままじゃ少し目立つんじゃない?」


「あぁ。 一応ドワーフ族が好む動きやすい軽鎧をミスリルで四人分作っておいた。 もちろん九属性付与付きだ。 あとはドワーフ族が作った布服を市場で買って、鎧と組み合わせてそれっぽく見せるとしよう」


「用意周到ね、ありがとうディケム」


「ただ、今回の作戦は激戦が予想される。 いくら九属性装備と言っても軽鎧のミスリル製だ。 いつも皆が着ている装備とは防御力が比べ物にならない。 重々用心してくれ」


「うん」 「あぁ」 「わかった」




 俺達は酒場で情報収集をしながら昼食を取り。

 その後の時間は軽鎧に合わせる布服の調達を済ませ、後はドワーフ族が好むアクセサリーなどを見ながら露店を見て時間を潰していた。


「なぁ兄ちゃん達。 ドワーフ族の服着てるけど人族の人達だろ?」

「あぁそうだ」


「ドワーフ族の衣装なら、オイラのバングルも見てくれよ! このバングルは幸運を呼ぶんだぜ!」


 俺達に声をかけて来た少年は、路上で粗野な手作りのバングル(手首にはめるアクセサー)を売っていた。

 このエリアは戦争で家を失いポートブレアに避難してきた難民が多い地区だ。

 少しでも生活の足しにしようと露店を開いている人たちが多くいる。

 普通ならポートブレアでは美観と治安維持の為、このような露店は禁止されているのだが、今は戦争中と言う事で大目に見られているのだろう。


「ねぇディケムどうしたの? そのバングル気に入ったの? 青銅製のシンプルな物みたいだけど……」


 俺が少年の売っているバングルをマジマジと見ていると、不思議そうにララが話しかけて来た。


「へぇ~ なんか不思議な文字が書かれているのね」


 俺が見ていたバングルには『ᚵᛟᛟᛞ ᛚᚢᚳᚴ』と文字が書かれていた。


「【キアス文字】だ」

「キアス文字?」


「あぁ、神代のエルフ族とドワーフ族はルーン文字と言う特殊な文字を使っていたと伝説がある。 そのルーン文字をドワーフ族が武器や防具に魔力を刻み込むため改良したのが『キアス文字』だと云う。 既に失われた技術で現存する力を持ったキアス文字が刻まれた装備は殆ど無い。 今はドワーフ族がお守りとしてこの文字を使うだけと聞くが……」


「なぁ少年。 このバングルは誰が作ったんだ?」

「これはオイラの父ちゃんが作ったんだ!」


「君のお父さんはここに居るのか?」

「いや、父ちゃんはまだ仕事が有るってガレド鉱山に残ってる。 オイラと母ちゃんだけ先に避難させられたんだ」


 『ガレド』と言えばドワーフ領南部にある大きな都市。

 巨大な鉱山で働く鉱員達がそこに住み着き、家を建て町を作り、いつしか巨大な都市へと発展していったと聞く。

 今ではドワーフ領では『首都バーデン』に次ぐ大きな街だと云う。


 俺が考え込んでいると……

 少年が決心したように俺に話しかける。


「なぁ兄ちゃん! 兄ちゃん達はこれからドワーフ領に行くんだろ?」

「ん? なぜそう思う?」


「見栄えを気にして騎士の格好を好む人族がドワーフ族の格好なんて不自然だよ。 それに近々鬼神族の野郎どもが大侵攻をかけて来るから大きな戦争が起きるって噂なんだ!」


 別に人族が皆、騎士の格好を好んではいないと強く言いたいが……

 まぁ、ドワーフ族一般の人族に対してのイメージなのだろう。


「兄ちゃん達は戦争に参加しに行くんだろ? なぁ頼むよ兄ちゃん。 ガレドに行く事が有ったらオイラの父ちゃんを助けてくれよ!!!」


 戦争しに行くのではないのだが……

 この腕輪を作った人物か。


「戦争中に一人を特別救う事は難しいが…… 一応君のお父さんの名を聞いておこう」

「父ちゃんの名は『ブルーノ』!」

「君の名は?」

「オイラはクルトだ」


「覚えておくよ。 それからこの幸運を呼ぶバングルを四人分貰うよ」

「本当かい!? ありがとう兄ちゃん!」




 少年の露店を後にした俺は、バングルを皆に配った。

 幼馴染四人で同じアクセを買って身に着けるのも久しぶりだ。


「これは楽しみが少し増えたかもしれないな」

 ……と俺はニヤニヤしながらつぶやいた。



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