第八章8 支援部隊到着
―――アルバリサ女王視点―――
私達がシャンポール王国を出立して六日目。
明日の夕刻にはドワーフ族の使者と会談する予定になっています。
でも、ソーテルヌ卿参戦の報せはまだ届いていない……
「ボノス。 シャンポール王国からの魔法通信はまだ来ていませんか?」
「はい陛下。 まだ来ておりません」
「そうですか……… ゴードルフ。ソーテルヌ卿は来てくれると思いますか?」
「普通に考えれば厳しいでしょう。 正直、他種族の難民受け入れだけも政治的に難しい話です。 難民を救うには膨大なお金が必要になります。 自国の民ですら貧困者が居ると言うのに…… 他種族にお金をかけるなど、反発が起こるのは必至でしょう。 そして今回の支援は下手をすれば鬼神族との衝突も考えられるのですから」
「そ、そうですよね……」
ゴードルフは此度のドワーフ族支援を最初から反対していました。
『ただでさえボーヌ王国は滅亡寸前から再建始めたばかりなのに、この苦しい時になぜ他種族の保護など――』……と。
「普通に考えれば不可能な事でしょうが…… ソーテルヌ卿は今まで数々の不可能を可能にして来られました。 此度も奇跡を起こしてくれると願いましょう」
「はい。 有難うございますボノス」
堅実派のゴードルフが長い付き合いのボノスに文句を言っている。
『まったくボノスは現実をもっと見るべきだ!』……と。
この頃、夢見がちな私とそれに共感するボノスは、現実主義のゴードルフに叱られてばかり。
それでも最後はゴードルフも渋々付き合ってくれるのですから、心優しいお爺さんなのです。
「急報っ―――! 急報っ―――! 陛下にお取次ぎ願いたい!!!」
私達が執務室で話していると、外に急報の知らせが来ました。
「ゴードルフ!」
「はっ!」
ゴードルフが伝令使を執務室へ入れると、伝令使が急報を告げました。
「ただいまシャンポール王国より五大国同盟へ緊急の魔法通信が一斉に送られました!」
「―――っで! その内容は!?」
「『これよりシャンポール王国は鬼神族と種族戦争を行い滅亡の危機にある『ドワーフ族の民の保護』を行う。 それに伴い王都守護者ディケム・ソーテルヌとその麾下四門守護者がこの任に当たる為、人族領の守りが手薄になる懸念がある。 この作戦が完遂するまでの期間、各国は厳戒態勢を取る様に――』との事です!」
「ああぁぁぁ~やりましたよゴードルフ! シャンポール王は、ディケム様は我々の願いに答えてくれました!!!」
「おめでとうございます。 アルバリサ女王陛下」
「おめでとうございます」
その急報を聞き、執務室に歓喜の声が上がりました。
堅物のゴードルフも胸を撫でおろしています。
もしシャンポール王国が動いてくれなければ……
この案件、下手をすると勝手な事をしたボーヌ王国は五大国同盟からの除名。
人族とドワーフ族の板挟みになったボーヌ王国は窮地に立たされ、さらに鬼神族からも侵略をうけると言う最悪のシナリオも有りました。
まさに崖淵外交と言ったところでした。
「これで一人でも多くのドワーフ族の民が救われる事でしょう」
「ボーヌ王国の民もですな……」
「はい」
その日の夕刻、ボーヌ王国の東の空にワイバーンの群れが現れました。
しかもその数一〇〇匹は超えようかと言う。
さらにワイバーンの大群を引き連れる五匹の大きな飛竜も見えます。
これがもし本当に野生飛竜の来襲だとしたらボーヌ王国は一瞬にして蹂躙されていたでしょう。
騒然となるボーヌ王国を気遣ってか、ワイバーンの群れは王国の少し手前で止まりました。
そしてワイバーンを引き連れる大きな五匹の飛竜の内一匹が王城に向かって飛んできます。
王城中庭には騎士団が整列し、礼をもって飛竜の来訪を待ちます。
大きな青い飛竜が中庭に降り立ち、その背から青いバード調の服を来た青年とその従者らしき人が降り立ちました。
「シャンポール王国所属ソーテルヌ総隊麾下近衛隊ギーズ・フィジャックと申します。 ボーヌ王国の要請に応え参上仕りました。 竜騎士部隊の入城許可願います」
「フィジャック卿! お待ちしておりました。 どうぞこの城内中庭をお使いください」
「アルバリサ女王陛下。 直々のお出迎え感謝いたします」
私との挨拶を終えると、ギーズさんが腰に下げた魔法の小杖を取り空へ向けると、杖から青い燕が飛び立ち、ワイバーンの群れの先頭に居る漆黒の飛竜へと向かって行きました。
その日の光景は、ボーヌ王国の民は忘れないでしょう。
ボーヌの空を覆う、圧倒的な力を持つ一騎当千の竜騎士の行軍。
先頭には強大な力を持つ四匹の飛竜が居る。
その後ろにも数匹、色が違う体の大きな変異種の飛竜が見える。
そしてそれに続くワイバーンを駆る竜騎士達。
その人族の歴史上類を見ない軍隊行軍は、見るものを圧倒する。
でも私は知っている……
竜騎士の数は増えていると聞きます。
ここに来た一〇〇騎が全てでは無い筈。
そして、ここにはまだディケム様達が従属するエンシェントドラゴン様も加わっていない。
ソーテルヌ総隊はこれだけ圧倒する力を見せつけて尚、その底を見せていない。
私の隣でディケム様を出迎える為に出て来た『時勢の十貴族』たち、国家評議会のメンバーも並び目を見張り震えている。
「ア…アルバリサ女王陛下…… こ、これが……シャンポール王国が誇るアルザスの奇跡殿が率いるソーテルヌ総隊ですか……」
「そうよマリア。 凄いでしょ?」
そんな事を話していると、ギーズさんの隣に部隊に先行して黒に近い紫色の巨大な飛竜が舞い降りて来ました。
その飛竜の背から、黒色の服を纏った豪奢な銀髪の女性が降りてくる。
その豪奢な銀髪の意味は誰しもが知っている、力ある魔神族の証。
魔神族五将の一人、そしてソーテルヌ総隊総帥ラトゥール様。
その存在感は四門守護者と謳われる四人の中でも特に別格。
マリア達がさらに息を呑むのが伝わってくる。
私はアールヴヘイムでお世話になっているから、ラトゥール様のやさしさも知っているけれど…… 初めて見る人はラトゥール様のプレッシャーに畏怖する事でしょう。
ラトゥール様が手を上げると、黒い飛竜を先頭に全ての竜騎士が中庭に降りて来ました。
先頭の一際大きく黒い飛竜から降りて来た青年。
ぱっと見ラトゥール様と並べばどう見ても付き人にしか見えない青年が、ラトゥール様の主ディケム・ソーテルヌ様です。
マリア達も最初は『ん???』と頭に?が浮かんでいましたが……
あのラトゥール様がその青年の後ろに控える様子を見て威儀を正しました。
「アルバリサ女王陛下。 シャンポール王国所属ソーテルヌ総隊元帥ディケム・ソーテルヌ、女王陛下の要請に応え参上仕りました。 我々は第一陣、支援物資も運んで参りました。 また一週間ほどで陸路から第二陣ラス・カーズ将軍が騎士団を引き連れ残りの物資を運んで参ります。 その後も随時物資を運び込みますので受け入れ準備をお願い致します」
「はい。 本当に有難う御座いますディケム様!」




