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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章7 出立

 

 アルバリサ女王とクレアス殿下が立ち去った謁見の間。

 シャンポール陛下はフュエ王女、マール宰相、ラス・カーズ将軍と目で合図した後、俺達の方を見て話しを始める。


「さて意見を聞かせて欲しい。 ソーテルヌ卿、ラトゥール殿、カノン卿、ベレール卿、フィジャック卿、………………ん? お前達は誰だ?」


 あ…… やっぱり気づいてしまわれた。


「陛下、彼らは魔法学校の依頼により私の『付き人』をしている者達です。 貴重な精霊魔法の才能を持っているのですが育てるのが難しいので私に付いているのです」


 陛下が『そうか』と納得してくれたところで四人が前に出た。


「陛下! 父と別にお会いするのは初めてでございます。 ロックウォーター侯爵の娘プリシラと申します。 以後お見知りおきを」


 あのいつもボ―っとしているプリシラが急に見事な貴族の挨拶をして見せた。

 その後イグナーツ、アンドレア、アーロンと貴族位の順に、

 皆同じ様に見事な挨拶を済ませた。

 流石は名門貴族として育てられた彼らは違うなと感心させられた。

 俺達が初めて陛下と挨拶したときなど、酷いものだった。


「陛下、手違いが有り彼らにも先の話聞かれてしまいましたが…… 彼らも魔法学校から『何時如何なるときも私から離れるな』と指示されているようです。 どうか場違いな場に居合わせた非礼をお許しください。 それに……今回の件は人手が必要になります。彼らも十分役に立つでしょう。 陛下の御心はドワーフ族に手を差し延べる事で固まっておいでなのでしょ?」


 俺がそう言うと、陛下とフュエ王女は緊張が解けたように息を吐いた。

 どうやらこの無理難題に俺をどうやって引き込むか悩んでいたようだ。


 シャンポール王都の地下にある魔物の国ウォーレシアにも手を差し延べた陛下だ。

 しかも支援を求めて来たのが、王祖シャンポールが友好を結び、この王都を一緒に作ったと伝えられるドワーフ族バーデン王祖の末裔と聞いて手を差し延べない筈が無い。


 だが……

 言うは易く行うは難しだ。


「ソーテルヌ卿。まずは其方の意見を聞きたい」


「はっ! ですがその前に…… ドワーフ族保護の要請を受ける事は私がボーヌ王国へ出立する日まで、ボーヌ王国には隠しておいて欲しいのです。 それまでにどうしても調べたいことが有ります」


 俺の提案に陛下は少し戸惑いを見せたが、

 『まぁいい。 すぐにでもアルバリサ女王に知らせてやりたかったが、それぐらいは我慢してもらおう』と承諾してくれた。



 それから三時間ほど陛下と話し合い。

 翌日には王国騎士団長に緊急招集をかけ二日間程話し合った。


 このドワーフ族保護は現在ドワーフ族と鬼神族が戦争中のため難しい撤退戦になる。

 そのゴールは人族領とドワーフ領の領土線になるだろう。

 我々は人族領側に大軍を置き、そこまでドワーフの民を逃がし保護出来れば任務は完了だ。

 だが領土線からドワーフ領側では人族軍は鬼神族に手を出してはいけない。

 あくまで人族軍としては戦うとすれば、鬼神族が領土線を越え人族領に侵入して来た時だけだ。


 この状況下でいったいどれだけのドワーフ族の民を救う事が出来るのだろうか……

 最悪の場合ドワーフ族全滅も有り得る話だ。


 軍隊としての施策はこうだが……

 少数精鋭をドワーフ領に送り、ドワーフ民の誘導も行う事にした。


 バーデン陛下の手紙によると、ドワーフ王国内でも戦争強硬派の王弟ゲレオルク・バーデン殿下が暴走している事が書かれていた。

 ドワーフ国内も相当混乱しているのだろう。

 人族側からも人を送り、ドワーフ族側と連携を取り退避行動を誘導するべきだだと言う考えだ。


 そこで問題は『誰をドワーフ族領に送り込むか』になる訳だが……

 メンバーは俺。

 それとソーテルヌ卿とサンソー村のゆかいな仲間たちだ。

 

 ⦅まぁ、そうなるだろうな……⦆


 敵地では自衛以外では戦闘を避けなければならない。

 しかし戦闘になれば対軍隊戦となる、戦略級の魔法が使える事が望ましい。

 多くのケガ人、死人も必ず出るだろう。

 広域支援魔法を使えるララは外す事は出来ない。

 これらの事を鑑みると、俺達となったのだが……

 反対意見も多く上がった。

『もしこのような危険な任務、しかも他種族の為に人族の貴重な戦力が失われたらどうするのだ!』

 ――と。

 一時会議は混沌とした。

 しかし最終的には、俺達なら戦場が惨憺(さんたん)たる状況に陥った時でも、自分達だけでも離脱出来ると言う事で決まった。


 この様な難しいミッションをこなせる者は、自分達が言うのもなんだが俺と四門守護者しか居ないと俺も思う。

 メンバーから外されたラトゥールはまた拗ねていたが、この策戦に魔神族が加わるとややこしくなるので領土線での待機となった。



 そして翌日よりソーテルヌ総隊は支援物資の調達に奔走する。

 支援物資はポーションなどの医薬系と日持ちのする固く焼いたパンなどの食料が中心だ。

 これから暫くはララの妹ルルは支援用にパンを焼くのに大忙しだろう。


 ボーヌ王国にドワーフ族の使者が来ると言っていた日まであと四日程。

 余裕をもってあと二日後には俺達はボーヌ王国へ向けて出発する準備を整えている。

 支援物資の第一陣はその時に俺達が一緒に運ぶ手はずになっている。

 そしてその後も随時支援物資は数度に分けてボーヌ王国へ運ぶ事になっている。




 俺達がボーヌ王国へ出立する日。


『ディケム様 宜しいですか?』とラトゥールに話しかけられる。


「やはり最後の元素は、ドワーフ領ガレドと言う場所に居るようです」

 ラトゥールが付き人として俺の側に居るアーロン達に、ワザと理解できないよう言葉を濁して話をする。


「そうですか。 ならやっぱり俺が行くのは正解だったようですね」


「はい。 ですが他種族同士の戦場で、しかも難民を抱えての敗走という難しい立ち回りの中探さなければいけません。 どうかご無理をなさらぬよう……」


「ありがとうラトゥール。 今回はララ達も居てくれるから、何とかなるよ」


 ギリッ!


『あ……』

 ララの名を口にした途端、ラトゥールから歯を噛み締める音が聞こえて来た……




 そしてボーヌ王国へ出立する時間が迫ると、各所で家族や恋人と別れを惜しむ者達の姿が増えてくる。

 軍出撃の当日は、皆大切な人との別れの時間が許されている。



 ディックはグラン嬢としばしお別れの挨拶を交わしていた。

 グラン嬢も俺達が戻るまで、竜騎士と言う貴重な戦力としてモンラッシェ共和国の防衛強化の為、本国へ戻る事になっている。

 俺たちが居ない間、人族領の守りが手薄になる事を懸念しての措置になる。


 ギーズの側にもマディラが居たが、マディラ達ソーテルヌ総隊員は、ラトゥールの麾下のもと支援物資の輸送と人族領の領土線の守備に当る。


 ラス・カーズ将軍が今回身重で王都に残る事になっているラローズ先生と話している姿も見える。


 ラス・カーズ将軍率いる王国騎士団第一部隊も人族領土線の守備に向かう。

 さらに王国騎士団からはボーヌ王国に近い砦を守る部隊。

 王国騎士カラ・エルマス将軍率いる第五部隊。

 王国騎士ラザロ・フリアン将軍率いる第八部隊。

 王国騎士ダドリー・グラハム将軍率いる第十二部隊。

 この三部隊が砦の半数の騎士団を引き連れボーヌ王国へ向かう事になっている。

 砦は副隊長が残りの騎士団と守りに当る。


 ちなみにアーロン達付き人も、彼らのたっての希望も有りボーヌ王国へ随行する事になっている。

 だが彼らが行けるのはボーヌ王国まで、今後シャンポール王国からボーヌ王国へ送られてくる支援物資の受け渡しを手伝う仕事を与えている。

 決して戦場に近い領土線へは近づかないと言う約束で許可を与えた。

 彼らはまだ他国を見た事が無いと言う。

 シャンポール王国とは風土も気候も違うボーヌ王国を見る事は見分を広めるのにいい機会になるだろう。

 それにこのような大きな軍事行動に参加する事も学生にとって、とても貴重な経験になる。


 この作戦には人手が多く必要となる事も有り、また支援であって直接な戦争では無い事も鑑みて魔法学校、戦士学校の学生も多く参加するようだ。

 俺達が王都を離れる事から、シャンポール王国の守備戦力は大きく低下する。

 その為守りを固める騎士は一人でも多く残したい。

 だから後方支援の物資輸送や搬入に必要な人員を学生で補った形だ。

 既に王国騎士団第一、第五、第八、第十二部隊に内定が決まっている学生への参加要請が有ったらしい。

 しかし、軍事学校に所属する彼らは、騎士団の軍事行動に参加できることを誇りに思っている。

 学校から出発する彼らは、学校に残る生徒達から大声援と羨望の眼差しで送り出され、彼らも誇りを胸に各騎士団の元へと向かったと聞いた。





「それでは第一陣ソーテルヌ総隊、行くとしようか」

「「「「はっ!!!」」」」


 ソーテルヌ総隊の竜騎士団一〇〇騎程が第一陣の支援物資を運び、大空へと舞い上がった。

 竜騎士団が王都上空に舞い上がると、街中から大きな声援が俺達に送られた。

 王都民にも今回ドワーフ族への人道支援を行う為、騎士団の大遠征が行われる事が知らされている。


 俺達が空へと飛び立つと、第二陣のラス・カーズ将軍の第一部隊が騎馬に乗り、陸路で支援物資を運ぶため出立する。

 民衆の大歓声に見送られ、街中を行進する王国騎士団。

 その隊列に参加した学生達には忘れられない思い出となっただろう。




 俺達が出立したこの日。

 シャンポール王国は陛下の名の元、五大国同盟国へ向けて鬼神族と種族戦争を行っている『ドワーフ族民の保護』を行うと通達した。

 それに伴い、王都守護者ディケム・ソーテルヌとその麾下四門守護者がこの任に当たる為、人族領の守りが手薄になる懸念を伝え、この作戦が完遂するまでの期間、各国厳戒態勢を取る様に通達を行った。


 もちろん……

 この様な大事な事は、事前にボーヌ王国以外の大国とは裏で話し合っている。

 あくまでこの通達は表立って公表する意味でしかない。



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