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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第8章 マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌
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第八章6 急報

 

 それは魔法学校の授業中、突然王城からの呼び出しを受けた事から始まった。


「ディケム君、王城より火急の呼び出しが来ました。 急いで陛下の元に向かってください」


 授業中に突然教室に入って来た先生から告げられた王城への呼び出し。

 教室の空気が張り詰めるのが伝わってくる。

 普通、学生への心身の影響も考え授業中にこのような呼び出しは軽率には行わない。

 なのに呼び出しを行ったと言う事は、時間も場所も気にしている余裕が無いと言う事だ。


 俺はすぐに教室を出て、ワイバーン留めへ向かう。

 するとディック、ギーズ、ララもそこへ来た。


『お前らも呼び出されたのか?』おれの質問に三人が頷く。

 するとまたそこに新たに四人の学生が走って来る。


「アーロン…… まさかお前達も呼び出されたのか!?」

「いえ、僕達は呼び出されては居ませんが、先輩たちが国王陛下からの火急の招集を受けたと学校中が大騒ぎになってます。 私達も『付き人』として同行すべく参りました」


 『はぁ?』と思わず呆れてしまったが、彼らの顔は真面目だ。

 説得するのも時間が掛かりそうだ。


 まったくあんな呼び出し方をされては、学校中が大騒ぎになるのも頷ける。

 それにしても……

 火急の呼び出しに『付き人』なんて連れて行っても大丈夫なのだろうか?


 彼らを説得する時間が惜しいので、俺達は取り敢えず彼ら四人も連れて王城へ行く事にした。

 もし王城で怒られたら…… 待合室にでも放り込んでおけばいい。



 俺達は王城で先に待っていたラトゥールと合流し謁見の間へと入る。

 謁見の間には国王陛下、フュエ王女、マール宰相、ラス・カーズ将軍、そしてボーヌ王国のアルバリサ女王とクレアス殿下の姿があった。

 その他の者は、護衛の騎士すらも人払いされていた。


 俺は取り敢えず定型通りの挨拶を済ませ、陛下の話を待つことにする。

 ちなみによほど火急の話なのだろうか、陛下達は俺達の後ろに並ぶアーロン達四人に触れる事は無かった。




 呼び出しの内容はシャンポール陛下では無くアルバリサ女王から語られた。

 その内容はボーヌ王国国家評議会代表マリア・バルコスから、魔法学校留学中のアルバリサ女王への手紙から始まった。


 その手紙にはボーヌ王国が人族大国同盟から離反していたとき、同盟を結んでいたドワーフ王国からの手紙の内容が記されていた。


 その手紙の差出人の名はザクセン・バーデンとなっている。

 その名は現ドワーフ王国国王の名だ。

 そして手紙の内容は、ドワーフ族と鬼神族との破滅的な大規模戦争は不可避な事。

 ドワーフ王国内でも戦争強硬派の王弟ゲレオルク・バーデン殿下が暴走している事が書かれていた。

 次いで、この戦争に勝算が無い事、ドワーフ族は滅亡する程の犠牲を出すだろう事が書かれていた。


 そして―――

 手紙の最後にはドワーフ王国国王ザクセン・バーデンの名で『人族にドワーフ族の民の保護を求めたい』と書かれて有ったのだ。


「ドワーフ族の民の保護?」

「余程戦況が思わしくないのでしょう……」


 俺の呟きにアルバリサ女王が答えた。


「ボーヌ王国は前政権が同盟を締結した事も有り、今もなおドワーフ王国とは情報交換を続けていました。 鬼神族が海を渡りドワーフ王国を攻めて来たと言う事は、次に攻められるのはボーヌ王国だと思うからです」


 基本的に考えれば、ボーヌ事変でボーヌ王国がドワーフ王国と同盟を組み人族大国同盟へ宣戦布告を行った経緯から考えれば、政権が変わり人族大国同盟に復帰した今、ボーヌ王国はドワーフ王国と切れる事が筋と言えるだろう。

 だがアルバリサ女王はドワーフ王国とは切れなかったと言う。

 これをもし表立って公表すれば、騒ぎ出す国も有るだろう。

 だが、どこの国にも他国に話せない裏の事情などゴマンとある。

 しかもボーヌ事変ではドワーフ王国は人族に対して何もしてこなかった。

 それを鑑みれば、今あえて騒ぎ立てる必要も無いだろう。


「それで…… アルバリサ女王は何故私共を呼んで、この話を聞かせたのでしょうか?」


「…………。 ソーテルヌ卿、有り体に申せば私達には手に余る案件だと判断したからです。 そしてドワーフ王国国王ザクセン陛下も、私に手紙を宛てていますが…… その後ろの人族大国同盟盟主シャンポール陛下へ、そしてその配下のソーテルヌ卿へ宛てた手紙だと私は思っています」


「…………」

 俺へ宛てた手紙と言う事は……


「ソーテルヌ卿。 卿がエルフ族を滅ぼさず、その傘下に収めた事はどの種族も知っている事実。 そしてこれは私の憶測ですが…… 卿はエンシェントドラゴンを五体も傘下に収めていますが、ララさんが首に巻く月龍以外は日頃見る事は殆ど御座いません。 そして毎日見かける竜騎士のワイバーンの数も数が合いません。 いったい何処に隠されているのでしょうか?」


「…………」 おいおい、本当に今喋っているのはあのアルバリサなのか?


「ドワーフ族の王ザクセン陛下は、王祖バーデン様が友好を深めた王祖シャンポール様と精霊様の伝承を大切にしておられました。 そしてソーテルヌ卿がお持ちの神器の籠手は王祖バーデン様が作られたと伝わる『愚者の手』では無いかと…… そう言えば伝承では精霊様は神器『愚者の手』に宿っておられましたね」


「…………」


「ソーテルヌ卿。 暗黒竜事変で()()()()()へザクセン陛下が使者を送った事は事実だそうです。 それを悪魔に利用されシャンポール王国には迷惑をかけたと心を痛めておいででした。 ソーテルヌ卿が公表しないのですからその国は、今は極秘なのでしょ? 私もこれ以上話すつもりは御座いませんが…… ドワーフ族の民の居場所、作る事は可能なのではないでしょうか?」


 アルバリサ女王が言いたい事は、アーロン達四人とフュエ王女以外の者は察していた。


 まったく……

 あの純粋無垢だったアルバリサがこれ程化けるとは思わなかった。

 女王と言う立場と、補佐に着く『時勢の十貴族』の影響が、これ程短期間に人を育てるとは……。



 俺はドワーフ族を救う事に異論は無い。

 そして地下世界ウォーレシアに移住の場所を与える事も。

 地下世界ウォーレシアは広大だ、ドワーフ族の街が一つ増えたところで問題は無いだろう。

 ウォーレシアの神、『アウラ』もバーデンの血筋を迎える事を喜ぶだろうし。

 さらに言えば、鍛冶を生業とするドワーフ族は地下世界ウォーレシアと相性も良く、人族としてもドワーフ族を傘下にできればメリットは山ほどある。

 ドワーフ族の鍛冶は鍛造(たんぞう)技術だ、我がソーテルヌ総隊軍装研究部隊のレジーナと組めば、さらなる武器の開発、量産体制の改革も進む事だろう。



 ならなぜ俺が難しい顔をしているかと言えば……

 戦争中の他種族難民を移住させる事の難しさだ。

 要は、これは敗戦逃亡に他ならない。

 大勢の難民を守りながら大移動する難しさ。

 延々と続くドワーフ族難民の人の列を、鬼神族は何もせずに見逃してくれるとは思えない。

 この優勝劣敗の無情な種族間戦争の世界では、見逃せば後に復讐の種となる危険が生まれるからだ。

 そして殺せばこの世界の輪廻の(ことわり)より、自分の種族を増やすことも出来る。

 普通なら敗者は拘束され、勝者の管理下の元で数を減らされ奴隷と言う便利な労働力として消費されるものだ。



「ソーテルヌ卿! 非常に難しい話だと私達も分かっています。 ですが助けを求める手を突き放す事は私にはできません。 ソーテルヌ卿も手を差し伸べて頂けないでしょうか?」


「アルバリサ女王。少し考える時間を頂けないでしょうか? これは私一人で判断できる小事では御座いません。 シャンポール陛下も交え、皆で検討し答えを出さなければならない案件です」


「分かりました。 ですが私とクレアスはこの後直ぐに我が領土ボーヌへ向かって立ちます。 一週間後にドワーフ王国の使者が訪れ会談を行う予定になっているのです。 竜騎士のソーテルヌ卿でしたらボーヌまで一日も有れば来られる距離でしょう? 良いお返事を期待しております。 今日は時間が無いとは言え、急な呼び出しに答えてくれた事、お礼申し上げます」



 そう言ってアルバリサ女王とクレアス殿下は深々と俺とシャンポール陛下に頭を下げ、王都を後にした。




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