第八章1 精霊魔法師の卵たち1
その日俺は、魔法学校からの依頼により数名の下級生生徒達と会う事になっていた。
その生徒とは精霊魔法師の才能を強く持つ者。
精霊魔法師の才能はマナに敏感な性質を持ち。
黒、白、青などの魔法に特化していない事が多い。
勿論フローラの様に白魔法師の才能に特化しつつも、マナに敏感な者も居る。
人の才能とは白黒とハッキリ分けられる物ではない。
しかし俺がこれから会うのは、いわゆるアブレ者の寄せ集めF組に所属し、そのF組でも特に対応が難しいと判断された生徒達だ。
俺の世代より前は『アルザスの悲劇戦役』以降、人族の天敵魔族軍カヴァ将軍を倒すため、ラローズ先生の努力により精霊魔法師の才能の者は掻き集められた。
ソーテルヌ総隊所属のラモット、エミリア、マルケ、リグーリア、そして俺がそうだ。
しかしそれ以降の子供は若すぎると言う事も有り、特別招集を掛けられる事も無かった。
そしてその子供達は成長し今は魔法学校にも入学しているのだが、特別すくい上げられる事も無く今まで居た。
正直俺も今までソーテルヌ総隊を形にしていく事に必死で、自分の周りに居る者しか見ていなかった。
しかし今はラトゥールが補佐として総隊運営を取り仕切ってくれる事で少し余裕が出て来た。
そこで俺に学校からの依頼が来た訳だ。
俺はクラスメイトのリグーリアを連れて先生に指定された教室に入ると、そこには四人の生徒が俺を待っていた。
その中の一人、二年生の男子生徒が俺を見るなり自己紹介を始め、その他の生徒もそれに続いた。
「二年F組のアーロン・フェザートンです。 ソーテルヌ卿お会いできて光栄です」
「同じく二年F組のアンドレア・ハリングナーです。 よろしくお願いします」
「一Fのイグナーツ・アドルフだ」
「一年F組のプリシラ・ロックウォーター……」
集められた生徒は四人全て貴族だった。
挨拶を聞く限り…… 一年生のアクが強い。
どうやら四人全てが『自分が望んでここに来た』という訳では無いようだ。
「え~三年F組のディケム・ソーテルヌです。 ソーテルヌ総隊の元帥をやらせてもらっています」
「私も三年F組のリグーリアと言います。 ソーテルヌ総隊では精霊部隊に所属させて貰っています。 よろしくお願いします」
自分も自己紹介したところで、もう一度後輩達の顔を一人一人見て、自分の記憶と照らし合わせる。
初めに名乗った二年生のアーロンはフェザートン子爵家の御子息。
四人の中では上級生としてこの四人を辛うじて纏めようとしている、真面目で責任感の強そうな男だ。
同じく二年生のアンドレアはハリングナー伯爵家の御息女。
上級貴族でありながらリーダー的な中級貴族のアーロンを立てる奥ゆかしさを持っている、才女と言った感じだろうか。
そして一年生……
見るからに問題児と分かるのはイグナーツ。
アドルフ辺境伯爵家の御子息だ。
アドルフ辺境伯爵家と言えば王国騎士団を支える武寄りの名家として有名だ。
現当主のモーガン・アドルフ卿は王国騎士団長を目指したが戦場で大怪我を負い、今は裏方として騎士団を支えていると聞く。
辺境伯としての立場を存分に活かし騎士団を支える様は、無骨だが信義に厚い、十三番目の影の騎士団長とも呼ばれている
そのアドルフ家の御子息が……
なぜにこんなにも俺に向かって敵意を剥きだしてくるのか?
わからない。
そして最後のプリシラ。
自己紹介の時、辺境伯爵家のイグナーツでさえも目を見張ったのが一年生のプリシラ・ロックウォーターだ。
彼女はロックウォーター侯爵家の御息女。
上級貴族は伯爵、辺境伯爵、侯爵、公爵と位が上がるが……
普通貴族の最高峰と言えば伯爵家が主と言える。
ラス・カーズ将軍もラローズ先生の実家グリュオ家も伯爵家だ。
国の中枢に位置する上級貴族は伯爵家が多い。
そしてその上に位置する辺境伯爵家は上級貴族の中でも特別と言っても良い。
もちろん辺境伯爵家の数は伯爵家に比べて圧倒的に少ない。
もしこの国の辺境伯爵家に生まれたのならば、一生の内に頭を下げる事は殆ど無いだろうと言われる程だ。
イグナーツの態度はそんな生い立ちから来ているのかもしれない。
そんな貴族社会だが…… やはり上には上がいる。
辺境伯爵家のさらに上には侯爵家がいる。
そして辺境伯爵家と侯爵家の間にはさらに大きな差が有るのだ。
侯爵家は現在シャンポール王国には六家のみ、その中にミュジニ王子の婚約者オリヴィエ嬢を排出したグリオット侯爵家や、国王陛下を補佐するマール宰相が侯爵家だ。
貴族家でありながら限りなく王族に近い存在、それが侯爵家と言える。
その上の公爵家は…… 王族の親戚だと思った方が良い。
プリシラはそんなシャンポール王国貴族の頂点ロックウォーター侯爵家の御息女だ。
自己紹介の様子では、プリシラの性格はどちらかと言えばイグナーツと真逆。
敵意や威圧は無いものの…… 無気力無関心と言った方が良いだろう。
⦅一年生は中々大変そうだな……⦆
さて……
ラローズ先生からは『会うだけで良いから会って欲しい』と言われて来てみたのだけれど。
この後どうしたものか。
今のソーテルヌ総隊の立場では、魔法学校低学年の彼らを『ソーテルヌ総隊の精霊魔法師部隊に入れます!』なんて簡単に言ってはいけないのだろうな……
ソーテルヌ総隊は元々俺の私兵として、俺の手足となる少数精鋭部隊を作る趣旨で設立された。
それがいつの間にか隊員数は増え、今では一五〇人位になっている。
そして今も希望者が殺到している様で増加傾向にある。
まぁそれでもまだ中隊規模だから少数と言えるのだが、徐々に初めの設立した趣旨からは変わってきている。
『精鋭部隊と言う点だけ外れなければそれで良い』とウンディーネが言うので……
まぁ隊員数に関してはそれで良いだろう。
しかしもう一点、『俺の私兵』と言う点に関しては……
まぁそれも好きなように動かしても良いのだろう。
だがこれに関しては少しだけ立場が変わって来てしまっている。
ソーテルヌ総隊の下に王国騎士団が付いたからだ。
それにより規律と言うものが発生してきている。
多分俺は好き勝手やっても滅多な事では怒られないとは思うが……
総隊員一人一人の行動と言動は下の騎士達に見られている。
監視と言う意味ではないが、上昇志向の高い下の者は上の者の隙を絶えず伺っているものだ。
総隊設立当初は、有力な知人に声をかけ『一緒に頑張ろう!』で事は済んだが、今はそうもいかない。
多くの騎士達が希望する総隊に、魔法学校の学生を簡単に入れてしまえば……
その学生は多くの騎士達の妬みを買ってしまう事だろう。
ラトゥールは『ディケム様は好きにすればいいのです』と言うが、人族で育った俺は、人族のそこら辺のデリケートな事情も理解している。
特に自分の事ならばどうでも良いが、まだ心も不安定な学生達に大人の妬みが向けられるのは忍びない。
さりとて…… 折角の貴重な精霊魔法師の才能を放っておくのも勿体ない。
『天使事変』では精霊部隊の有用性がはっきりと、つまびらかになったのだから。
さて、どうしたものか……
少し間が空いてしまいましたが第8章『マグリブの地 ドワーフ王朝の落日哀歌』
スタートいたしました。
作品を書き始めてからこれまで、投稿に1ヵ月あまりも間を空けたことは初めてでした。
最初は自分が楽しむためだけに始めた執筆でしたが……
それでも書き始めれば誰かに読んでもらいたくなり。
でも他の作者様の作品を読み自分の文才の無さに打ちのめされ凹み執筆の手が止まる。
そんな感じでここまで書いて来ました。
少し煮詰まった感が有ったので小説からは少し離れていたのですが、やっぱり初心に帰り私は書くのが楽しいんだなと第8章を書き始めました。
これからは少し投稿の間隔が遅くなるとは思いますが、楽しんで書いてゆきたいと思います。
そんな私の拙い小説ですが、私の大好きが詰まった作品です。
読者様の貴重な時間を費やすだけの意義が有るか分かりませんが、お付き合いいただけたら幸いです。




