第七章100 閑話 契約の儀3
『契約の儀』を行うにはマナ濃度が濃い方が良い。
精霊とは本来人が思い描く現象そのもの。
イメージが確定した概念と言うより理念として思い描かれたイデアに近い存在だ。
存在自体が不確定な精霊と交渉する事は難しい。
そこへマナ濃度を上げ、現象を情報体として概念を定着させる。
一時的措置だが、術者と契約する事で精霊と言う概念は確定される。
ラローズ先生の『契約の儀』を行ったときは、サンソー村近くの森の奥、うっそうとした森に突如現れた木の生えていない場所『マナの通り道』と言われるその場所で行われた。
そしてここソーテルヌ邸敷地内はすでにその環境が出来ている。
『契約の儀』を隊員が慣れ親しんだ訓練場で行っても良いが、流石に術師の命を懸けた儀式を観衆の目に晒すのは少し気が引ける。
⦅本心を言えば、皆に知識として見せたいと思ってしまうが……⦆
⦅流石に自分の命を懸けた儀式を見世物にされた方はたまらないだろう⦆
⦅余計な事で気が散り失敗でもしたら大変だ⦆
と言う事で別の場所を用意した。
薬師部隊が管理する薬草園、その一部で作られている小麦畑の一角で行うことにした。
薬草園は精霊結晶で四方を囲み、訓練場よりマナ濃度を上げている。
そしてその精霊結晶に魔力を注ぐ事により、一定時間だが薬師だけでもさらにマナ濃度を上げることが出来る仕組みだ。
これは薬草の成長を早める為に作った仕掛けなのだが、用途は違うが『契約の儀』に打って付けの場所と言っても良い。
今日この日だけは薬師部隊に迷惑をかけるが入らないようにと事前通達してある。
「それではこれより『契約の儀』を執り行う!」
俺の宣言と共に四方に設置された精霊結晶の像が光りを帯び、小麦畑が一面黄金色に輝きだす!
そして結界内に高密度のマナが充満したとき、飽和したマナの粒子が空気中にキラキラと輝きだした。
すると辺りに存在していた、この邸内のマナ濃度でも薄っすらとしか見ることが出来なかった、まだ弱小で存在が確定していなかった精霊オーブがはっきりと視認できるようになる。
多分先程までは、この場所にこれほど多くの精霊が居た事を、マナに敏感な精霊部隊の者しか感じ取れていなかっただろう。
精霊部隊の彼らでも、存在は感じつつも視認できていなかったのだから。
辺り一面黄金に輝く小麦畑。
空気中にキラキラと輝くマナの粒子。
その幻想的な光景に色取り取りのオーブが顕現し情景を彩る。
『わぁ~~ きれい』とエミリアとポートの感嘆する声が聞こえる。
ラモットとマルケは目を見張り言葉を失っているようだ。
俺にとってはこの頃よく見るこの光景も、総隊内ではまだ限られた者しか見た事は無い。
この情景を初めて見る者はおとぎの国に迷い込んだ錯覚に陥るようだ。
「ではラモット始めましょう。 精霊を呼び出してください」
「はっ!」
ラモットが両手を握りしめ目を瞑り祈る。
「自由なる風の精霊ウインドエレメントよ、わが呼びかけに答えその姿を現し賜え」
するとラモットの側にポワッと『風の精霊ウインドエレメント』が顕現する。
その様子を見る限り、二人は良い関係を築けているようだ。
今回の『契約の儀』は時間が無かったラローズ先生の時とは違い、準備も環境も時間をかけて整えて来た。
術者と精霊の相性も納得がいくまでやり直し試してきた。
失敗するイメージは無いが、念のため俺も上位精霊を顕現させておく。
反則だからラローズ先生の時のような強引な契約は避けたいが……
危ない時は手を出そうと思っている。
俺がシルフィードを顕現させると……
ウンディーネが『やれやれ……』と言う顔をしているが、止める気は無いようだ。
渋々ながらも了承してくれたのだろう。
ウンディーネも他の上位精霊達も総隊員とは少なからず関わって来た。
ラモット達もここで過ごす事で少しは上位精霊達と縁を結べたようだ。
「風の精霊ウインドエレメント様。 どうか私と契約を結び、力をお与えください」
ラモットが精霊に契約を持ちかける。
ラローズ先生の時はこの後ウォーターエレメントと掛け合いになり……
交渉は失敗に終わったのだ。
しかし今回ラモットとウインドエレメントは掛け合う事も無く、ウインドエレメントがニコッと笑ったような気がした。
そしてそのままラモットは契約の呪文を唱えだす。
“ウインドエレメントに告げる!
我に従え! 汝の身は我の下に、汝の魂は我が魂に!
マナの寄る辺に従い、我の意、我の理に従うのならこの誓い、汝が魂に預けよう———!”
≪――συμβόλαιο(契約)――≫
『ラモット、其方との契約を認めよう!』
風の精霊ウインドエレメントとラモットのマナが繋がる様子が、高濃度のマナのお陰で可視化され見る事が出来る。
ラモットの『契約の儀』は無事成功した。
『契約の儀』を終えたラモットは俺の方へ向き直り深々とお辞儀した。
そしてラローズ先生の元へ駆け寄り、涙ながらに頭を下げていた。
ラモットと俺が出会ってから既に五年以上の月日が経っている。
この五年間、お世辞にも特別才能豊かと言えなかったラモットは努力だけは誰よりもしてきた。
その努力が今日結ばれたのだ。
隣で笑顔を見せるウンディーネも、ラモットには一方ならぬ思いが有るようだ。
ラモットの『契約の儀』の成功で精霊部隊全員に笑みがこぼれる。
皆『大丈夫!』と自分に言い聞かせるも、やはり不安は完全には拭い切れていなかったのだろう。
一番手のラモットの成功で、不安は自信へと変って行った。
それからは――
エミリアが氷の精霊アイスエレメント。
マルケが火の精霊ファイアエレメント。
と順調に無事、契約を済ませる事が出来た。
明けましておめでとうございます。
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m(_ _)m




